人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Levitation (Bronze, 1980)

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Hawkwind - Levitation (Bronze, 1980) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLWfGw2maX1M5rXmxr1u6DRwqZ-vShHEZI
Recorded Roundhouse Studios, July and August 1980
Released 27 October 1980, Bronze Records, BRON530/UK#21
(Side A)
1. "Levitation" (Dave Brock) - 5:48
2. "Motorway City" (Brock) - 6:48
3. "Psychosis" (Harvey Bainbridge) - 2:22
4. "World of Tiers" (Bainbridge, Huw Lloyd-Langton) - 3:30
(Side B)
1. "Prelude" (Tim Blake) - 1:28
2. "Who's Gonna Win The War?" (Brock) - 4:45
3. "Space Chase" (Lloyd-Langton) - 3:11
4. "The 5th Second of Forever" (Brock, Lloyd-Langton) - 3:27
5. "Dust of Time" (Brock, Bainbridge, Lloyd-Langton) - 6:22
(Remaster CD bonus track)
1. "Valium 10" [full version] (Bainbridge, Brock, Mick Smith, Steve Swindells) - 7:53
2. "Time of..." (Bainbridge, Brock, Simon King, Swindells) - 4:11
3. "Who's Gonna Win the War?" [Hawklords version] (Brock) - 4:52
4. "Douglas in the Jungle" (Bainbridge, Brock, King, Swindells) - 6:53
5. "British Tribal Music" (Bainbridge, Brock, King, Swindells) - 3:56
6. "Nuclear Toy" [single B-side] (Brock, Lloyd-Langton) - 3:00
7. "Who's Gonna Win the War?" [single A-side] (Brock) - 3:39
8. "Brainstorm" [live 1980] (Nik Turner) - 5:47
*Bonus Tracks 1-5 as Hawklords Demo 1979
[Personnel]
Dave Brock - vocals, electric guitar, keyboards
Huw Lloyd-Langton - electric guitar, acoustic guitar, backing vocals
Harvey Bainbridge - bass guitar, keyboards, backing vocals
Tim Blake - keyboards, backing vocals
Ginger Baker - drums
(bonus tracks)
Steve Swindells - keyboards (on Hawklords at Rockfield Studios 1979 tracks)
Mick Smith - drums (on Hawklords at Rockfield Studios 1979 "Valium 10")
Simon King - drums (on Hawklords at Rockfield Studios 1979 tracks, except "Valium 10")
 
 ホークウィンドのアルバム紹介もようやく初期10週年に達して、続きはしばらく置いてからにするつもりだが、実はこのアルバム紹介を書いたのはまだ3月下旬で、この2015年4月にデイヴ・ブロック率いる本家ホークウィンドがついに来日公演を行った(ニック・ターナーの分家ホークウィンドなら90年代に来日公演している)。大型ライヴハウスで2日公演と実にささやかな来日公演だが、これを機に日本でのホークウィンド再評価も少しはされてほしいものがある。80年代ホークウィンド、90年代ホークウィンド、21世紀ホークウィンドについては、またいずれアルバム紹介いたします。

 前作『ライヴ '79』からわずか3か月、なんとドラムスにジンジャー・ベイカーが加入してしまったスタジオ録音の新作。『ライヴ '79』でヒッピー気質をひきずっているメンバーというとドラムスのサイモン・キング、次いでキーボード、シンセのティム・ブレイクということになり、ヒュー・ロイド=ラントン(リード・ギター)の夫人がベイカーのマネジメント事務所に勤めていて話がまとまったらしい。『ライヴ '79』でおっさんバンド然とした佇まいながら(ホークウィンドは初期から老け顔のメンバーばかりだったが)音楽は一気に若返ったホークウィンドだったが、ベイカーの加入で平均年齢は上がったにもかかわらず『レヴィテイション』は若返りに拍車がかかった。
 ホークウィンドは70年デビューのしぶといバンドとしてブラック・サバスユーライア・ヒープと比較されることもあるが、80年といえばヒープもオリジナル・メンバーはミック・ボックス一人になって存続が危ぶまれていた時期、サバスはロニー・ジェイムズ・ディオ加入で80年代型のスタイルへ移行してみせた時期に当たる。ホークウィンドの場合、デイヴ・ブロックのリーダーシップはボックスよりも自然で、サバスほど傑出したミュージシャンの集団ではなく、リーダーはいてもおおむね民主的な性格が強い。79年からの新生ホークウィンドはハーヴェイ・ベインブリッジがバンドのNo.2で1991年まで在籍するのだが、ブロックは70年代にもニック・ターナー、サイモン・ハウス、ロバート・カルヴァートらその時期ごとに双頭リーダー制を取ってきた。一貫性はブロックが、新陳代謝はサブリーダーが担ってきたことになり、それがこんなに上手くいったバンドも珍しい。

