人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Hall Of The Mountain Grill (United Artists, 1974)

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Hawkwind - Hall Of The Mountain Grill (United Artists, 1974) Full Album : http://youtu.be/GAyCZxQUJEY
Recorded at Edmonton Sundown (January), Olympic Studios (May-June), London 1974
Produced by Roy Thomas Baker, Doug Bennett, Hawkwind
Released 6 September 1974, United Artists UAG-29672, UK#16, US#110
(Side A)
A1. "The Psychedelic Warlords (Disappear in Smoke)" 6:50
A2. "Wind of Change" 5:08
A3. "D-Rider" (Nik Turner) 6:14
A4. "Web Weaver" 3:15
(Side B)
B1. "You'd Better Believe It" 7:13
B2. "Hall of the Mountain Grill" (Simon House) 2:24
B3. "Lost Johnny" (Ian Kilmister/Mick Farren) 3:30
B4. "Goat Willow" (Del Dettmar) 1:37
B5. "Paradox" 5:35
(Remasters CD bonus tracks)
1. "You'd Better Believe It (Single Version Edit)" 3:22
2. "The Psychedelic Warlords (Disappear in Smoke) (Single Version)" 3:57
3. "Paradox (Remix Single Edit)" 4:04
4. "It's So Easy" 5:20
All songs written by Dave Brock except where noted.
[Personnel]
Dave Brock - lead guitar, 12-string guitar, synthesizer, organ, harmonica, vocals
Lemmy (Ian Kilmister) - bass, vocals, guitars
Simon House - synthesizer, Mellotron, violin
Nik Turner - saxophone, oboe, flute, vocals
Simon King - drums, percussion
Del Dettmar - keyboards, synthesizer, kalimba

 邦題『永劫の宮殿』といかにも重厚なブリティッシュ・ロック然としているが、実は「ホール・オブ・マウンテン・グリル」とはこのアルバムを録音したスタジオの近所のレストランの店名で、他に店がなかったので毎回そこで食事したが、大してうまくもないレストランだったという。いい話だ。アルバム・ジャケットからタイトルに壮大なイメージを浮かべていたら、ただの楽屋ネタだった意外性がある。
 実はこのアルバムはユナイテッド・アーティスツ時代の初期ホークウィンドでは今一つの印象を長く持っていた。アナログ盤当時に、さてホークウィンドでも聴くかという時に聴き返す回数のもっとも少ないアルバムでもあった。初期3作とライヴ『宇宙の祭典』のようなアシッド・ヘヴィ・サイケとしても、UAレーベル最終作『絶体絶命』のような統一感のあるプログレッシヴ・ロック路線としても中途半端な感じがする。過渡期に当たるアルバムという印象を持っていた。

 ところがCD化以降、実に雑多にガレージ、グラム・ロック、プレ・パンク路線と変化していく70年代後期のホークウィンド(カリズマ・レーベル時代)、80年代前半にはハード・ロック傾向が強まるブロンズ~RCAレーベル時代のホークウィンドも入手しやすくなってポツポツ集めて聴いているうちに、案外デイヴ・ブロックのバンドとしては一貫しているんじゃないか、メンバーの出入りが頻繁な上にその時々のメンバーにイニシアチブを振ってしまうから音楽性がコロコロ変わって見えるだけなのではないか、と思えてきた。有名どころではザ・バーズがそういうバンドだった。
 ザ・バーズのリーダーはロジャー・マッギンだが純粋にマッギン主導のアルバムはソロ・アルバムも同然の『イージー・ライダーのバラード』くらいしかない。ザ・バーズが続いていたのは正味7年弱だがホークウィンドは2015年でデビュー45年、スタジオ盤30作にライヴ10作、未発表スタジオ録音集・発掘ライヴ集やメンバーのソロ録音の持ち寄りオムニバス盤などが40作近くあるのだ。女性リード・ヴォーカルを迎えたアルバムすらあるし、ホークウィンド名義で出たソロ・アルバムも何枚かある。それでも基本はバンドの人で、やはりホークウィンド=デイヴ・ブロックと言っていい。

 初めて聴くホークウィンドのアルバムが『永劫の宮殿』や『絶体絶命』ならプログレッシヴ・ロックのバンドと思ってもおかしくない。実際にはブロック作のA1、B1、B5やターナー作の名曲A3、レミー作のB3など、『ドレミファソラシド』の楽曲からもそう違いがないのだが、アレンジ次第でこうも変わるかというほどサウンドに変化がある。オーディオ・ジェネレーター(サウンド・オペレーター)のディック・ミックが脱退してヴァイオリンとキーボードのサイモン・ハウスが加入し、ハウスのメロトロンやヴァイオリンを生かすため(ディック・ミックもいないし)これまでのような過剰な音色加工やエフェクト、エコーを止めて整然とした、空間を生かしたサウンドになった。
 その代わりサックスとフルートのターナーの出番がいきなり減ってしまった。アンサンブルを逸脱したプレイがターナーの役割だったからほとんど居場所がない。また、多彩でよく練られたアレンジのために、レミーのベースが全体をリードしていた時よりベースラインも抑え気味でミックスも埋もれがちになった。要するにターナーレミープログレッシヴ・ロックでは生きない人というか、サイモン・ハウスのアレンジでは活躍の場がなかった。

