人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

マグマ Magma - コーンタルコス Kohntarkosz (A&M, Vertigo, 1974)

マグマ - コーンタルコス (A&M, Vertigo, 1974)

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マグマ Magma - コーンタルコス Kohntarkosz (A&M, Vertigo, 1974) Full Album : https://youtu.be/_sV2unEWOW4
Recorded at Manor Mobile, Bastide De Pierrefeu (Valbonne)
Released by A&M Records SP-3650 (US), 1974 / AMLS 68260 (UK), 1974 / Vertigo 6325 750 (France), 1974
Produced by Giorgio Gomelsky

(Side A)

A1. コーンタルコス パート1 Kohntarkosz (Part I) (Christian Vander) - 15:22
A2. オーク・アラーム Ork Alarm (Jannick Top) - 5:28

(Side B)

B1. コーンタルコス パート2 Kohntarkosz (Part II) (C. Vander) - 15:55
B2. コルトレーンよ安らかに Coltrane Sundia aka "Coltrane Rest in Peace" (C. Vander) - 4:11

[ Magma ]

Klaus Blasquiz - vocals, percussion
Stella Vander - vocals
Gerard Bikialo - pianos, Yamaha organ
Michel Graillier - pianos, clavinet
Brian Godding - guitar
Jannick "Janik" Top – bass, cello, vocals, piano
Christian Vander - drums, vocals, piano, percussion

(Original A&M "Kohntarkosz" LP Liner Cover & Vertigo Side 1 Label)

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 まず今回もマグマのアルバムの原題は子音・母音のアクセント記号が特殊(というか創作)すぎて、フランス語やドイツ語のアクセント記号も文字化けするから割愛しなければならないくらいだから、架空惑星コバイア語ならなおさらなのですべて割愛せざるを得なかったのを初めにおことわりしておきます。さて、筆者が初めて買ったマグマのアルバムがこれでした。というか、LP時代にマグマを聴き始めた人は日本盤も出ていた『呪われし地球人たちへ』と『コーンタルコス』『マグマ・ライヴ』、クリスチャン・ヴァンダー(当時の表記)名義の『トリスタンとイゾルデ』か、アメリカ盤の中古が中古レコード店の不人気アルバムとして溢れかえっていた『呪われし~』『コーンタルコス』『マグマ・ライヴ』から入るのが普通だったはずです。『呪われし~』『コーンタルコス』『マグマ・ライヴ』はマグマ絶頂期の3枚(『マグマ・ライヴ』は2枚組ですが)でもあり、'60~'70年代のロシア系名物マネジャー=プロデューサーのジョルジオ・ゴメルスキーが手がけたので英米欧日国際発売が実現したのでした。マグマの最高傑作は『ライヴ』と定評がありますが、ライヴで2枚組とあっては初めて聴くには少々荷が重いでしょう。『トリスタンとイゾルデ』も名作ですが原盤はフランス盤でしたし、日本盤も輸入中古バーゲンの定番『呪われし~』『コーンタルコス』より倍あまり高価でした。というより、『呪われし~』『コーンタルコス』2枚の中古価格はどちらも1000円でお釣りがくる不人気盤でした。

 ロシア系の興行師ゴメルスキーが'60~'70年年代に手がけたアーティストはSonny Boy Williamson, The Rolling Stones, The Animals, The Paramounts, The Yardbirds, Magma, Blossom Toes, Julie Driscoll, Gong, Soft Machine, Materialなどなどですが、ゴメルスキーはかなり変わったビジネス感覚の人で、新人やヴェテランを売り出しておいて軌道に乗ると他のマネジメントに紹介して自分はまた別のアーティストを掘り出してくる、という移り気か博打打ちか転売屋のような音楽業界人でした。権利関係も変わっていて、ゴメルスキーとアーティスト自身の二重版権登録がされていて、ゴメルスキー経由とアーティスト経由で別々のレーベルから同一音源が再発売されているのも珍しくありません。ストーンズとアニマルズ(レコード・デビュー前まで)、ヤードバーズ(1966年まで)のマネジャー=プロデューサーがソフト・マシーン(レコード・デビュー前)、ゴング(初期)、マグマ(国際デビュー期)のマネジャー=プロデューサーに転身したとはなんだかすごい変わり身ですが、とにかくマグマが'70年代に『呪われし~』『コーンタルコス』『ライヴ』の3大傑作を国際発売できたのはゴメルスキーの手腕でした。『コーンタルコス』のギタリストがこのアルバムだけ参加のブロッサム・トゥズ(英)のブライアン・ゴッディングなのもゴメルスキーつながりだったわけです。

 前回は総華的にマグマのキャリアを紹介しすぎましたが、1992年の復活アルバム発表以前、『メルシー』を最後に一旦解散するまでのマグマの全アルバムはこうなります。メンバー連名のスタジオ・セッション作『Sons』は含み、'90年代以降に発掘リリースされたオリジナル・マグマ活動期間中の発掘ライヴは除きます。

