人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新☆戦場のミッフィーちゃんと仲間たち(34)

 スヌーピーは戦場、正しくは休戦中の中立地帯の夜空を、犬小屋の屋根の上であお向けになりながらのんびり眺めました。夜空の星はきれいでした。ただし今はもう眠るためにコンタクトレンズを外しているのでひとつひとつの星のつぶを見分けることはできません。あれら星の光がここにいる自分とは数万年前を隔てて見えていると考えると、スヌーピーはなんだか気が遠くなりそうでした。スヌーピーは以前に較べればずっと謙虚になり、自己顕示欲も落ち着いてきたので、太陽系より広くまで自分の名声が届かなくても仕方ない、と思うようになってきました。たぶんエルヴィスよりはちょっと上、くらいでがまんしなければなりません。それでもスヌーピーは、あのネズミーランドにいる連中よりは自分のキャラクターはインテリジェントだという自信がありました。それについてはキティちゃんからも賛同を得ており、スヌーピーは本来ねこなど天敵のように思っていましたが自分の賛美者であれば別です。
 ウッドストックスヌーピーのお腹の上ですでに他愛もなく眠っていました。昼寝ならともかく、夜にはちゃんと木の枝につかまって寝ないと本能が低下してしまうと、普段はスヌーピーは夜にはお腹の上は禁じているのです。しかしうっかり眠りこませてしまったのを起こすのも悪いので、今夜は特別に許すことにしました。スヌーピーはといえば、閉所恐怖症なので犬小屋の屋根の上で寝ますが(雨の日は犬小屋ごとブラウン家の中に入れてもらいます)、鳥の足と同じように耳の筋肉が収縮するので犬小屋から落ちないのです。スヌーピーはまたぼんやり見える星ぼしにまなざしを向けて、今あの星の群れは昼なのだろうか、夜なのだろうか、それを自分は見分くることができるのだろうか、と思いました。
 もちろんそれはできます。スヌーピーになれないものはなく探偵王から射撃王、撃墜王から天才外科医、大預言者にして大作家、酒豪から性豪にだってなれるのですから、天才天文学者にだってその気になればなれるのです。ただ、天体の気象まで観測できるとなると世間はその才能をギャンブルや軍事戦略に悪用するでしょう。だからスヌーピーは能ある鷹のたとえ通りにあまたある才能を隠しているのです。
 ですがこの休戦地にいると、スヌーピーは無用な功名心に駆られるような気がしてくるのでした。いけないと思いつつ、何か自分が活躍できるような気がしてくるのです。