Recorded in New York City on October 15 (tracks A1-4), December 18 (tracks A5-6, B3-4), 1952 and September 22, 1954 (tracks B1-2)
Released; Prestige 7027, 1956
All compositions by Thelonious Monk, except where noted.
(Side A)
1. Little Rootie Tootie : https://youtu.be/EaN0txvB6Hc - 3:06
2. Sweet and Lovely (Gus Amheim, Jules LeMare, Harry Tobias) : https://youtu.be/okucDOlyLoE - 3:33
3. Bye-Ya : https://youtu.be/Sl7DXlo-ves - 2:46
4. Monk's Dream : https://youtu.be/eIcwq3G-jOc - 3:07
5. Trinkle, Tinkle : https://youtu.be/CCRLkP6h5E0 - 2:49
6. These Foolish Things (Harry Link, Holt Marvell, Jack Strachey) : https://youtu.be/Duks58TOHGM - 2:46
(Side B)
1. Blue Monk : https://youtu.be/J4X5folutT8 - 7:39
2. Just a Gigolo (Julius Brammer, Irving Caesar, Leonello Casucci) : https://youtu.be/GusPRgCPu_A - 3:00
3. Bemsha Swing : https://youtu.be/csKxvWTDvlU - 3:10
4. Reflections : https://youtu.be/4m-1BU58SJY - 2:48
[ Personnel ]
Thelonious Monk - piano (unaccompanied on B2)
Percy Heath - bass (track B1)
Art Blakey - drums (tracks A1-4, B1)
Gerry Mapp - bass (tracks A1-6, B3-4)
Max Roach - drums (tracks A5-6, B3-4)
セロニアス・モンク(ピアノ・1917～1982)の代表作というともっと後年のアルバムが上げられることが多いが、もっとも初期のレコーディングになるブルー・ノート・レーベル時代(1948年～1952年)には6セッション32曲を録音し、うち23曲オリジナル曲を発表している。そのほとんどがモダン・ジャズの名曲になったが、SP時代の録音のため十分なアドリブ・パートがとれず、またモンクの作風はビ・バップ全盛期にはあまりに風変わりだったため、共演ジャズマンの演奏も曲をこなしきれていない生硬なものになった。これらは後に移籍するレーベルでより入念に再演されることになる。
1952年後半～1954年はプレスティッジ・レーベル時代で、唯一フランス公演に招かれた時に当地のヴォーグ・レーベルにソロ・ピアノの10インチLPを録音し、これはブルー・ノートに録音した曲のベスト選曲だったが、プレスティッジ・レーベルで録音したのはすべて新しいレパートリーだった。ただしプレスティッジでは不利で不公平な契約の上に仕事を干されて散々な目にあっている。
そんなモンクを救出すべくプレスティッジから引き抜いたのがリヴァーサイド・レーベルで、1955年～1961年の在籍期間はようやくモンクの評価が高まってきた時期だった。モンクは看板アーティスト待遇を受け、最初の2枚はデューク・エリントン曲集とスタンダード曲集だったが、モンクが一流ジャズマンとしての評価を獲得すると旧作曲と新曲半々、後にはアルバムごとに新曲は1～2曲でブルー・ノート時代とプレスティッジ時代の曲の決定ヴァージョンが作られていくことになる。
