人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Charles Mingus - Mingus at Antibes (Atlantic, 1976)

イメージ 1


Charles Mingus - Mingus at Antibes (Atlantic, 1976) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLZ_Li2NMzH0y6FQ8BqBGzCXHbnRLKNTKW
Recorded "live" by Barclay Studios for Atlantic Records at the Antibes Jazz Festival, Juan-les-Pins, France, July 13, 1960.
Released Atlantic SD2-3001, 1976
(Side A)
A1. Wednesday Night Prayer Meeting - 11:54
A2. Prayer For Passive Resistance - 8:06
(Side B)
B1. What Love? - 13:34
(Side C)
C1. I'll Remember April (Raye, DePaul & Johnson) - 13:39
(Side D)
D1. Folk Forms I - 11:08
D2. Better Git It In Your Soul - 11:00
All compositions by Charles Mingus except where noted.
[Personnel]
Charles Mingus - bass, piano (on tracks A1 and D2)
Ted Curson - trumpet
Eric Dolphy - alto saxophone, bass clarinet (on track B1)
Booker Ervin - tenor saxophone (except on track B1)
Dannie Richmond - drums
Bud Powell - piano (on track C1)

 チャールズ・ミンガス(1922~1979)生前の76年に発掘発売されて晩年の名声を高めることになったこのライヴは、スタジオ録音盤では『Pre-Bird (aka Mingus Revisited) 』(1960年5月録音, Mercury)と『Charles Mingus Presents Charles Mingus』(1960年10月録音, Candid)の中間に録音されている。『プレ・バード』はビッグバンド作で、このフランスのアンティーブ・ジャズ祭のクインテットは『プレ・バード』に参加したテッド・カーソン(トランペット)、エリック・ドルフィー(アルトサックス)、ブッカー・アーヴィン(テナーサックス)が選抜メンバーになった。ミンガスは2曲で曲のミドル・パートでピアノにまわるが、ピアノレスのパートでも三管のアンサンブルとベース、ドラムスの阿吽の呼吸で固めたリズム・セクションの見事さで、ほとんどピアノレス編成の音のすき間を感じさせない。
 ダニー・リッチモンドはバンド専属ドラマーとしてミンガスにテナーサックスからドラムスに配属替えさせられた人で、ミンガスの理想はマックス・ローチのドラムスだったからミンガス経由でマックス・ローチのドラミングを徹底的に叩きこまれたのだが、ミンガスとのインタープレイに特化したドラムスを追求した結果マックス・ローチとも違うソリッドなスタイルに到達した、という面白いジャズマンだった。ミンガスのアルバムを聴く楽しみにはダニー・リッチモンドのドラムスが堪能できるのも大きい。特にライヴではミンガスのベースとリッチモンドのドラムスの神経接続でもされたかのような一体化したプレイが聴ける。

 このライヴは選曲もいかにもジャズ祭らしいミンガスの代表曲が並び、『ブルース&ルーツ』からの『Wednesday Night Prayer Meeting』、『ミンガス・アー・ウム』からの『Better Git Hit In Your Soul』、スタジオ録音直後の最新ナンバー『プレ・バード』からの『Prayer For Passive Resistance』などライヴ映えするノリの良い曲を中心にしている。パリ在住のバド・パウエルがゲスト参加したスタンダード『I'll Remember April』はカフェ・ボヘミアのライヴでもやっているし、ミンガスの参加したレッド・ノーヴォ・トリオやチャーリー・パーカーのライヴで名演のあるミンガスの十八番でもある。何といってもカーソン、ドルフィー、アーヴィンと天才パウエルの後にも先にもない競演が聴けるのだ。ドルフィーもパウエルもいつもと同じ調子なのが妙におかしい。特にパウエルは何とも思わなかったのだろうか、というくらいマイペースでやっている。
 このライヴでは『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』でカーソン、ドルフィー、ミンガス、リッチモンドのピアノレス・カルテットで録音することになる『What Love?』と『Folk Forms I』を早くも演奏している。『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』はオーネット・コールマンのピアノレス・カルテットにミンガスが触発されたもの、というカーソンの証言があり、『ホワッツ・ラヴ?』はアーヴィン抜きのカルテットで演奏されており、スタジオで録音されることになる演奏フォーマットもほぼ完成している。ただ、ジャズ祭への出演はピアノレスとしても三管の厚みが必要で、『フォーク・フォームス I』のようなブルースではアーヴィンも加わっている。ただ、アーヴィンは良いプレイヤーだがカーソン、ドルフィーと共演するとR&B系のルーツが露わになってしまい、アーヴィンのソロ・パートでは緊張の糸が切れてしまう感がある。これはアーヴィンをメイン・ソロイストにしたミンガスのスタジオ作品ではなかったことで、カーソンとドルフィーが突出したプレイヤーだからこそ起こったことだった。

 アーヴィンをフィーチャーしたアルバムには1959年に『ジャズ・ポートレイツ』『ブルース&ルーツ』『ミンガス・アー・ウム』があり、そこではジョン・ハンディやジャッキー・マクリーン、シャフティ・ハディらがアルト奏者で参加していて、アーヴィンとの相性は過不足なくブレンドしていた。ドルフィーとなると渡りあえるテナー奏者はジョン・コルトレーンくらいだったので、アーヴィン絶対不利ということになる。アーヴィンを加えた三管アレンジの『ホワッツ・ラヴ?』などまず考えられないからここでも無理に演らせてはいないし、カーソンとドルフィー以外この曲は演奏不可能だったろう。難曲ぞろいの『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』でも難易度最大で、ミンガスの作曲の中でも完全な無調の楽曲はこれくらいしかない。リズム・ブレイクしてバス・クラリネットとベースが無伴奏のかけあいを演っているくだりから、観客のヤジと口笛がステージに飛びかい、演奏終了後他の曲よりひときわどよめきが大きいのがわかる。
 バド・パウエルを迎えた『四月の思い出』もハイライトで、この曲は映像も残っているのが嬉しい。機嫌良さそうなバドは三管アレンジのテーマの後ファースト・ソロを取るが、良く言えば可愛いアドリブ、悪く言えば指が全然動いていない。いつ止まってしまいやしないかとはらはらする。カーソンのソロが始まるとようやくドラムスもプッシュして演奏に推進力が出る。短いトランペットのソロに続いてテナーとアルトが半コーラスずつのソロを取り、テナーとアルトの4バース・ソロ交換がリズム・ブレイクを挟んで終盤まで続くが、ドルフィーがアウトしまくりなのでアーヴィンはほとんど音階しか吹けない。再度リズム・ブレイクした後はバドのピアノが曲の進行を見失って、全員バラバラに終わってしまうのには苦笑する。これがあるからジャズはおおらかで楽しい。生前に出してしまったミンガスも、早逝したドルフィー、バド、アーヴィンをしのぶ気持でリリースを許可したのだろうと思う。