人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - In Search Of Space (United Artists, 1971)

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Hawkwind - In Search Of Space (United Artists, 1971) Full Album : http://youtu.be/7gGPv9hngk4
Recorded Olympic Studios, 1971
Released 8 October 1971 United Artists UAG29202, UK#18
(Side A)
A1. "You Shouldn't Do That" (Turner/Brock) - 15:42
A2. "You Know You're Only Dreaming" (Brock) - 6:38
(Side B)
B1. "Master of the Universe" (Turner/Brock) - 6:17
B2. "We Took the Wrong Step Years Ago" (Brock) - 4:50
B3. "Adjust Me" (Hawkwind) - 5:45
B4. "Children of the Sun" (Turner/Anderson) - 3:21
[Personnel]
Dave Brock - vocals, electric guitar, 6 and 12 string acoustic guitars, harmonica, audio generator
Nik Turner - alto saxophone, flute, vocals, audio generator
Del Dettmar - synthesizer
Dik Mik (Michael Davies) - audio generator, electrics
Dave Anderson - bass guitar, electric and acoustic guitars
Terry Ollis - drums, percussion

 ホークウィンドも『絶体絶命』くらいなら人にお薦めして問題なかろう、でも本来のホークウィンドなら『宇宙の祭典』だよなあ、実はデビュー作が案外好ましい佳作なんだよな、と紹介してきたら、今はロックはホークウィンド漬けになってしまった。他に何を聴いているかといえば大半は黒人音楽ばかりなので、白人ロックなど聴く気が起こらない。ところがホークウィンドは、黒人音楽のルーツをほとんど残していないロックなのに、それらと並べて聴いて独自性を主張し得る数少ないロックバンドなのではないかという気がしてきた。
 白人ロックを黒人音楽と比較して痛感するのはリズムの豊さが乏しいことで、ホークウィンドも大半は何だかんだいって8ビートのロックンロールをやっている。しかもリズムが揺れて下手に聴こえる。深いリヴァーヴやシークェンサー・ノイズで楽器のアンサンブルがぐちゃぐちゃになっているからだが、どうもこれは担当楽器が「オーディオ・ジェネレーター」となっているディック・ミックの仕業じゃないかとわかってきた。従来の文献では「周波発振器」と訳されてきたが、どうも違うようだ。

 ホークウィンドの場合、ライヴ音源を聴き、また同じ曲をスタジオ盤で聴いてみても音響処理はほぼ同じなのに気づく。これはディック・ミック脱退後の74年以降のホークウィンドではさほど目立たないのだが、それは作風やアレンジの変化に伴うもので、やはり音響処理にはスタジオ盤でもライヴでも相当気を使っているバンドなのがわかる。もっとも過激だったのはデビュー作から『宇宙の祭典』に至る初期4作で、サックスやフルートとギターやシンセサイザーの音色が加工されて区別がつかず、しかもディレイやリヴァーヴによって実音よりエフェクト音の方が強調され意図的にリズムの揺れを発生させている。早い話、演奏と同時進行してリミックス作業が行われているわけで、1970年にホークウィンドはダブやハウスの手法をスタジオ録音でもライヴでも行っていた。
 音響処理を重視するとリズムの処理が困難になる。当時これをやっていたのはカンやタンジェリン・ドリームクラフトワークなどドイツの前衛ロックバンドくらいで、クラフトワークの分家のノイ!は直進的な8ビート、カンの場合は執拗な反復リズム、初期クラフトワークやタンジェリンとその分家のクラスターはリズム構造そのものを音楽から排除する手法をとっていた。

