Recorded Manor Mobile, Bastide De Pierrefeu (Valbonne)
Released A&M Records SP-3650 (US), 1974 / AMLS 68260 (UK), 1974 / Vertigo 6325 750 (France), 1974
(Side A)
A1. Kohntarkosz (Part I) (Christian Vander) - 15:22
A2. Ork Alarm (Jannick Top) - 5:28
(Side B)
B1. Kohntarkosz (Part II) (C. Vander) - 15:55
B2. Coltrane Sundia aka "Coltrane Rest in Peace" (C. Vander) - 4:11
[Personnel]
Klaus Blasquiz - vocals, percussion
Stella Vander - vocals
Gerard Bikialo - pianos, Yamaha organ
Michel Graillier - pianos, clavinet
Brian Godding - guitar
Jannick "Janik" Top ? bass, cello, vocals, piano
Christian Vander - drums, vocals, piano, percussion
Produced by Giorgio Gomelsky
まず今回もマグマのアルバムの原題は子音・母音のアクセント記号が特殊(というか創作)すぎて、フランス語やドイツ語のアクセント記号も文字化けするから割愛しなければならないくらいだから、コバイア語ならなおさらなのですべて割愛せざるを得なかったのを初めにおことわりしておきたい。
さて、筆者が初めて買ったマグマのアルバムがこれだった。というか、LP時代にマグマを聴き始めた人は日本盤も出ていた『呪われし地球人たちへ』と『コーンタルコス』、クリスチャン・ヴァンダー(当時の表記)名義の『トリスタンとイゾルデ』か、アメリカ盤の中古が中古レコード店の不人気アルバムとして溢れかえっていた『呪われし～』『コーンタルコス』『マグマ・ライヴ』から入るのが普通だったと思う。『呪われし～(MDK)』『コーンタルコス』『マグマ・ライヴ』はマグマ絶頂期の3枚(『マグマ・ライヴ』は2枚組だが)でもあり、60～70年代の名物マネジャー＝プロデューサーのジョルジオ・ゴメルスキーが手がけたので英米欧日国際発売が実現したのだった。マグマの最高傑作は『ライヴ』と定評あるが、2枚組とあって少々荷が重い。『トリスタンとイゾルデ』も名作だが原盤はフランス盤だし、日本盤も輸入中古バーゲンの定番『MDK』『コーンタルコス』より倍近く高い(というより、この2枚の中古価格はどちらも1000円でお釣りがきた)。
ロシア系の興行師ゴメルスキーが60～70年年代に手がけたアーティストはSonny Boy Williamson, The Rolling Stones, The Animals, The Paramounts, The Yardbirds, Magma, Blossom Toes, Julie Driscoll, Gong, Soft Machine, Materialなどなどだが、ゴメルスキーのビジネス感覚は少し変わっているというか、新人なりヴェテランなりを売り出して軌道に乗ると他のマネジメントに高く売り、自分はまた別のアーティストを掘り出してくる。権利関係も変わっていて、ゴメルスキーが権利を持つとともにアーティストも権利を持っていて、ゴメルスキー経由とアーティスト経由で別々のレーベルから同一音源が再発売されているのも珍しくない。ストーンズとアニマルズ(レコード・デビュー前まで)、ヤードバーズ(66年まで)のマネジャー＝プロデューサーがソフト・マシーン(レコード・デビュー前)、ゴング(初期)、マグマ(国際デビュー期)のマネジャー＝プロデューサーと同一人物とはなんだかすごいが、とにかくマグマが70年代に『MDK』『コーンタルコス』『ライヴ』の3大傑作を国際発売できたのはゴメルスキーの手腕だった。『コーンタルコス』のギタリストがこのアルバムだけ参加のブロッサム・トゥズ(英)のブライアン・ゴッディングなのもゴメルスキーつながりだったわけになる。