これまでのレーベルはすべてインディーズだったため、1962年～1968年に在籍したコロンビアはモンクがついにメジャー・レーベルのアーティストになったこともあり、アルバムは既発表曲をほぼ網羅する再録音シリーズの趣きになり、新曲はほとんど含まれなくなった。インディーズ作品は全国的には一般流通していないため、全米きっての週刊誌「Time」の表紙をルイ・アームストロング、デイヴ・ブルーベック、デューク・エリントンに次いで飾るほどの名士ジャズマンになったモンク(ちなみにモンク以降は現在までにはウィントン・マルサリスのみ)にはメジャー・レーベルでリリースされる全曲集(新曲よりも)の需要があった。
コロンビアとの契約満了後は、インディーズのブラック・ライオンにアルバイトでアルバム3枚分の録音を1日のセッションで収録した以外はレコード契約せず、コンサート出演の回数もどんどん減らし、1975年のコンサート出演を最後に事実上の引退生活に入る。青年時代にすでに予兆があり、40歳すぎからはっきりと症状が現れていた精神疾患が慢性化し、晩年には家族の顔や名前もわからなくなっていたという。生前は変人・奇人と話題になっていた人だが、本物の、しかも深刻な精神障碍者だったとは逝去してから公けにされた。
(Original Prestige "Thelonious Monk Trio" LP Liner Notes)
ビ・バップをリードしたジャズマンたち----夭逝の天才ギタリストと名高いチャーリー・クリスチャン、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、バド・パウエル、マイルス・デイヴィス、アート・ブレイキーらはクラークとモンクに見出された尖鋭たちだった。モンクがどれだけ権威があったかは、モンクに心酔していた若手ピアニストのハービー・ニコルスがジャムセッションで相手にされなかったのを後々まで心の傷にしていたのでもわかる。
ビ・バップ運動はケニー・クラークとセロニアス・モンクが先導した、という定説は以上で要約した通りだが、クラークが典型的なバップ・ドラムスと呼ばれないのと同様、ではモンクはビ・バップのピアニストかというと否定的な意見が日本では多い。チャーリー・パーカーがビ・バップの主流をなす手法に定着させたコード分解音階を、単音のアドリブ・ソロに応用した点で、バド・パウエルこそがビ・バップのピアニストであり、モンクのピアノ技法はモンク個人の手法でビ・バップの技法ではない、というのがモンクをビ・バップ・ピアニストではないとする意見の背景にある。バド・パウエルのフォロワーがビ・バップ・ピアニストの大半を占めたのも確かだろう。だがビ・バップとはモダン・ジャズの革新運動であって、特定のスタイルを指すものなのだろうか。
モンクをビ・バップ・ピアニストではないと決めつけているのは日本だけで、欧米ではセロニアス・モンクもレニー・トリスターノもジョン・ルイスもタッド・ダメロンもビ・バップ運動を担ったアーティストとして、ビ・バップ・ピアニストとされている。レニー・トリスターノはクール・ジャズではないかと言われそうだし、タッド・ダメロンは優れたビ・バップ・バンドリーダーでこそあれピアニストとしての評価すらされていないだろう。ジョン・ルイスはもちろんライフ・ワークになったのはモダン・ジャズ・カルテットでの活動だが、バド・パウエルだって典型的なバップ・スタイルだったのは1953年頃まででしかない。
モンクは理論的な面でもパウエルの師だったとされている。モンクにとって典型的なバップ・スタイルはレコード・デビュー前に終わっていたとも考えられる。後のフリージャズが特定のスタイルを指すジャンル用語ではないのと同様、ビ・バップも40年代ジャズの改革としてもっと混沌とした、多様な運動性を持っていたのではないだろうか。
(Original Prestige"Thelonious Monk Trio" LP Side A Label)
