人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Ornette Coleman - Town Hall, 1962 (ESP, 1965)

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Ornette Coleman - Town Hall, 1962 (ESP, 1965) Full Album : https://youtu.be/89sctuJj38s
Recorded at Town Hall, NYC, 21 December, 1962
(Side A)
A1. Doughnut - 9:00
A2. Sadness - 4:00
A3. Dedication To Poets And Writers - 8:50
(Side B)
B1. The Ark - 23:24
All composed by Ornette Coleman.
[Personnel]
Ornette Coleman - Alto Saxophone (exept.A3)
David Izenzon -Bass (Exept.A3)
Charles Moffett - Percussion (Exept.A3)
Selwart Clark, Nathan Goldstein - violin (A3 Only)
Julian Barber - viola (A3 Only)
Kermit Moore - cello (A3 Only)

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 (Alternate Album Cover)
 オーネット・コールマンはアトランティック・レーベルとの契約を1961年2月の『オーネット・オン・テナー』の録音で満了し、ドン・チェリー(トランペット)とのレギュラー・カルテットも解散することになった。オーネットのレギュラー・メンバーたちも散りぢりになった。鳴り物入りでニューヨーク・デビューしてアルバムも高評価だったのに、次の契約レーベルはすぐには見つからなかった。オーネットの新バンドはトリオ編成で、ベースのアイゼンソンとドラムスのモフェットはカルテット時代のメンバーとはまったく違ったタイプのプレイヤーだった。何よりオーネット自身のプレイが格段に変化していた。もちろんオーネット自身には一貫するものはあるのだが、ベースとドラムスとのトリオのインタープレイにカルテット時代からの質的転換がいちじるしい。
 アトランティック時代のアルバムは当然素晴らしいし、65年にアイゼンソン&モフェットのメンバーで本格的に活動再開した新トリオのアルバムも素晴らしいのだが、つい見落としがちなこの62年のライヴ盤では同メンバーの65年の活動再開の円熟味とはひと味違ったアグレッシヴな実験性がある。三年も寝かせておけば熟成もするが、オーネットの場合、実験性とはプリミティヴさでもあり、65年にはトリオの演奏はもっと洗練されたものになっている。

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 (Alternate Album Cover)
 新トリオはオーネット自身の主催でコンサートを行い、オーネット作曲の新曲をR&Bバンドと弦楽四重奏楽団、そして新トリオが演奏し、オーネットはライヴ・レコーディングを売りに出した。ブルー・ノート・レーベルが買い取ってVol.1とVol.2の2枚で完全収録盤を出す予定が立ち、レコード番号と2枚それぞれのマスター・テープまで作成された。ところがオーネットの65年までの活動休止、活動再開に伴う最新ライヴ盤の制作計画などで回り道をしているうちに、ブルー・ノートに決定する前にデモ・テープを入手していたESPレーベルが先に1枚にセレクトして発売してしまった。65年12月デンマーク録音のライヴ盤『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマンVol.1』『Vol.2』ではなくて、本当はこっちがブルー・ノートから先に出るはずだったのだ。
 要するにブルー・ノートはオーネットの活動再開に合わせてリリースするため遅らせたので、ESPではうちが先に買いました、とオーネット不許可なのに法的には丸め込んだかたちで出してしまったのだった。音質は正式なライヴ・レコーディングだから良好で、65年のデンマーク録音より良いくらいなのはホール録音とクラブ録音の差だろう。ベースとドラムスの音質やバランスはタウン・ホールが断然良く、アルトの鳴りもホール録音が勝る。65年ライヴは演奏内容は素晴らしいが楽器の鳴りはデッドなのに難がある。

 もしこれが録音されて間もなく、少なくともブルー・ノートが発売プランを立ててすぐにリリースしていたら、アルバム2枚分でコンサートの全容がレコード化されるはずだった。レーベルとしてはアーティストが活動休止中なら活動再開を待ってプロモーションしたい、という思惑があっても仕方ないし、ブルー・ノートにしろプレスティッジにしろ当時のインディー・レーベルは広告費などロクになかったから、アーティストのライヴ・スケジュールに合わせて手持ちの録音済みテープから編集・発売していた。アトランティック時代のオーネットのようにセッション順にアルバム発売されているのはインディーズとはいえ大手ワーナー傘下で全国配給されていたからで、ブルー・ノートなど当時は特約店に注文するか通販で買うか、という程度の規模のインディーズだったから、リリースに慎重になるのは当然だった。その点、最初からフリー・ジャズ専門インディーズだったESPはフットワークが軽かった。
 幻のブルー・ノート盤『タウン・ホール・コンサート』はBN4210番とBN4211番になるはずで、キリの良い品番を当てられたことでも期待感はわかる。BN4209番はハンク・モブレー『ディッピン』で65年6月18日録音、BN4212番はリー・モーガン『ザ・ジゴロ』で65年6月25日・7月1日録音と、発売予定が組まれたのがこの2枚の録音完了時期だったと推定される。しかしオーネットの前後がモブレーにモーガンとは、何ともブルー・ノートらしい。
 ジャズ批評誌別冊『完全ブルーノート・ブック』を参照に、セッション順にまとめるとこうなるようだ。R&Bバンドの演奏した1曲はブルー・ノートからの2枚にも含まれないらしい。

[ Ornette Coleman - Town Hall Concert ]
* BN4210 - Town Hall Concert Vol.1
"Children's Book"/"Storyteller"/"Play It Straight"/"I Don't Love You"
Ornette Coleman Trio, 21 Dec. 1962
* BN4211 - Town Hall Concert Vol.2
"The Ark"/"Sadness"/"Architect"
Ornette Coleman Trio, same date
"Dedication To Poets And Writers"
String Quartet, same date
"Taurus"
David Izenzohn Bass solo, same date

 ESP盤『タウン・ホール・コンサート』にはブルー・ノート盤には収録予定のなかった『Doughnut』が収録されているが、BN4210収録予定だった全4曲と、BN4211収録予定だった全5曲中『Architect』と『Taurus』が未収録になっている。オーネット作曲の弦楽四重奏曲も悪くないが、トリオの演奏を減らしてまで収録するまでもなかろう、と誰もが思う。
 65年の活動再開後、『ドーナツ』と『サッドネス』はレパートリーに復活したが、『ジ・アーク』を含めて上記ブルー・ノート盤と同一曲名の曲の再演はない。案外改題して演奏していたりするのかもしれないが、62年と65年では同一メンバーのトリオでも演奏のニュアンスがだいぶ異なる。ESPは2010年代になってもまだ60年代録音の未発表アルバムをざくざく発売しているくらいだから(サン・ラの『ナッシング・イズ』1966完全版とか)『タウン・ホール・コンサート』完全版は最後の秘宝だろう。ブルー・ノートならともかくESPが出すんじゃ話題にもならないかもしれないが。