人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Van Der Graaf Generator - Godbluff Live (1975)

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Van Der Graaf Generator - Godbluff Live : http://youtu.be/k6b4lxDCQNU
Recorded live at Charleroi, Palais Des Expos, Belgium, 27.09.1975
01. The Undercover Man
02. Arrow
03. Scorched Earth
04. The Sleepwalkers
[Personell]
Peter Hammill - vocals, electric piano, guitar
Hugh Banton - organ, bass guitar
David Jackson - saxophones, flutes, devices
Guy Evans - drums, percussion

 このテレビ放映用スタジオ・ライヴは当時の最新作『ゴッドブラフ』の全曲演奏映像になる。ベルギーのテレビ局は偉い。観客などいないのに拍手と歓声を被せているが、それも大目に見る。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターは本国イギリスでは事実上のデビュー作であるセカンド・アルバム(ファースト・アルバムは元々リーダーのピーター・ハミルのソロ・アルバムとして制作され、アメリカでワンショット契約で発売されただけだった)がチャート下位に入っただけで、メジャー傘下のインディーズに所属しているとはいえレーベル・メイトのジェネシス(ピーター・ガブリエル在籍時)に輪をかけてアンダーグラウンドなバンドだった。それでもジェネシス同様ヨーロッパ諸国で人気を博した。ジェネシスが後にどうなったかは申し上げるまでもないが、ヴァン・ダー・グラーフは78年に一旦解散するまでもアンダーグラウンドなバンドだったし、2005年以降現在まで再結成し活動している今日もなおアンダーグラウンドな存在という天晴なバンドなのだ。『ゴッドブラフ』にしても、前作『ポーン・ハーツ』1971で一旦解散した後の再結成アルバムだった。アルバム『ゴッドブラフ』の曲目・演奏時間は次の通りになる。

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"GODBLUFF" 1975
SIDE A1. The Undercover Man (7:00)
SIDE A2. Scorched Earth (10:10)
SIDE B1. Arrow (8:15)
SIDE B2. The Sleepwalkers (10:26)
Total Time: 35:51
Recorded 9?29 June 1975 at Rockfield Studios
Released October 1975/UK Charisma Records

 ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターがどれだけヨーロッパ諸国で人気があったかというと、イタリアの音楽誌の1971年年間ベスト・アルバム・トップ10を見るとわかる。これがすごい。眼を疑う。

・次点 - イエス『危機』
・10位 - 『レッド・ツェッペリンIV』
・9位 - ミーナ『ミーナ』
・8位 - ジョン・レノン『イマジン』
・7位 - ジョージ・ハリスンバングラデシュ・コンサート』
・6位 - ファブリツィオ・デ・アンドレ『Non Al Denaro Non All'Amore Ne Al Cielo 』
・5位 - キング・クリムゾン『アイランド』
・4位 - ジェネシス『怪奇幻想骨董箱』
・3位 - エマーソン、レイク&パーマー『展覧会の絵
・2位 - プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ『幻想物語』
・1位 - ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター『ポーン・ハーツ』

 プレミアータはデビュー作でチャートNo.1に上がった71年最大のイタリアの新進バンド、ファブリツィオ・デ・アンドレプレミアータや新進バンドのニュー・トロルスらと好んでコラボレーションした新世代のカンタウトーレ(シンガー・ソングライター)だったからイタリア国内的には上がるだろうが、『危機』や『レッド・ツェッペリンIV』を押さえてミーナが9位に入るのが素晴らしい。上位になるにつれ冗談度が増してくるが、特にクリムゾンの渋い名盤『アイランド』からの上位5位がすごい。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターで落とすか普通、と日本でも英米でも呆気にとられるところだが、ベルギー以外でも仏、独、伊、でもVDGG(以下こう略す)の人気はジェネシスジェスロ・タル、ジェントル・ジャイアントと並んでピンク・フロイドやイエスキング・クリムゾンと同等以上のものがあり、特にタル、ジェネシスVDGGは強力なカリスマ・ヴォーカリストの存在がでかかった。
 だが日本でどれだけ聴かれているだろうかと思うと心許ない。21世紀に再結成する以前、70年代のVDGGのアルバム・リストはこうなる。

[ Van Der Graaf Generator Album Discography ]
1.The Aerosol Grey Machine (September 1969, Mercury/Fontana)
2. The Least We Can Do Is Wave to Each Other (February 1970, Charisma/Probe) UK#47
3. H to He, Who Am the Only One (December 1970, Charisma/Dunhill)
4. Pawn Hearts (October 1971, Charisma)
5. Godbluff (October 1975, Charisma/Mercury)
6. Still Life (April 1976, Charisma/Mercury)
7. World Record (October 1976, Charisma/Mercury)
8. The Quiet Zone/The Pleasure Dome (2 September 1977,Charisma/Mercury)
9. Vital (July 1978, Charisma/PVC)

