アレンさんはあと二か月で77歳になる
デイヴィッド・アレンさんは1938年1月13日生まれだから、あと二か月と少しで77歳になります。アレンさんの最初のバンドはアマチュアのデイヴィッド・アレン・トリオで、四人編成になりソフト・マシーンと改名して当時ピンク・フロイドとタメを張る最先端のヒップなバンドになったのですが、レコード・デビュー以前にヨーロッパ・ツアーを行って帰国しようとしたらリーダーのアレンさんには入国許可が下りなかった。麻薬所持が原因で、実際はメンバー全員が嗜んでいたのですがアレンさんがリーダーだから管理していたのが裏目に出たのです。アレンさん以外の三人は帰国してアルバム・デビューします。ピンク・フロイドでもセカンド・アルバムの制作中にリーダーのシド・バレットが麻薬乱用から統合失調様状態になって脱退し残りのメンバーでバンドを建て直す、という事態になって、シド・バレットはその後二枚のソロ・アルバムを出したが慢性的な精神疾患に進み、糖尿病から片足切断にもなり、一度も復帰しないまま2006年に亡くなりました。生年はアレンさんより10歳若い世代でしたがロック・ミュージシャンは大学在学中くらいの年齢でデビューするのが当時も今も普通で、アレンさんのように30男のデビューはロックでは晩熟でしょう。
ライヴァル・バンドだったのは事実としてもシド・バレットが悲劇の天才ミュージシャンのように語られ神格化されるのに較べ、デイヴィッド・アレンはラリパッパのヒッピー・ミュージシャンの親玉か、良くてもプログレッシヴ・ロックのお笑い芸人のように言われます。この人は天性の陽性で、良くも悪しくもヴェテラン・ミュージシャンが逃れられない垢のようなものとはほとんど無縁なのです。たとえばこのアシッド・マザー・ゴングの合成ジャケットなど!
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ゴングは1970年の"Magick Brother,Mystic Sister"でデビューしましたが、これはセッション色の強いサイケデリック・フォーク・ロックのアルバムでした。ですが翌年のセカンド・アルバムでは一気にゴング独自の変態サイケデリック・プログレッシヴ・ジャズ・ロックを確立します。アルバム冒頭のピヨーンというシンセサイザー音は、宇宙人が「見えない電波の精」になって下りてきているのを表します。これが1973年~1974年発表のアルバム三部作"Radio Gnome Invisible"に発展していくのです。このセカンド・アルバムには『ユー・キャント・キル・ミー』『ダイナマイト』『シリーン』などゴングを代表するライヴでも定番のキャッチーな曲が収められていることでも欠かせません。メンバーでは夫人のジリ・スミスの「スペース・ウィスパー」は前作譲りですが、サックスとフルートのディディエ・マルレブはゴングの看板プレイヤーになり、またドラムスのピップ・パイルはゴングのジャズ・ロック・スタイルを決定することになりました。ギターはアレンさん自身が弾いていて、この後スティーヴ・ヒレッジという悶絶ギタリストが入るとアレンさんはヴォーカル専任になりますが、最近のライヴ映像を観てもリード・ギタリスト不在の編成ではギンギンにリード・ギターを弾きながら歌っています。上のステージ写真は2009年のものですが、今だにバリバリの現役の、ミック・ジャガーとキース・リチャーズを合わせたようなすごいじいさんなのです。
https://www.youtube.com/watch?v=Z8c-Nl_r9Zs&feature=youtube_gdata_player
Gong-"Camembert Electrique"(Full Album)1971.10
Side one
"Radio Gnome Invisible" (Daevid Allen) ? 0:26
"You Can't Kill Me" (Allen) ? 6:23
"I've Bin Stone Before" (Allen) / "Mister Long Shanks" (Allen) / "O Mother" (Allen) ? 4:53
"I Am Your Fantasy" (Gilli Smyth, Christian Tritsch) ? 3:41
"Dynamite" / "I Am Your Animal" (Smyth, Tritsch) ? 4:32
"Wet Cheese Delirium" (Allen) ? 0:29
Side two
"Squeezing Sponges Over Policemen's Heads" (Allen) ? 0:13
"Fohat Digs Holes in Space" (Allen, Smyth) ? 6:24
"And You Tried So Hard" (Tritsch, Allen) ? 4:39
"Tropical Fish" (Allen) / "Selene" (Allen) ? 7:36