前回は総華的にマグマのキャリアを紹介しすぎたが、92年の復活アルバム発表以前、一旦『メルシ』を最後に解散するまでのマグマの全アルバムはこうなる(スタジオ盤『Sons』を除き、90年代以降に発掘リリースされたオリジナル・マグマ活動期間中の発掘ライヴは除く)。
[ Magma Discography 1970-1984 ]
1970: Magma (reissued as Kobaia)
1971: 1001ﾟCentigrades
デビュー作は2枚組。コバイア神話のテーマはすでに始まっているが、フランス語歌詞でまだホーン・セクション入りジャズ・ロックの範疇に入る。第2作も同傾向だが、構成力に格段の進歩が見える。
1972: The Unnamables (studio album released under the alias 'Univeria Zekt')
変名バンド「ユニヴェリア・ゼクト」名義。マグマ名義作品よりさらにオーソドックスで聴きやすいジャズ・ロック。
1992: Akt II: Sons: Document 1973 (recorded in 1973 at Le Manor, featuring a scaled-back line-up of Christian Vander, Klaus Blasquiz, Jannick Top and Rene Garber)
復活後の発掘盤だが未発表スタジオ録音なので取り上げる。ヴァンデ(ドラムス、ピアノ)、トップ(ベース)、ガーバー(木管)にリード・ヴォーカルのブラスキスの4人で、全員がヴォーカルとパーカッションを兼任しながら泥沼のような1時間全1曲の即興演奏を展開する。
1973: Mekanik Destruktiw Kommandoh(MDK)
全編コバイア語のコーラスでアルバム1枚が組曲をなすというマグマの作風を確立した、記念すべき初国際リリース作品。
1974: Wurdah Itah (originally released as a Christian Vander album)
コンパクト版「MDK」というか、ホーンとギターも抜いてヴォーカル＆コーラス、ピアノ、ベース、ドラムスだけでマグマの音楽が成り立つのを実証したアルバム。
1974: Kohntarkosz
1975: Live/Hhai
名盤「MDK」に続く国際リリース作の名作『コーンタルコス』の翌年にはベースのトップ始めメンバーを一新、「コーンタルコス」タイトル曲完全演奏、未発表曲多数の70年代前半マグマの総決算的大傑作ライヴをものした。ホーンに代えてヴァイオリン、ギター、シンセサイザー類をフィーチャーし、より攻撃的なサウンドを聴かせる。別題"Kohntark""Magma Live"。
1976: Udu Wudu
ベースにトップが復帰し、実質ヴァンデと双頭リーダー作に。『ライヴ』のメンバーと半々。コバイア神話のコンセプトはやや後退し、トップのリズム指向が強く出る。これもゴメルスキーのプロデュース作。
1977: Inedits
一時活動休止で経済難に陥ったことで発売されたオフィシャル・ブートレッグ的ライヴ・アンソロジー。未発表曲集の体裁だが実際はライヴから即興演奏部分を独立曲として編集したもの。音質劣悪だが演奏の迫力は凄まじい。
1978: Attahk
分裂・活動休止・再結集したマグマの、コバイア神話シリーズ最後のスタジオ録音。ファンク＝フュージョン色が濃くなり全7曲と曲もコンパクトに。プロデュースはデビュー作と『トリスタンとイゾルデ』以来のマルチプレイヤー、ローラン・チボーに戻る。
1981: Retrospektiw (Parts I+II)
1981: Retrospektiw (Part III)
80年6月のマグマ10周年回顧コンサートをLP3枚分に収録。スタジオ作からの代表曲、アルバム未収録曲でコバイア年代記を概括する。
1984: Merci
メンバーはほとんどゲスト参加で実質ヴァンデのソロ・アルバム。ヴォーカルもヴァンデ自身。歌詞は英語、フランス語、コバイア語ともはや統一感なく、ソウル＝ファンクのアルバムとして聴くべき。以後92年までマグマ名義の活動は行われない。
1985: Mythes et Legendes Vol. I (compilation)