[ Magma Discography 1970-1984 ]

●1970 :『コバイア - マグマ誕生』Magma (reissued as Kobaia)
●1971 :『2 - 摂氏1001℃』1001゚Centigrades
◎デビュー作は2枚組。コバイア神話のテーマはすでに始まっていますが、フランス語歌詞でまだホーン・セクション入りジャズ・ロックの範疇に入ります。第2作も同傾向ですが、構成力に格段の進歩がうかがえます。

●1972 : The Unnamables (studio album released under the alias 'Univeria Zekt')
◎変名バンド「ユニヴェリア・ゼクト」名義。マグマ名義作品よりさらにオーソドックスで聴きやすいジャズ・ロック。

●1992 :『ヴァンデ、トップ、ブラスキス&ガルべ / Sons Document 1973』Akt II: Sons: Document 1973 (recorded in 1973 at Le Manor, featuring a scaled-back line-up of Christian Vander, Klaus Blasquiz, Jannick Top and Rene Garber)
◎復活後の発掘盤ですが未発表スタジオ録音なので取り上げます。ヴァンデ(ドラムス、ピアノ)、トップ(ベース)、ガーバー(木管)にリード・ヴォーカルのブラスキスの4人で、全員がヴォーカルとパーカッションを兼任しながら泥沼のような1時間全1曲の即興演奏を展開するセッション・アルバム。

●1973 :『呪われし地球人たちへ』Mekanik Destruktiw Kommandoh
◎略称『MDK』。全編コバイア語のコーラスでアルバム1枚が組曲をなすマグマの作風を確立した、記念すべき初国際リリース作品。

●1974 :『トリスタンとイゾルデ - 地球の終焉』Wurdah Itah (originally released as a Christian Vander album)
◎コンパクト版『MDK』というか、ホーンとギターも抜いてヴォーカル&コーラス、ピアノ、ベース、ドラムスだけでマグマの音楽が成り立つのを実証したアルバム。

●1974 :『コーンタルコス』Kohntarkosz
●1975 :『ライヴ!』Live/Hhai
◎名盤『MDK』に続く国際リリースの名作。『コーンタルコス』の翌年にはベースのトップ始めメンバーを一新、「コーンタルコス」タイトル曲完全演奏、未発表曲多数の'70年代前半マグマの総決算的大傑作ライヴが『Live/Hhai』。ホーンに代えてヴァイオリン、ギター、シンセサイザー類をフィーチャーし、より攻撃的なサウンドを聴かせます。別題"Kohntark", "Magma Live"。

●1976 :『未来からの鼓動 - ウドゥ・ヴドゥ』Udu Wudu
◎ベースにトップが復帰し、実質ヴァンデと双頭リーダーに。『ライヴ』のメンバーと半々。コバイア神話のコンセプトはやや後退し、トップのリズム指向が強く出たアルバム。これもゴメルスキーのプロデュース作。

●1977 :『幻の音像』Inedits
◎一時活動休止で経済難に陥ったことから発売されたオフィシャル・ブートレッグ的ライヴ・アンソロジー。未発表曲集の体裁ながら実際はライヴから即興演奏部分を独立曲として編集したもの。音質劣悪でも凄まじい迫力の人気作。

●1978 :『ウルゴンとゴルゴ - アターク』Attahk
◎分裂・活動休止・再結集したマグマの、コバイア神話シリーズ最後のスタジオ録音。ファンク=フュージョン色が濃くなり曲も全7曲とコンパクトに。プロデュースはデビュー作と『トリスタンとイゾルデ』以来のマルチプレイヤー、ローラン・チボールに戻ります。

●1981 :『レトロスペクティヴI & II』Retrospektiw (Parts I+II)
●1981 :『レトロスペクティヴIII』Retrospektiw (Part III)
◎1980年6月のマグマ10周年回顧コンサートをLP3枚分に収録。スタジオ作からの代表曲、アルバム未収録曲でコバイア年代記を概括したライヴ盤。

1984 :『メルシー』Merci
◎メンバーはほとんどゲスト参加で実質ヴァンデのソロ・アルバム。ヴォーカルもヴァンデ自身。歌詞は英語、フランス語、コバイア語と統一感なく、ソウル=ファンク化が顕著なアルバム。以後1992年までマグマ名義の活動は行われなくなります。

●1986 :『神話と伝説 - 第一章 -』Mythes et Legendes Vol. I (compilation)
◎ナレーションと大胆な編集でデビュー作からアルバム未収録シングル、『レトロスペクティヴ』までの主要曲をコバイア神話年代記の解説を主眼にまとめたもの。ベスト盤としては不向き。活動再開後ライヴ映像で同タイトルのシリーズが出ますが、アルバムとしてはVol.1以降のシリーズは出ていません。