"Gnome the Second" (Allen) ? 0:26
Daevid Allen ("Bert Camembert") - guitar, vocals, bass guitar on "Tried So Hard"
Gilli Smyth ("Shakti Yoni") - space whisper
Didier Malherbe ("Bloomdido Bad De Grass") - saxophones and flute
Christian Tritsch ("Submarine Captain") - bass, lead guitar on "Tried So Hard"
Pip Pyle - drums
Eddy Luiss - Hammond organ and Piano
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ちなみに1994年になって発掘された"Camembert Eclectic"はセカンド・アルバムのためのリハーサル音源集ですが、当初はもっとガレージ的でハードでソリッドな、ロック色の強いレコーディングだったことがわかります。そこからオリジナリティの高い要素を抽出して制作されたのがこのセカンドだと知ると、勢いだけのヒッピー・バンドではない高度な音楽性に感心します。
アレンさんはあまり頓着のない人らしく、自分が創設して命名したソフト・マシーンもあっさり残りのメンバーに譲ってしまいましたし、このステージ写真は三部作を完成した1974年のアレンさんですが、やりたいことはやったのでメンバーにゴングの名義を譲って放浪に出てしまいます。数年間の放浪の末にニューヨークにたどり着いて、現地の若手ミュージシャンとニューヨーク・ゴングを結成。ビル・ラズウェルを含むこのバンドは、アレンさんが去った後マテリアルとして再デビューしました。同じ頃からアレンさんと別れたジリ・スミスさんがマザー・ゴングを結成、さらにアレンさんやジリさんもゴングに出戻ったり、ゴング本体よりマザー・ゴングにゴング歴の長いメンバーが集まったりして何だか膨大なファミリーになっています。しかしアレンさんのゴングの真髄は1970年~1974年の6作、『マジック・ブラザー~』『カマンベール~』『コンチネンタル・サーカス』、そして三部作「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」の『フライング・ティーポット』『エンジェルス・エッグ』『ユー』に尽きるでしょう。
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何を隠そう初めて買ったゴングのアルバムは『エンジェルス・エッグ』で、当時はサイトや資料本もないので輸入盤や中古盤をカンだけで買っていましたが、あれほど買ってすぐ後悔したのは他にはマグマの『コーンタルコス』くらいでした。生理的に気持が悪くなるほど受け付けませんでした。ですが、25年あまりかけて、一年おきくらいにゴングとマグマのアルバムを買っていくと(周期的に克己心がわくのです)、2010年を過ぎていきなりゴングとマグマの良さがしみじみわかったのです。それまでに全アルバムの半数には届いていたので、発掘録音含めて公式アルバムはほとんど揃えました。どちらも1970年デビューのバンドですが、現役感にはいささかの衰えもありません。マグマは相変わらず一目でマグマだとわかるシンボル・マークをジャケットにしていますし、ゴングはアレンさんがジャケットのアートワークを手がけ、自筆のラリパッパなイラストや悪趣味なコラージュをジャケットにしています。
ゴングは曲になっていないような曲と曲らしい曲が半々で、『エンジェルス・エッグ』でアルバム後半のハイライトになっているのが"I Never Glid Before"です。ご紹介する動画はテレビ出演のスタジオ・ライヴですが、とにかくアレンさんがまるで地球外生物のように面白くて、どういう動きをするか予想がつかないので、思わず釘付けになってしまいます。最近のライヴをサイト動画で観ても実にこう、立っているだけでふざけた存在感のある人で、ロックンローラーというのは本来こういう人を言うのではないでしょうか。このスタジオ・ライヴ、メンバーがスクラム組んで宇宙電波を受信するところから始まり、アレンさんは間抜けを表すとんがり帽をかぶり、顔面で歌っています。曲は凝っているしメンバーはテクニック抜群ですが、それが全部アホのためにエネルギーをそそぎこんでいるとなると、アレンさんの功績の偉大さがしのばれるではないですか。
Gong-"I Never Glid Before" : French TV,1974
https://www.youtube.com/watch?v=iiy5K81qvbg&feature=youtube_gdata_player