 ホークウィンドのアプローチはノイ!に近いがノイ!より早く、さらに大胆で、ディレイやリヴァーヴによる残響が実音とポリリズム効果を生んでいる。これだけ音色を加工されるとプレイヤーたちも自分の出している音の区別がつかなくなるから、ビートだけは極力単純な頭打ちの8ビートに決める。どれだけ加工されているかといえば、冒頭の『ユー・シュドゥント・ドゥー・ザット』のイン・テンポになるまでの間に鳴っている楽器の音を即座に正確に答えられるには、ある程度バンドで各種楽器と共演経験がないと無理だろう。
 また、当時のシンセサイザーはモノフォニックだから、単音だけで和音が出せない。デル・デトマーはオルガンやピアノを兼任するシンセサイザー奏者ではなかった。ディック・ミックはスタジオ録音でもライヴでもバンドの演奏中に全部の楽器をミキサー卓で操作し、通常のロックバンドのライヴ演奏では聴けないようなサウンドを作り出した。これはグレイトフル・デッドフランク・ザッパがライヴ音源をスタジオ処理してライヴとスタジオ録音のリミックスをレコード化していた前例があるのを参考にしているはずだが、ホークウィンドはそれを最初からライヴでやってしまうという思いついても誰もやらない手口を実行した。

 何で普通は誰もやらないかといえば、ライヴ中にミキシングで音色ばかりかバランスを変えられ、ディレイやリヴァーヴまで切り替えられるとバンドのアンサンブルが通常は滅茶苦茶になる。だがホークウィンドはそれもディック・ミックに一任して、アンサンブルの軸はベーシストの演奏に主導させた。木管楽器もギターもシンセサイザーも調性や和声をほとんど決定しないから、ベースだけが調性も和声もリズムも掌握していることになる。
 デビュー作のメンバーからリード・ギターのヒュー・ロイド=ラントンが健康問題で抜け、ベーシストが元アモン・デュールII(『神の鞭』1969、『地獄』1970に参加)のデイヴ・アンダーソンに代わり、ディック・ミックがオーディオ・ジェネレーターにまわってシンセサイザーにはデル・デトマーが加入した。唯一テクニカルなプレイヤーだったロイド=ラントンの脱退も発想の転換には有利に働いたと言える。

 デビュー作は極端に言えば曲らしい曲は2曲しかなかったが、今回は曲も粒ぞろいになっている。A1、B1は今日に至るまでもバンドの代表曲で、ヘヴィ・アシッドなコズミック・ロックのA1は普通この曲想では16分も持たないのだが、ホークウィンドはやってのけてしまう。B1『マスター・オブ・ザ・ユニヴァース』はターナーのヴォーカル曲でブロックとの共作。ホークウィンドの看板みたいな曲になったが、アンダーソンはリフの考案は自分だと共作を主張しているらしい。裸のラリーズがもっとも影響されたホークウィンドの曲はこれだろう。
 意外にもこの2曲以外はヘヴィなアシッド・ロックながらフォーク系で、A2はスティーヴ・ミラー・バンドの『ジャクソン・ケント・ブルース』(アルバム『ナンバー5』1970収録)のリフを転用したもの、とブロックも認めている。B2はレッド・ツェッペリンの『限りなき戦い』を思わせるブリティッシュ・トラッド系フォーク曲。アコースティックなジャムセッション曲B3に続いて、アルバムは陰鬱なヘヴィ・アシッド・フォークの『チルドレン・イン・ザ・サン』で終わる。アンダーソンの在籍していたアモン・デュールIIの同種の曲に近い。

 デイヴ・アンダーソンはこの1枚きりで抜けたが、アンダーソン参加でメンバーはアモン・デュールIIのアルバムを聴き込んだに違いなく、デュールからの影響がもともとのホークウィンドのメンバーの志向性と合致するにはロイド=ラントンが抜けデトマーの加入したこのタイミングが僥倖だった。デビュー作より楽曲の出来や独自性も格段に向上している。これは美術家のバーニー・バブルスや詩人のロバート・カルヴァートらがデビュー作の発表以後ホークウィンドに注目し、ブレインとしてバンドの方向性に関わり、アルバムのコンセプトやアートワーク、ブックレットなどに協力するようになったこともある。確実にホークウィンドは上昇期に入り、初のチャート入りも果たした。
 一聴してデビュー作とそう違いなさそうなセカンド・アルバムだが、実際はサウンドの密度の高さが音楽的質的転換にすらなっている。中毒性では名盤『絶体絶命』よりも高く、金字塔『宇宙の祭典』よりも濃いかもしれない。ちなみにアメリカ盤は当時ジャケットのデザインからか『X in Serch of Space』が正式タイトルとされていたという。