人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Jeff Beck Group - Got The Feeling : Musical Documentary (Blue Line, 2015)

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Jeff Beck Group - Got The Feeling : Musical Documentary (Blue Line, 2015) B/W Version : https://youtu.be/OJW6Y8U-BsI
Color Version : https://youtu.be/X6dFeVos3X0
Recorded live in Germany, 25 Mar.1972 (TV Feature "Beat Club")
1. Got The Feeling (Jeff Beck) - 6:17
2. Situation (Jeff Beck) - 5:55
3. Morning Dew (Rose-Dobson) - 5:54
4. Tonight I'll Be Staying Here With You (Bob Dylan) - 5:10
5. Going Down (Don Nix) - 5:01
6. Definitely Maybe (Jeff Beck) - 7:27
[Personnel]
Jeff Beck - Guitar, Backing Vocals
Bob Tench - Vocals
Clive Chaman - Bass
Max Middleton - Keyboards
Cozy Powell - Drums

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 (Jeff Beck Group "Rough and Ready" Epic, 1971)
 このリンクはYouTubeから引っ張ってきたもので、全長36分ほどのテレビ用スタジオ・ライヴ映像が元になっている。テレビ放映ソースには白黒ヴァージョンとカラー・ヴァージョンがあるようだから2通り貼ったが、当時はVTR撮影ではなく16mmフィルム撮影だろう。カラー版の背景がブルー・バックなのは合成映像をはめ込むためで、合成映像がはめ込まれたらどうせがちゃがちゃして見苦しく古臭くなっただろうが、バックが青一色というのも十分見づらい。メンバーの服装をカラー画像でちょっと確認したら、シャープな白黒画像の方がじっくり落ち着いて観ていられる。
 これはドイツでは何度も再放送されたらしく長いことブート盤LPやCD、ブート・ヴィデオやDVDの定番で、だからYouTubeでも全長版が堂々と公開されているのだが、2015年4月ついにドイツのインディーズ・レーベルから公式発売になった。これが見事にボケをかましてくれており、ロッド・スチュワートロン・ウッドのいた1968年~1969年のジェフ・ベック・グループの写真をパッケージに使っている。あのー、このビート・クラブ・ライヴは1971年の収録で『ラフ・アンド・レディ』1971と『ジェフ・ベック・グループ(オレンジ・アルバム)』を残した第二期ジェフ・ベック・グループ、黒人ヴォーカリストと黒人ベーシストがいて、ピアノにヒゲの巨漢マックス・ミドルトンがいて(この3人はベックと組む以前からの仲間)、ドラムスは光輝く渡り鳥コージー・パウエル様がいらした第二期なんですけど。つまり掲載したアルバム・ジャケットのメンバーによるライヴになる。

 しかもオフィシャル・DVDがインディーズというのもしょぼいが、商品版では中盤から動画と音声がズレていってしまう。音声が遅れ気味というか、はっきりズレはじめる。プレス不良以前にマスター不良で、YouTube動画にはそんなことはないから商品用にリマスターした時音声トラックとのシンクロナイズをしくじって、そのまま商品化してしまったのだろう。工業先進国ドイツとは過去の話なのか。オフィシャルといってもこういうのはテレビ局が版権を持っているので、本来なら国内でしか権利はないはずだが、海外需要を見込んでインディーズが買い取るのだ。ジェフ・ベックのファンは世界中にいるが現役バリバリなので過去の映像や未発表録音の本当のオフィシャル・リリースを全然しない。だからジャケットからしていい加減なインディーズ・リリースがこっそり出てしまうことにもなってしまう。
 第二期ジェフ・ベック・グループには72年6月、ロンドンのパリス・シアター公演がBBCイン・コンサートとしてラジオ放送されて、これもエアチェック・マスターだったり再放送エアチェックだったり、ついにラジオ局のマスターから入手!と名銘っていたり、アナログ・ブートの時代からあちこちのレーベルで発売されている。日本でもNHK-FMで何度か放送されたので自分でカセット・テープに録音した人も多いだろう。学校の先輩や友人から聴かされた、という人も相当数いるはずで、ひょっとすると『ラフ・アンド・レディ』『ジェフ・ベック・グループ(オレンジ・アルバム)』以上に聴かれているかもしれない。実はBBCイン・コンサートを先に聴いた、という人がいてもおかしくなくて、かく言う筆者がそうだった。

