人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Text Of The Festival (Illuminated Records, 1983)

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Hawkwind - Text Of The Festival (Illuminated Records, 1983) Full Album: http://youtu.be/ERmxjBHNWkU
Recorded BBC Sessions 1970-71
Released July 1983 Illuminated Records JAMS29
Any Compact Disc-Version omitted Side D
(Side A)
A1. Master Of The Universe (Nik Turner, Dave Brock) - 6:00
A2. You Know You're Only Dreaming (Brock) - 4:15
A3. You Shouldn't Do That (Turner, Brock) - 5:52
A4. Hurry on Sundown (Brock) - 6:20
(Side B)
B1. Paranoia/Seeing It As You Really Are (Hawkwind) - 11:50
B2. We Do It (Hawkwind) - 13:45
(Side C)
C1. You Shouldn't Do That (Hawkwind) - 21:35 (listed as Sound, Shouldn't, Improvise)
(Side D)
D1. The Reason Is? (Hawkwind) - 11:35 into~ Be Yourself (Hawkwind) - 5:51 (listed as Improvise, Compromise, Reprise)
(Chronological Order)
Track A4: Maida Vale, 18-Aug-1970
Track B1: Paris Cinema, London, 5-Nov-1970
Track C1 & D1: Recorded at Colchester Technical College, 19-Feb-1971
Track B2: Playhouse, London, 19-Apr-1971
Track A1-3: Maida Vale, London, 19-May-1971
[Personnel]
Dave Brock - guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Huw Lloyd-Langton - guitar (track A4)
Thomas Crimble - bass guitar (tracks A4,B1,C1,D1)
Dave Anderson - bass guitar (tracks A1-3,B2)
Dik Mik Davies - synthesizer
Terry Ollis - drums

 筆者が購入したアナログ盤は1988年のサンダーボルト・レーベル(独)の2枚組だったと思う。初LP化の1983年イリュミネイテッド盤ではなかったが、仕様も同じ、つまりライヴ盤らしいということはジャケットやタイトルからわかったが、クレジットは全然なかった上にC面、D面の曲名からわかるように曲目すら正確ではなかった。もっともC面とD面は実質1曲ずつの長尺インプロヴィゼーション演奏だから、あえて別タイトルにする根拠はある。
 実はこのBBC音源集(と後から資料を調べてわかった)はAB面だけを収めて『In thd Beginning』『Masters of the Universe』など別タイトルでCD化され、別タイトル盤はAB面の曲名も滅茶苦茶な誤記があったため『ザ・テキスト・オブ・フェスティヴァル』とは別物のように流通してきた。確認できるだけでもアナログ2枚組の『ザ・テキスト・オブ・フェスティヴァル』が世に現れてから、20種類あまりの新装再発盤が発売されているが、情けないのは収録時間の関係でCDではD面をオミットしたヴァージョンしか存在しないことで、1988年のサンダーボルト盤2LPは中古店ではそれほど珍しくないからアナログ視聴環境にある方はそちらをお勧めする。アナログ2枚組の新品のプレスもPlastic Head Americaからリリースされており、前記曲目リストでは訂正したがB3に"Comin' Home"収録と記載、というジャケットやレーベルの誤記も訂正されている。またC面とD面の曲名表記も原曲の曲名に戻されている。

 入ってもいない曲目が記載されていたのは、それは元々のBBCライヴでB2"We Do It"と"Comin' Home"が連続していたために起こったケアレスミスらしく、"Comin' Home"は1982年の"Weird Tape Vol.6"や86年の"Hawkwind Anthology Vol.3"に収録されている。どちらも自主制作の通信販売カセット・アルバムで、現在は堂々とCD化されているから怖い。さらに調べてみると、CDはおそらくアナログLPからの盤起こしという代物で、プラスチック・ヘッド盤はサンダーボルト盤以来ようやくLP当時のマスターを使っているのではないか。CD化に当たってかえって音質が劣悪になるという見本になっている。また、この曲目と同一曲目がラジオ放送された記録も一応あるらしいが、放送用マスターとしては音質が悪すぎるから同一演奏・別マスターという可能性も高い。
 つまりBBCセッションのテープが見つからない、または取り寄せるのに手間がかかる。幸いバンド側が記録用録音を同時にしていたので(またはエアチェック・テープ)、サウンド・クオリティはだいぶ落ちるがそれをマスターテープにしてアルバムにしてしまった。そういう可能性が高いのは、正規のBBCセッション・マスターなら最初はBBC関連のレーベルから放送音源と大きく謳ってリリースするものだからだ。そうしないのは、やはり正規マスターでない音源をソースにしている疑いが濃い。