ナレーションと大胆な編集でデビュー作からアルバム未収録シングル、『レトロスペクティヴ』までの主要曲をコバイア神話年代記の解説を主眼にまとめたもの。ベスト盤としては不向き。活動再開後ライヴ映像で同タイトルのシリーズが出たが、アルバムとしてはVol.1以降のシリーズは出ていない。
前作『呪われし地球人たちへ(MDK)』はフランス版ローリング・ストーン誌2010年2月号でフレンチ・ロック名盤33位に選出され、さらに2015年の「50 Greatest Prog Rock Albums of All Time」特集号では同アルバムを24位に選んだ。『MDK』は「Theusz Hamtaahk(トゥーザムターク)」の第3楽章だったわけだが(第1楽章『トゥーザムターク』は『レトロスペクティヴ』で発表)、『コーンタルコス』は「コーンタルコス」三部作の第2部で、第1部は2004年発表のアルバム『K.A. (Kohntarkosz Anteria)』、第3部は2009年発表のアルバム『Emehntehtt-Re』(『マグマ・ライヴ』のCDボーナス・トラックで部分発表済み)が相当するという。「トゥーザムターク」三部作は2001年に完全版が発表されたが、恐ろしいのは1973年にはクリスチャン・ヴァンデは「トゥーザムターク」三部作、「コーンタルコス」三部作の作曲を終えていたとのことで、発掘ライヴに確かにその証拠がある。92年のマグマ復活時に新曲『Zess(宇宙神)』がライヴ・ヴァージョンで抜粋演奏され、発掘ライヴではすでに81年に32分を使ってしかもこれでも抜粋演奏で、ヴァンデのことだから『Zess』も三部作のいち楽章だったりするのかもしれない。この誇大妄想的大曲志向は尋常なロック・バンドのスケールを超えているとしか言えない。
また、ヴァンデは優れたドラマーで(義父にあたる人がジャズ・ピアニストのモーリス・ヴァンデだという)、ヴォーカリストではオーティス・レディング、ミュージシャンとしてはジョン・コルトレーン(『コーンタルコス』にコルトレーン追悼曲を入れている)に傾倒していたから、ドラマーはコルトレーンのドラマーのエルヴィン・ジョーンズを目標にしていた。67年7月のコルトレーンの急逝、68年5月のパリ5月革命の雰囲気の中で結成されたのがマグマだったが、決して上手いドラマーとも独創的な作曲家とも、バンドのコンセプト・メイカーとも思えない。カール・オルフやサン・ラを聴くと、特にサン・ラ＆ヒズ・アーケストラなしにはマグマはなかっただろう。サン・ラの後にはジェームス・ブラウン、またフェラ・クティがいる。そして彼らと比較してしまうとヴァンデは真のオリジナリティも歴史的必然性も欠いた音楽家に見える。
それでもヴァンデは作曲家として、またバンドリーダーとして白人ロックでは突出した才能の人で、『コーンタルコス』タイトル曲などはドレミ(実際はラシドだが)の3音だけをモチーフ(動機)に30分を超える長大なアレンジを編み出してみせることもできた。ヴァンデ最大の発明は、黒人音楽とスラヴ音楽からの着想ではあるが、アンサンブルのすべてをリズムに集中させたことで、デビュー作と第2作で部分的に実験した後、第3作『MDK』で完全に手法を確立したことだろう。これは1989年になって発掘された『MDK』の未発表初期テイク『Akt X: Mekanik Kommandoh』(録音1973年)ではギターやホーンを入れていない分いっそう際立っている。『コーンタルコス』ではたった3音の動機を変奏していく、というミニマリズムによってさらに異様な音楽を作り出している。
80年代半ばまで、日本に紹介された(日本盤が出た)ヨーロッパ圏のロックを上げると、プログレッシヴ・ロック系の批評家諸氏が意図的にマグマを落とす、言及しない、という面白い現象があった。オルメやアンジュを上げてもマグマの存在はスルーする。いわゆるシンフォニック・ロックとして見れば、マグマの作曲・編曲手法はフォーカスやグリフォンどころではなく伝統的なクラシック音楽の現代的応用で、厳密に総譜に起こせるし、本当に総譜を用意して演奏しているかもしれないものだ。ライヴがマグマのロック・バンドとしての大傑作になったのは楽譜と首っ引きではなくスタジオ盤以上の演奏を達成してみせたからだろう。『MDK』も最高の演奏は2014年に発掘リリースされた74年2月のブレーメン放送局のライヴだったりする。そうした意味では、マグマの音楽の魅力はスペクタクル性にかかっているかもしれない。