 一応全アルバムがLP時代に日本盤で発売されているし、けっこうな量の輸入盤LPが中古盤屋で安い値をつけていた。つまり試しにバーゲン品(当時のアメリカ盤はカットアウト盤といって、売れないアルバムはジャケットの角に切り込みを入れて半額以下のバーゲン品にする、という流通方法があった)を買って聴いてみたはいいが面白くないので中古盤屋に売ってしまうわけだが、VDGGはそんな水子のような存在だった。しかし熱心に聴いていた人も少数ながらいて、日本ではそうした粘り強い少数派の支持を受けて廃盤になっては再発売、また廃盤になっては再発売を繰り返してきたのだ。
 VDGGは同時代のどのアーティストよりも非商業的で我慢大会のような音楽でもあって、我慢の果てに聴いているとふといつの間にか馴染んで聴き入ってしまう、というようなバンドでもあった。音楽的な呪縛力ではキング・クリムゾンと双璧な、強迫性の強いバンドだった。ヨーロッパ圏での人気は影響力にも反映していて、独仏伊のバンドに管楽器のソロイスト入りが多いのはタル、ジェネシス(フルート)、クリムゾン、VDGG(サックス&フルート)の影響が大きいだろう。後期クリムゾンやVDGG木管楽器に代えてヴァイオリニストを迎えたが、ヴァイオリン入りの編成はクリムゾンやVDGGの影響を待たずともフランク・ザッパやPFMがやっていたし、ユーロ圏なら自然に出てくる発想だと思う。だがメロトロンの使用法は『クリムゾン・キングの宮殿』を抜きには考えられないだろう。

 VDGGの魅力はサックスまたはフルート、オルガン、ドラムスのトリオの緊密なプレイと、ピーター・ハミルのテンションの高いヴォーカルの訴求力を前提としても、異様に胃にもたれるゴツゴツと凝った楽曲あってこそ、と思える。21世紀になってからの再結成VDGGは当初サックス&フルートのジャクソンも加わっていたが他のバンドとのセッション活動(オザンナとの共演盤などがある)が活発になったすえにバンドを離れてしまったため、ヴォーカル以外はギターを弾くことが多かったハミルがギターよりキーボードの比重を高め、バントンとの2キーボードにエヴァンスのドラムスというトリオ編成になってしまった。
 典型的なVDGGサウンドと言えば、陰険で攻撃的な変拍子のリフをヴォーカルとサックスとキーボードがユニゾンで強迫的に反復するもので、サード・アルバム『天地創造』冒頭の『キラー』、『ポーン・ハーツ』冒頭の『レミング』などこれでもかといわんばかりに変拍子ニゾン・リフがくどい。この重苦しさが快感となるか、全然乗れなくて中古盤屋に売ってしまうかの分かれ道なのだが、21世紀VDGGはトリオ編成になったらその辺が淡白になってしまった。ジャクソンのサックス&フルートは大したことやってなさそうで、実はサウンド・カラーを握っていた。

 VDGGのようにヴァーチュオーソ・タイプのプレイヤーのいない(アルバムとライヴで演奏時間にほとんど差がないのに注意)バンドでは、そうした手法は逆にバンドの個性を前面に打ち出すためには有効になる。この『ゴッドブラフ』ライヴでは、そのタイプの名曲は『アロウ』だろう。リフを反復するうちにどんどんハミルのヴォーカルのテンションは上がって行く。それを朴訥にユニゾンしているサックスがなければ、この曲は決まらない。
 全4曲のどれもが欠かせず、特にアルバムでもスタジオ・ライヴでもクライマックスになっているのが『ザ・スリープウォーカーズ』で、イエスの『リレイヤー』1974でもケチャのリズムを取り入れた『サウンド・チェイサー』という曲があったが、VDGGのこの曲のリズム・チェンジはイエスのように洗練されていないのがVDGGらしいと聴ける。だいたいVDGGのアルバムは『天地創造』でロバート・フリップ(キング・クリムゾン)がゲスト参加で1曲リードギターを弾いている以外は、ハミル自身の弾くギター(アコースティックの場合が多い)が鳴っている程度のもので、ハミルもキーボードに回るとギターレスの2キーボードになる。そうした時はジャクソンのエレクトリック・サックス(サックスのネック部分にピックアップを装着するもの)がモノを言っていた。

 VDGGは2作目(ベーシスト不参加で、バントンがペダル・ベースを導入するのは3作目から)と、ヴァン・ダー・グラーフと短く改名してジャクソンが抜け、ヴァイオリンのグレアム・スミスが加わった8作目がやや弱いが悪くはなく、壮絶な解散ライヴの『ヴァイタル』は賛否両論だが、まず全アルバムに聴きどころがあるバンドだろう。『スティル・ライフ』のタイトル曲、『ワールド・レコード』の『ワンダリング』、さかのぼってファースト・アルバムの『ネクロマンサー』など、折りに触れ無性に聴きたくなる曲がどのアルバムにもある。キング・クリムゾンなら『レッド』に当たる終末的作風がVDGGではセカンド・アルバム以降の全アルバムという感じがする。