人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新編☆戦場のミッフィーちゃんと仲間たち(74)

 あなたと会うのはできればこれきりにしたいわね、とミッフィーちゃんは言いました、話し合いで済むのはこれが最後でしょうから。そう言うミッフィーちゃんの口ぶりは勝者の余裕に満ちていました。彼女にとってゲームは終わったのです。もし次に顔をあわせることがあるなら話し合いでは済まない実力行使になり、早い話が殺しあい以外にはないので、戦う前からミッフィーちゃんは勝ち誇っていました。彼女には自分が属する分野では史上最高のイコンという自負があったのです。
 あなたがどんなに強くても、とハローキティは思いました、根くらべなら負けないわ。たとえリボンを無くして、今では仲間たちを全員失っても、と彼女は後には引けない思いでした。仲間たちを全員失ったのはミッフィーの側も同様で、逆に言えば係累のいない、キャラクターとしてはふたたび元の一匹狼に戻ったことで、ハローキティミッフィーは初めて一対一になることができたのです。
 これまでずっとあなたの存在を無視し続けてきたけれど、とミッフィーちゃんは淡々と述べました、だんだんそれも難しくなってきた。お客さんたちはあなたの側に持っていかれたり、また私たちの方へ戻ってきたりするのが長い時間を経つほどにはっきりとしていて、その時間は疑いもなくあなたたちと奪いあうように共有してきた時間だったのよ。
 わからないわ、とハローキティは応えました。あなたたちと私たちは重なるものは何もなかったはず。もしお客さんの取り合いのことを言っているのなら、古典的な命題がその誤解を解いてくれるでしょう。一、ひとつのものは同一時にふたつの場所を占めることはできない。二、ふたつのものは同一時にひとつの場所を占めることはできない。古代ギリシャでも老荘思想でもこの命題はとっくに明らかだったはず。だからもしあなたが、私たちはずっと敵対しあっていたというなら……
 あっははは!ミッフィーちゃんはハローキティの言葉の途中で唐突に笑いだしました。キティちゃんは彼女なりに誠心誠意を込めて話していたので、その笑いには深く心を傷つけられる思いがしました。ミッフィーの笑いはすぐには止まらず、その間ずっとハローキティミッフィーちゃんの左耳に結ばれたリボンを虚脱感とともに見つめていました。
 ねえキティ、ここはどこだかわかるわよね?休戦地、とキティは答えました。そう、そして休戦していたのは私たちの戦いだったのよ。