だがこれはついこの間ご紹介した鍋焼きうどんとどう違うのかと言えば、あちらには切り落とし焼豚が2枚載っていたのに対してこちらは小エビ入り天かすが盛ってある、というだけの違いしかない。だがそれだけで味わいは相当異なるもので、焼豚の方は煮込んである分、出汁が全体に染み通っている。一方天かすは鍋焼きうどんが出来上がってから載せるので適度な食感も楽しめるが、こちらは衣(と言っても天かすはただの揚げ玉だが)から次第ににじみ出てくる食用油が麺や具を包み込んだような、やはりまろやかな味わいになる。
たぬきうどんの語源は知らないし、せいぜいきつねうどんと対になって定着した品名くらいのものだろうが、それだけでは大してありがたくもない天かすがうどんやそばに加わると、まさにマジックとしか言いようのない味わいをかもし出す。そこでたぬきという命名の妙味が知れてくる、ということだろう。やはりこれも冬にはいっそう美味しく頂けるものだ。西洋料理や中華料理にはない簡素な味わいがある。玉子の食べ方も、鍋焼きうどんの具として煮込むのがおでんと並んで最高の味わいなのではないかと思えてくる。