人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Masters Of The Universe (Magnum America, 1996)

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Hawkwind - Masters Of The Universe (Magnum America, 1996) Full Album : http://youtu.be/nUMCddVvCtU
Released at 1996, Magnum America, MACD028
BBC Sessions 1970-1971
(BBC Session, 19th May 1971) ;
1. Master of the Universe (Nik Turner, Dave Brock) 6:04
2. Dreaming [a.k.a. You Know You're Only Dreaming] (Dave Brock) 4:13
3. Shouldn't Do That [a.k.a. You Shouldn't Do That] (Hawkwind) 5:55
(BBC Session, 18th August 1970) ;
4. Hurry on a Sundown [a.k.a. Hurry on Sundown] (Dave Brock) 6:23
(Paris Cinema, London, 5th November 1970) ;
5. Paranoia (Hawkwind)
a. Paranoia (Part One) 0:36
b. Paranoia (Part Two) 2:23
6. See It as You Really Are [a.k.a. Seeing It as You Really Are] (Hawkwind) 8:54
(Playhouse Theatre, London, 19th April 1971) ;
7. I Do It [a.k.a. We Do It] (Hawkwind) 13:49
[Personnel]
Dave Brock - guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Huw Lloyd-Langton - guitar (track 4)
Thomas Crimble - bass guitar (tracks 4-5,6)
Dave Anderson - bass guitar (tracks 1-3,7)
Dik Mik Davies - Synthesizer
Terry Ollis - drums

 ホークウィンドは『宇宙の祭典』や『ライヴ'79』『ライヴ・クロニクルズ』が代表作になっているくらいで、スタジオ盤よりもライヴ盤にヒット作があり評価も高い、というバンドで、その辺りもよく比較されるグレイトフル・デッドに近い性格のバンドかもしれない。グレイトフル・デッドも『ライヴ/デッド』『グレイトフル・デッド(スカル・アンド・ローゼズ)』『ヨーロッパ'72』などはスタジオ録音アルバム以上に評価が高い。
 デッドもホークウィンドもスタジオ盤は案外丁寧に作っているのだが、丁寧な分過剰な表現は控えめにしてある。これは一般的なことでもあり、過剰な表現はレコードで繰り返し聴くには飽きが来やすいからだが、ライヴではダルな部分は徹底的にダルに、大仰なところは徹底的に大仰に、ナイーヴな箇所はよりナイーヴに、爆発する場面は大爆発するのだ。いや、デッドの場合は乗りが良くなってより練れた演奏が聴けると言えば十分で、先に述べたようなこれでもかの力押しで勝負するのはホークウィンドのライヴの特徴だろう。

 ホークウィンドの演奏力は過不足ないものだが、ルーツ・ミュージックに根ざしたグレイトフル・デッドとは音楽性が大いに異なる。デッドはヒッピーのサイケデリック・バンドという以上にアメリカン・トラディショナル・ミュージック絵巻という側面があり、ミュージカル~ティン・パン・アレー~ブリル・ビルディングといったニューヨークの中央集権的なポピュラー、スタンダードの伝統とは対立する非商業的民衆音楽の系譜を追求してきた。日本人には十分に玩味できない懐かしさがデッドの音楽にはあり、それがデッドを世代を超えて支持されるバンドにした基盤だったと思われる。
 その点、ホークウィンドの音楽はデッドとは光と影ほどに違う。リーダーのデイヴ・ブロックはフォーク・シンガーとして活動していたり、ホークウィンド自体がサイケ風味のブルース・バンドというデッドのフォロワー然とした前身バンド時代がある。だが1970年にはホークウィンドは完全にルーツ・ミュージック(ジャズ、ブルース、フォーク)の根っこを断ち切ってデビューした。2月デビューのブラック・サバスより半年遅れたが、サバスよりもさらに徹底してルーツを隠滅した音楽だった。

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 (French Spalax CD "Masters of the Universe" Front Cover)
 だからライヴでもホークウィンドの場合は、音楽性の充実というよりは、一種の音楽的表現主義が手法の基本になっていたと思われるが、それをたどれるもっとも初期の音源がこのBBC録音集『マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース』で、1970年8月(4)、11月(5,6)、1971年4月(7)、5月(1,2,3)の録音が収録されている。この音源はアルバム化されるに当たってBBCによる著作権がクレジットされているものの、放送記録はあるがマスターテープの記録のない謎のセッションということになっている。たいへん重要な時期の貴重音源だから喜ばしいのだが、困ったことにまともな録音のはずのBBC音源なのに、サウンド・クオリティがずいぶん低い。
 一応はオーディエンス録音ではなくサウンドボード(ミキサー卓)録音と思われる程度には楽器の分離がいいが、BBC音源なら通常公式録音アルバムとまではいかずとも、シングルB面やCDボーナス・トラックなら十分な高品質の録音で定評がある。実は紹介済みの72年9月のBBCラジオ1コンサートも、音質はなぜか他のアーティストではまずあり得ないくらい良くないものだった。

 単にオリジナル・マスターテープが紛失しているか使用できない、という理由からジェネレーションを経た劣化コピーをCDマスターにしている可能性も高いが、ホークウィンドの場合はバンドの音楽自体にもその原因はあると思われる。第2作『宇宙の探求』が発表された71年10月にはすでに『ドレミファソラシド』『宇宙の祭典』に至るエフェクトを駆使したサウンドが確立していたと思われるが、ここで聴けるデビュー作からの4、5、6、『宇宙の探求』からの1、2、3とスタジオ録音のない7はまだホークウィンドのスタイル確立寸前のライヴ収録だった。デル・デトマーがシンセサイザーで加入し、ディック・ミックがオーディオ・ジェネレーターにまわる直前の時期にあたる。
 ホークウィンドのサウンドはバンド演奏の実音とエフェクト音の遠近法が逆転して、エフェクト音の方が前面に聴こえているような倒錯したスタイルだが、ここではその遠近法にまだ揺らぎがあるため、デビュー作の曲も『宇宙の探求』からの曲もスタジオ録音以上に過激に楽器本来の音色とエフェクト音が攻めぎあって聴こえる。ほとんどジャーマン・ロックの音と区別がつかないほど混沌としたサウンドであり、第2作『宇宙の祭典』で聴ける完成されたホークウィンドの音楽とも異なる方向性があり得た、という発見もある。これをオーディオ的にバランスのとれた音で収録するのは、当時の録音技術では無理だったろうと納得する。