 サバスの80年といえば『ヘヴン・アンド・ヘル』で、これはジューダス・プリーストの『ブリティッシュ・スティール』とともにヴェテラン・ハード・ロッカーが80年代型ハード・ロック・スタイルへの刷新に成功した傑作だった。ユーライア・ヒープはケン・ヘンズレーまで脱退してもはやミック・ボックス一人で何とか仕上げました、という風情の『征服者』を出して誰もがここまで、と思ったが、80年を起源とするヘヴィ・メタルのニュー・ウェイヴが流行を過ぎて次々解散したバンドから若手メンバーをヒープに勧誘し、80年代半ばからはほとんどメンバー・チェンジもなく今でもやっている。ホークウィンドの『レヴィテイション』もイギリス国内の新興ヘヴィ・メタルの気運に乗ったもので、チャート21位とカリズマ時代のどのアルバムより良い成績を残した。
 新興ブリティッシュ・メタル・ブームに乗ったとはいえ、ホークウィンドはサイケから始まってヘヴィ・スペース・ロック、スペース・グラム・ロック、シンフォニック・スペース・プログレ、レトロ・フューチャリズム・ロック、テクノ・プログレ・パンクと10年間ほどで変節漢のそしりも免れられないような多彩なようでやっぱりホークウィンドらしい音楽をやってきたのだった。サバス、ヒープ、ジューダスらと並べて今『レヴィテイション』を聴いても、ホークウィンドにはほとんど1980年という時代を感じない。新しさはもともとなかったし、今後もこれが先駆的サウンドともてはやされそうな先進性はないだろう。

 ホークウィンドはライヴで人気を保ってきた強みがあり、残念だがカルヴァート時代は徐々にバンドとファンの間が開いてきてしまったのだろう。カルヴァート時代のホークウィンドも意欲的で今聴けば優れた作品群なのだが、ユナイテッド・アーティスツ時代のホークウィンドからはあまりに急激な作風転換にすぎたのは否めない。デイヴ・ブロックのバンドに戻った『ライヴ '79』が本格的なカムバック・アルバムの成功作になったのもうなずける。サイモン・キングのドラムスがまだ往年のホークウィンドっぽい、というのとベイカーが参加可能、というのが同時だったのだろう。ホークウィンドはこれまでもメンバー・チェンジのタイミングでしくじっていたが、ドラムスがベイカーなら新生ホークウィンド初のスタジオ・アルバムはよりインパクトの強いものになる、と即座に話はまとまったと思われる。
 ジンジャー・ベイカーという人も、クリーム、ブラインド・フェイス、ベイカー&ガーヴィッツ・アーミー、P.I.L.で叩くと思えばジンジャー・ベイカーズ・エアフォース(スティーヴ・ウィンウッド在籍)、フェラ・クティとの共演、ビル・フリゼールチャーリー・ヘイデンとのトリオなど神出鬼没なのだが、ホークウィンドにまで参加していたとはますます感心する。エアフォースやフェラとの共演、ジンジャー・ベイカー・トリオ(フリゼールとヘイデンとの)など聴くと、クリームがプロダクション的にはベイカーのリーダー・バンドで、音楽的に先鋭的な部分はほとんどベイカーの指向性だったのに気づかされる。『レヴィテイション』の録音が済むとティム・ブレイクはさっさと抜けてしまうがベイカーは80年いっぱいのツアーには残った。ツアーのキーボードにはキース・ヘイルが参加した。『レヴィテイション』のリマスターCDは3枚組で、本編ディスクはオリジナル・アルバム9曲+録音順でいえば前作になる『25年間』以降のホークローズのデモ音源5曲(これがまた実験性の強いもの)、ホークウィンドのシングル音源とライヴからなるが、ボーナス・ディスク2枚にはこれまで『Zones』や『This is Hawkwind Do Not Panic』、『Undisclosed Files-Addendum』などのオムニバス編集盤に分散収録されてきた1980年12月18日のコンサートのフル音源がまとめられており、ベイカー参加のホークウィンド音源はその3枚組ですべて聴ける。