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 (Jeff Beck Group "Jeff Beck Group"aka Orange Album, Epic, 1972)
 もし第二期ジェフ・ベック・グループの2枚のアルバムを聴いたことがなくて、このビート・クラブ・ライヴ映像やBBCイン・コンサートを先に聴いてしまったらどうだろうか。71年4月にメンバー5人が決定した第二期ジェフ・ベック・グループは71年10月に『ラフ・アンド・レディ』を発表、第二作『ジェフ・ベック・グループ(オレンジ・アルバム)』は72年5月に発表されている。ビート・クラブ・ライヴは72年3月収録、BBCイン・コンサートは72年6月の収録で、第二期ジェフ・ベック・グループはツアー最終日の7月23日に解散する。第一期ジェフ・ベック・グループはレッド・ツェッペリンと競うブルース系ヘヴィ・ロック・バンドだったが、第二期ジェフ・ベック・グループはニュー・ソウルの影響を受けたソウル系ジャズ・ロック・バンドだった。ボブ・テンチ(ヴォーカル)、クライヴ・チャーマン(ベース)、マックス・ミドルトン(ピアノ)はそのための人選で、第二期ジェフ・ベック・グループの解散後は新バンド・ハミングバードを結成する。
 はっきり言ってビート・クラブ・ライヴやBBCイン・コンサートを聴いてしまうと、スタジオ録音の公式アルバム2作はバンドの実力の2割も出ていないとしか思えない。『ガット・ザ・フィーリング』と『シチュエーション』は『ラフ・アンド・レディ』収録曲で、『ラフ・アンド・レディ』はほぼ全曲をベック自身のオリジナル曲で固めた初めてのセルフ・プロデュース作だった。『今宵もきみと』と『ゴーイング・ダウン』は『ジェフ・ベック・グループ(オレンジ・アルバム)』の曲で、ボブ・ディランとドン・ニックスの曲になる。セカンド・アルバムはスティーヴ・クロッパーのプロデュースでカヴァー曲が大半を占め、『ラフ・アンド・レディ』より演奏に破綻はないが姿勢としては明らかに後退だった。『モーニング・デュー』と『ディファニトリー・メイビー』は第一期ジェフ・ベック・グループ時代の曲で、特に『ディファニトリー~』はのちの『悲しみの恋人たち』や『グッドバイ・ポークパイ・ハット』に引き継がれていくスケールの大きいインスト・バラード。さて、ビート・クラブ・ライヴやBBCイン・コンサートはどう聴いても2枚のスタジオ録音アルバムに勝っているのだ。それでもバンドの実力が100%発揮されたものとは思えないのはやはりアンサンブルがところどころ破綻しているからなのだが。
 
 スタジオ版の『ガット・ザ・フィーリング』はマックス・ミドルトンのピアノ・ソロが先発だが、デモテープ以下の演奏しかできていない。ベックのソロが引き継ぐが、コード・チェンジのところでライヴならぐわーっと盛り上げるがスタジオ版では適当に流しているだけ。他の曲もスタジオ版ではそんな調子で、『ラフ・アンド・レディ』はオリジナルで固めた意欲作なのにせっかくの良い曲がデモテープ段階でアルバム化されてしまった感じなのだ。もしビート・クラブ・ライヴやBBCイン・コンサートを知らなかったらこの程度のバンドだと思ってしまう。セカンド・アルバムはスティーヴ・クロッパーのプロデュースでまとまりはいいが守りに入ったまとまりで、ライヴではどれほど爆発的な演奏をするバンドなのかアルバムにとらえるのには失敗している。ベックというギタリストは才能が大きすぎるあまり、スタジオ・アルバムではおさまりが悪いのだ。
 ボブ・テンチは好ましい熱唱型ヴォーカリストで声質が良いが、音程に難がある。ヴォーカル曲は曲の体裁のためにヴォーカル入りにしているだけで、バンドの聴きどころは全編にわたって予想不可能に弾きまくるベックのギター・ワークにある。ギターからこんな音が出るのか、というくらい多彩なプレイをしているのは映像がともなっているとなおさら強烈だろう。ジミ・ヘンドリックスが登場しなくてもエリック・クラプトンジミー・ペイジは変わらなかっただろうが、こと才能の大きさではクラプトンもペイジもジミにはかなわないのを自分たちでも知っている。ジェフ・ベックも一応ジミと比較されると謙遜してみせるし、尊敬の念は本心だろうが、ジミがいなくてもジミと同等の創造性に到達したのはジェフ・ベックただひとりかもしれない。それを知るには演りっぱなしのライヴしかないというのは、ベック本人にとっては損か得かわからないものがある。