 ディック・ミックの脱退、ハウスの加入で居場所を失ったのはシンセサイザーのデル・デトマーも同じで、デトマーの演奏はサウンド・オペレーターのディック・ミックと二人三脚だったもので、そのプレイも効果音専門だったようなものだったから、やはりターナーレミー同様ハウスのアレンジの中では役割はほとんどない。デトマーは短いインスト曲B4を残すが、アルバム制作中に脱退してしまう。
 ブロックがなぜそこまでハウスに任せたかと言えば、プレイヤー&プレイヤーとして優秀だったからというのが一番だが、セカンド・アルバム『宇宙の探求』からバンドのブレイン兼作詞家を勤め、『宇宙の祭典』ではポエトリー・リーディングでライヴにも同行した詩人のロバート・カルヴァートが今回のアルバムでは作詞にも録音にも参加していないという事情もあっただろう。次作『絶体絶命』1975ではSF作家マイケル・ムアコックを招いて作詞とポエトリー・リーディングで参加してもらい、カリズマ・レーベル移籍後の『アスタウディング・サウンズ、アメイジング・ミュージック』1976、『クウォーク、ストレンジネス&チャーム』1977、『25年間』(ホークローズ名義)1978、『PXR5』1979の4作では復帰したカルヴァートがコンセプトや作詞、ポエトリー・リーディングどころかリード・ヴォーカルで事実上ブロックとの双頭リーダー体制になる。アルバム・コンセプトに協力者を必要とするブロックにとって、『永劫の宮殿』はデビュー・アルバム以来のブレイン不在のアルバムになった。

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 (Remasterd "Hall Of the Mountain Grill" CD Liner Cover)
 デビュー・アルバムはプロデューサーのディック・テイラー(元プリティ・シングス)によってサウンド面で統一感のとれたアルバムになったように、『永劫の宮殿』ではロイ・トーマス・ベイカーの共同プロデュースがコンセプト・メイカー不在の穴を埋めた、と言えるだろう。ロイ・トーマス・ベイカーといえばクイーン、カーズ、スマッシング・パンプキンズがほとんど専属プロデューサーにしていた辣腕プロデューサーで、ホークウィンド側ではセルフ・プロデュース手腕に長けたメンバーは新加入のサイモン・ハウスしかいなかった。
 前作『宇宙の祭典』でヘヴィ・サイケ路線を究めてしまったホークウィンドとしては、メンバー・チェンジに伴って変化を必要としていた。『永劫の宮殿』はシングル・カットされた代表曲A1、B1、B5がどれもブロック作だが、楽曲配分は意外に民主化されておりターナー1曲(A3)、ハウス1曲(B2)、レミー1曲(B3)、デトマー1曲(B4)も含み、ハウスとデトマーはインストだがターナーレミーは自作曲ではリード・ヴォーカルもとっている。

 改めてこのアルバムが成立した背景と併せてじっくり聴いてみると、ホークウィンド流プログレッシヴ・ロックの完成型『絶体絶命』が統一感と完成度の高さと引き換えに、曲調のくどさやあまりに分厚いサウンドから、風通しの悪い重さと冗長さを感じないでもないのに気づかされる。『絶体絶命』も名曲を数曲含むアルバムだが案外曲想の幅は狭く、ホークウィンドの本流からは外れた位置にある。名曲と佳曲が程よく配され、ホークウィンドの作品系列でも浮きあがらず、飽きずに聴ける点では『永劫の宮殿』に分があるのではないか。
 ホークウィンドの後の傑作には『PXR5』、『宇宙遊泳』1980、『未知なる写本』1988、『イット・イズ・ビジネス・オブ・フューチャー・トゥ・ビー・デンジャラス』1993、『テイク・ミー・トゥ・ユア・リーダー』2005などがあるが、ロックでは1974年と1988年では中世と近代ほどの違いがあるのに、『永劫の宮殿』と『未知なる写本』は15年近くを隔てていてもほとんど同質の感銘がある。『絶体絶命』も『永劫の宮殿』メロトロンの奔流だが、『絶体絶命』のメロトロンがプログレッシヴ・ロック特有のオーケストレーションを感じさせるのに対し、『永劫の宮殿』のメロトロンはムーディ・ブルースもキング・クリムゾンも連想させない。このアルバムでしか成立しなかった微妙なバランスが『永劫の宮殿』をホークウィンドから落とせない名作にしている。