人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新☆戦場のミッフィーちゃんと仲間たち(40)

 やれやれじゃわい、とジャコウネズミ博士は大儀そうに立ち止まると、こういうところじゃ飲む・打つ・買うは当たり前、どころかそれをせなんでは出て行かされそうだな、と周囲に同意を求めました。どう思うかね、ヘムル署長?名指しですか、とヘムル署長は苦笑しながら、公人として私に言えるのは、法に従うは市民の義務だということですな。そして、とヘムル署長は、私が護っているのはムーミン谷の法です。ムーミン谷を一歩出れば、そこには別の土地の法があるだけです。トロールたちはざわめきました。ヘムル署長が言外に匂わす意味は明白だったからです。
 ですが署長、とスノーク。何かね?いや言ってみただけです、とスノークは本当に何も考えずに言いました。何でもいいから合いの手を入れるのがスノークのキャラクターだからです。スナフキンはずっと偽ムーミンの手を引いて歩いてきましたが、立ち止まってもまだ握っていた手をすっ、と放すと、考え深げに腕組みをしました。偽ムーミンスナフキンに肩を抱かれたり手を取られたりとスキンシップされるのには閉口していましたが(本物のムーミンとはそれがいつものことなのでしょう)、いざ手を放されると自分が偽ムーミンなのがバレたのだろうか、とドキドキしました。ムーミン谷で偽ムーミンが偽者だと気づいているのはおそらくスニフだけですが、臆病なスニフにはバラしたらどうなるか体で教えこんであるからまず大丈夫です。他の連中といえば、ムーミン谷の住民でありながらムーミンには本当のところ関心はなく、自分勝手に好き放題にしている不埒者ばかりでした。ムーミンパパ、ムーミンママにしてもそうです。お節介かけてくるミーなどは偽ムーミンを偽者と気づく知能はまずありえず、唯一恐怖の対象といえるのはフローレンでした。フローレンはムーミンのいいなずけとして、偽ムーミンの正体を見破れば即座に瞬殺する大義名分があるのです。
 または爪を一枚一枚剥がされてムーミンの居場所とこれまでの罪状(フローレンにとって)を苦痛の限界までもてあそばれながら自白させられるかもしれない。それもありでしょう。偽ムーミンが背筋の凍る思いでいると、大人たちはとにかく着いたんだから飯でも食おう、店は二軒あるから二手に分かれて較べてみるのはどうだ、と話していました。偽ムーミンは行く前から、片方はミッフィー、片方はハローキティの店と知っていました。
 第四章完。