人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アメリカ喜劇映画の起源(17)マルクス兄弟5

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 シナリオも書かない、監督もしないマルクス兄弟がなぜ驚異的な一貫性を一ダースほどの主演映画で保ち続け得たのかは、存在感だけで抱腹絶倒の極端に非現実的なキャラクターを映画デビュー以前からすでに確立しており、シナリオライターや監督が変ってもマルクス兄弟のキャラクターは変らなかったからです。三人の比重は同等とはいえクレジットではグルーチョ・ハーポ・チコの順で実年齢とは逆でしたが、あまりにデフォルメされたキャラクターのために徹底的に年齢不詳の兄弟でした。

 独立プロから単発制作された最後の二本を除くとマルクス兄弟映画は1929年~1941年に年一作のペースで制作され、平均年齢40歳の兄弟は12年を映画界の第一線で活動しましたが、メジャー最終作でも平均年齢52歳には見えません。マルクス兄弟のキャラクター造形は舞台劇では俳優の実年齢や性格と配役は別なのと同様で、チャップリン、ロイドやキートンのように俳優の肉体年齢や性格が役柄に投影されるのではなかった。マルクス兄弟は最初から最後までマルクス兄弟を演じていたのです。

 マルクス兄弟映画はパラマウント社からの前期五作とメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社からの後期六作に大別でき、マルクス兄弟のキャラクターは不変なのに制作会社の社風でこうも異なる映画になってしまうのかと、大衆文化論の事例にできそうなほどです。現在ではマルクス兄弟の二大傑作はパラマウント社最終作の『我輩はカモである』33とメトロ移籍第一作『オペラは踊る』35という評価に落ち着いていますし、喜劇映画ベスト10投票などでは通常この二作は二作とも入選します。片や最終作、片や移籍第一作となるとパラマウントでは上り坂、メトロでは下り坂かと思われそうですが、それも事実です。

 パラマウントでの兄弟は、『けだもの組合』『いんちき商売』『御冗談でショ』などのタイトルが示す通り詐欺師とこそ泥といかさま賭博師でした。『カモ』33ではついに彼らは架空の独裁国の君主とその従者になり専制国家万歳の不条理喜劇を演じますが、33年はヒトラー内閣が成立、アメリカの世論はナチ党の動向に期待をかけていました。マルクス兄弟ユダヤ人であり、この傑作は不評ばかりか興行的に失敗して映画会社移籍の原因になります。そこで兄弟の役柄はそのまま、『オペラ』からは勧善懲悪コメディに路線変更されたのです。