 前作『呪われし地球人たちへ(MDK)』はフランス版ローリング・ストーン誌2010年2月号でフレンチ・ロック名盤33位に選出され、さらに2015年の「50 Greatest Prog Rock Albums of All Time」特集号では24位になりました。『MDK』は三部作「Theusz Hamtaahk(トゥーザムターク)」の第3楽章だったのですが(第1楽章『トゥーザムターク』は『レトロスペクティヴ』で発表)、『コーンタルコス』は「コーンタルコス」三部作の第2部で、第1部は2004年発表のアルバム『K.A. (Kohntarkosz Anteria)』、第3部は2009年発表のアルバム『Emehntehtt-Re』(『マグマ・ライヴ』のCDボーナス・トラックで部分発表済み)が相当するとされています。「トゥーザムターク」三部作は2001年に完全版が発表されましたが、恐ろしいのは1973年にはクリスチャン・ヴァンデは「トゥーザムターク」三部作、「コーンタルコス」三部作の作曲を終えていたとのことで、発掘ライヴからその証拠が確かに確認できます。1992年のマグマ復活時に新曲『Zess(宇宙神)』がライヴ・ヴァージョンで抜粋演奏され、発掘ライヴではすでに81年に32分を使ってしかもこれでも抜粋演奏で、2019年の『ゼス (全宇宙を統べる者) -その日、万物は無へと還る-(Zess)』で完全版がリリースされました。この誇大妄想的大曲志向は尋常なロック・バンドのスケールを超えているとしか言えません。

 また、ヴァンデはジャズ界でも知られたドラマーで(ジャズ・ピアニストのモーリス・ヴァンデが義父です)、ヴォーカリストではオーティス・レディング、ミュージシャンとしてはジョン・コルトレーン(『コーンタルコス』にコルトレーン追悼曲を入れています)に傾倒していましたから、コルトレーンのドラマーのエルヴィン・ジョーンズを目標にしていました。1967年7月のコルトレーンの急逝、1968年5月のパリ5月革命の雰囲気の中で結成されたのがマグマでしたが、ドラマーとしても作曲家としてもバンドのコンセプト・メイカーとしても必ずしも突出した人ではないでしょう。カール・オルフやサン・ラ&ヒズ・アーケストラなど、影響の痕跡が強すぎるのです。サン・ラの後にはジェームス・ブラウン、またフェラ・クティがいます。そうしたミュージシャンと比較してしまうと、ヴァンデ=マグマは真のオリジナリティも歴史的必然性も欠いたアーティストに見えます。

 それでもヴァンデは作曲家として、またバンドリーダーとして白人ロックでは異色の人で、『コーンタルコス』タイトル曲などはドレミ(実際はラシドですが)の3音だけをモチーフ(動機)とするイオリアン音階で30分を超える長大なアレンジを編み出しています。ヴァンデ最大の発明は黒人音楽とスラヴ音楽の融合ですが、アンサンブルのすべてをリズムに集中させたことで、デビュー作と第2作で部分的に実験した後、第3作『MDK』で完全に手法を確立したことでしょう。これは1989年になって発掘された『MDK』の未発表初期テイク『Akt X: Mekanik Kommandoh』(録音1973年)ではギターやホーンを入れていない分コーラス、ピアノ、ベース、ドラムスだけのアレンジではいっそう際立っています。『コーンタルコス』ではたった3音の動機を変奏していくミニマリズムによってさらに異様な音楽を作り出しています。

 1980年代半ばまで、日本に紹介された(日本盤が出た)ヨーロッパ圏のロックを上げると、プログレッシヴ・ロック系の批評家諸氏が意図的にマグマを落とす、言及しない、という現象がありました。オルメやアンジュを上げてもマグマの存在をスルーしていたのは、プログレッシヴ・ロックをいわゆるシンフォニック・ロックとして見た場合、マグマの作曲・編曲手法はフォーカスやグリフォンどころではなく伝統的なクラシック音楽の現代的応用で、厳密に総譜に起こせるし、本当に総譜を用意して演奏しているかもしれないロック性の稀薄さからでした。実際に日本の芸能山城組のようにフォークロアの研究からマグマとまったく同時期に活動していた日本のグループも存在していました。芸能山城組やタージ・マハル旅行団のアルバム同様ライヴがロック・バンドとしてのマグマの傑作になったのは楽譜と首っ引きでなしにスタジオ盤以上の演奏を達成してみせたからでしょう。『MDK』も最高の演奏は2014年に発掘リリースされた1974年2月のブレーメン放送局のライヴです。そうした意味では、マグマの音楽の魅力は後期ロマン派的クラシック音楽のようなスペクタクル性とフォークロアの融合を「腸捻転を起こした《ガダ・ダ・ビダ》」のようなヘヴィ・ロックで表現したあたりにあるのかもしれません。

(旧稿を改題・手直ししました)