 ツアー中にベイカーはベインブリッジのベースに不満を持ち、次作のレコーディング前にジャック・ブルースを加入させようというとんでもない案を出したがブロックとベインブリッジに却下されて、キース・ヘイルを連れて脱退してしまう。キース・ヘイル在籍時のスタジオ・デモ音源が『Zones』と『Out & Intake』に入っていて『レヴィテイション』DXエディション3枚組には入っていないから『レヴィテイション』3枚組がベイカー参加音源コンプリートは撤回すべきか。だがドラムスにまだベイカーがいるのかわからないのだ。ベイカーはホークウィンド脱退後にヘイルをメンバーにしたバンドを組む。ティム・ブレイクの急遽代役だったから元々ベイカー人脈だったのかもしれない。ホークウィンドにはヘイルの作詞曲・ヴォーカルの『Dangerous Vision』という名曲を残しており、80年12月ライヴと『Zones』収録のスタジオ・デモに残している。同名の短編SFアンソロジーにちなんだあたりホークウィンドの伝統を汲んでおり、ヘイル脱退は惜しかった。ちなみにベイカーは「世界最高のドラマーを世界最悪のベーシストがクビにした」とホークウィンド脱退の件を語っている。
 ベイカーが脱退してホークローズの前半に在籍していたマーティン・グリフィンが復帰することになった。グリフィンはホークローズ立ち上げ時にベインブリッジが連れてきたメンバーだったのだが、ロバート・カルヴァートに嫌われてレコーディング途中で旧メンバーのサイモン・キングに交替させられた因縁があるのだが、今回の加入は上手くいき、専任キーボード・プレイヤーを補充せずブロック(ギター、キーボード、ヴォーカル)、ベインブリッジ(ベース、キーボード)、ロイド=ラントン(リード・ギター)、グリフィン(ドラムス)の四人で移籍した大手RCAからの『ソニック・アタック』1981、『チャーチ・オブ・ホークウィンド』1982、『チューズ・ユア・マスク』1982を制作することになる(『チューズ・ユア・マスク』のみサックス&フルートのニック・ターナー復帰)。これだけメンバーが安定したホークウィンドも珍しく、83~84年はライヴやスタジオの未発表曲から成るオムニバス盤の制作とターナー復帰に伴うライヴ活動の活発化で純粋な新作は休んだが、85年の『黒剣年代記』ではブロック、ロイド=ラントンにベインブリッジがキーボード専任になり、アラン・デイヴィがベース、ダニー・トンプソンがドラムスに加入。88年の『未知なる写本』までロイド=ラントンは在籍し、90年の『スペース・バンディッツ』ではドラムスがリチャード・チャドウィックに交替しレコーディングのみサイモン・ハウスが復帰、91年を最後にベインブリッジが脱退後はブロック、デイヴィー、チャドウィックのトリオ編成、と徐々にメンバー・チェンジも落ち着いてくる。

 メジャー傘下とはいえユーライア・ヒープのマネジメントによるブロンズ・レーベルから次作には大手RCAとの直接契約にこぎ着けたのは、セールス的には低迷の一途だったカリズマ時代とは雲泥の差で、ホークローズ時代のブロックとベインブリッジの試行錯誤がようやくすっきりと成果を出した、ということでもある。結果的にワン・ポイント・リリーフだったベイカーの参加もこの場合は吉と出た。この後ホークウィンドはメンバー・チェンジのタイミングと音楽的方向性の変化をばっちり間違いなく順調な運営を続ける。
 この『レヴィテイション』など、タイトル曲はどこかで聴き覚えがあるなと思ったらギャング・オブ・フォーの『Return the Gift』そっくりだったりする。ギャング・オブ・フォーとホークウィンドなどまったく接点はないと思うが、偶然同じ頃にそっくりな曲を書いていた。ギャング・オブ・フォーはオリジナリティあふれるバンドだが、ホークウィンドはどこかバッタもんくさい。そこがいい、と思えるようになればホークウィンドは何を聴いても面白い。