 演奏内容について言えば、これがデビュー作『ホークウィンド』からセカンド・アルバム『宇宙の探求』に至る時期の、もっともスタイルの確立に重要だった時期のライヴを捉えていることで注目される。それは録音順に並べ替えて整理すると、よりいっそう強く感じられる。まず、デビュー・アルバム『ホークウィンド』は70年8月14日発売だったが、ベーシストはレコーディング・メンバーのジョン・A・ハリスンから早くもトーマス・クリンブル(参加アルバムなし)に替わっている。
●A4『ハリー・オン・サンダウン』Maida Vale, London, 18-Aug-1970
 では、ヒュー・ロイド=ラントンのテクニカルなギターソロが光る。ロイド=ラントンはすぐに健康問題から脱退してしまうのだが、79年に復帰して80年代ホークウィンドを支えるプレイヤーになる。だが70年代前半のホークウィンドには音楽的にも相性が悪かったタイプのギタリストだろうと思われる。
●B1『パラノイア~シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』Paris Cinema, London, 5-Nov-1970
 はロイド=ラントン脱退直後のバンドの演奏で、『ホークウィンド』では16分ほどの演奏だが、ここではテンポの速さもあって11分50秒と、かなり短い。
●C1 & D1『ユー・シュドゥント・ドゥ・ザット』『ザ・リーズン・イズ』~『ビー・ユアセルフ』Recorded at Colchester Technical College, 19-Feb-1971
 これが問題の演奏で、C1は『宇宙の探求』では15分41秒、D1は『ホークウィンド』では11分31秒と、ライヴではどちらも6分あまり延長されている。ベースはまだトーマス・クリンブルだが、デビュー・アルバムのサウンドからは飛躍的にヘヴィで強迫的なニュアンスになっていて、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『シスター・レイ』や、アモン・デュールIIの『イエティ』さえ連想させる。
●B2『ウィ・ドゥ・イット』Playhouse, London, 19-Apr-1971
 ベースにアモン・デュールIIからデイヴ・アンダーソンが加入。スタジオ盤未収録のインスト曲で、反復ビートにディレイをかけたポリリズム効果をリズム・パターンにした、エルドンの手法を先取りしたような、このライヴ盤でも屈指の実験的サウンドの成功作。
●A1-3『マスター・オブ・ザ・ユニヴァース』『ユー・ノウ・ユア・オンリー・ドリーミング』『ユー・シュドゥント・ドゥ・ザット』Maida Vale, London, 19-May-1971
 10月発表の『宇宙の探求』収録予定曲をほぼ同一メンバーで(デル・デトマーがまだ未参加)。ここでの『ユー・シュドゥント・ドゥ・ザット』は5分52秒と短いが、『宇宙の探求』ヴァージョンと比較すると構成の緩いC1の長尺ヴァージョンより、インプロヴィゼーションが求心的で密度が高まっているのはA3のヴァージョンで、そこから再び『宇宙の探求』の15分41秒ヴァージョンへの再アレンジが行われたのが興味深い。

 総じてここで言えるのは、この音の悪いライヴ盤では、劣悪な音質がかえって演奏の迫力を高めており、同時代のブリティッシュ・ロック離れした音楽になっている。アモン・デュールIIの『神の鞭』やグル・グルの『UFO』、アシュ・ラ・テンペルのファーストのような阿鼻叫喚の地獄絵巻ロックが繰り広げられており、ヒュー・ロイド=ラントン在籍時のA4には唯一ロック的にかっこいいギターソロが聴けるが、このアルバムではもっとも録音時期が進んだA1~A3になるとサックスの音は音程を外れた呻き声になり、ギターのコード・カッティングは鉈のようで、鉄板のようなベースにふやけたような電子ノイズが絡みあう。CDになって曲も減り、音質までもっと悪くなったというのもホークウィンドらしい。下手をするとバンド側の記録用録音どころかオーディエンス録音がマスターかもしれないのだ。
 ホークウィンドの発掘録音、編集盤は収拾がつかないほどあるのだから、2枚組LPからD面をカットなんていうせこい真似はしないで同時期の未発表録音・既発表稀少録音でも追加して2枚組CDにすればこの『ザ・テキスト・オブ・フェスティヴァル』も少しは見直される貴重ライヴ・アルバムとなるだろうに。『ウィアード・テープ』や『アンソロジー』、『フレンズ・アンド・リレイションズ』などの限定プレスのオムニバス・アルバムから持ってきてきちんと編集すれば、そのくらいのことは難しくないはずなのだ。欲を言えば70年~71年のホークウィンドには新発見の決定盤ライヴが望まれる。