現A面冒頭『Little Rootie Tootie』(いわゆる"Train Song"なのだろうか)の強烈な不協和音の炸裂に慣れていると、のんびりした『Blue Monk』でアルバムが始まるのは違和感を感じる。ただし各面の曲順に変更はないので、それぞれの面を聴いてひと息つくのはそう違いはない。このアルバムは全10曲中スタンダード3曲・オリジナル7曲すべて新レパートリーで、スタンダード3曲もモンクのオリジナル曲のようなデフォルメの効いたアレンジになっている。7分40秒の『Blue Monk』を除けば3分前後にコンパクトにまとめたピアノ・トリオ作品集なのもモンクのレパートリーのショーケースとしてうまくいった。後にモンクはテナー奏者を迎えた1ホーン・カルテットをレギュラー・バンドの編成として好むようになり、1曲10分以上の演奏も珍しくなくなるが、10インチLP用のトリオ録音として意図的に1曲を簡潔な録音時間に収めたのがこのアルバムでは最上の成果を上げたのは10インチLP用録音の効用だった。
ブルー・ノート時代にもホーン入りやピアノ・トリオで3分前後の録音を30曲あまり吹き込んできたのだが、モンクの抱負が実演に実現しきれないもどかしさがついてまわった。ブルー・ノート時代に録音した、オリジナル23曲を含む32曲のレパートリーは、30歳までにモンクが温めてきて仲間のジャズマンたちがモンクより先に録音したものや、ジャムセッションの定番曲になった曲も少なくなかった。それまでのモンクの全曲集の意味合いが強く、その分曲の鮮度はやや落ちていたとも言える。
同じことがリヴァーサイド後期、コロンビア時代全般にも言えて、新曲揃いの意欲作よりもお馴染みの名曲の最新再録音に新曲を1～2曲加えたアルバム作りが常態化してしまう。だがプレスティッジは、モンクのキャリアの上では中継ぎ的な期間ではなかったし、12インチLPにまとめられたのもThelonious Monk Trio』(Prestige 7027/1952?4),『Monk』(Prestige 7053/1953-4),『Thelonious Monk and Sonny Rollins』(Prestige 7075/1953-4)とソニー・ロリンズとのセッションの余り2曲が収録されたロリンズ名義の『Moving Out』(Prestige, 1954)、1時間分のオールスター・セッションで2枚に分けられたマイルス・デイヴィス『Bags' Groove」(Prestige, 1954)と『Miles Davis and the Modern Jazz Giants』(Prestige, 1954)があるが、この時期モンクは不祥事から誤認逮捕され捏造事件で有罪となり、執行猶予で済んだものの音楽家組合からライヴ禁止の謹慎処分を1955年までくらってしまっていた。出張録音『Solo on Vogue』(Disques Vogue, Paris, 1954)もあったとはいえ、この時期家計を支えていたのはモンクの母堂とモンク夫人だったという。
私生活上の行き詰まりを、モンクは音楽にはきっぱりと持ちこまなかった。ジャズマンのクールネスとはそういうものだ。複数セッションがあまりはっきりしない方針で集められている続くプレスティッジのアルバムより選曲の自由が効いたからか、『Thelonious Monk Trio』は選曲・構成ともにモンク初の傑作アルバムになっている。いわやるジャズで10曲収録、曲想は多彩かつ自然な流露感があり、捨て曲なし、といえるピアノ・トリオ・アルバムはモダン・ジャズ以降ではこの作品が里程標になる。
オリジナル曲中心のピアノ・トリオ・アルバムはこの作品と後年のブラック・ライオン盤になるが、あちらは再演集だし、リヴァーサイドからの最初の2枚のピアノ・トリオ盤は前述の通りエリントン集とスタンダード集だったから、初出レパートリーだけで固めたピアノ・トリオ盤は正真正銘これだけになる。これほどうまく行った作品がありながらこれを踏襲した企画がされなかったのは不思議な気がする。
それはモンクの新曲創作力が底をついてきたからかもしれないし、30代までに50曲あまりのオリジナル曲を書いたモンクはジャズ史上でもエリントンに次ぎ、モンクに続くのはチャールズ・ミンガス、オーネット・コールマン、ウェイン・ショーターくらいになるというジャズの大作曲家の評価を受けている。また、スタンダード化している曲はブルー・ノート時代にすでに発表された曲が多く、プレスティッジ～リヴァーサイド時代の新曲は初期の曲ほどスタンダード化していないのも確かで、名曲ではあっても必ずしも多くのカヴァーを生むとは限らない。このアルバムのオリジナル7曲も優劣つけ難いが、『Blue? Monk』『Reflections』『Monk's Drean』あたりが準スタンダードで、『Bye-Ya』『Bemsha Swing』あたりがそれに次ぐにせよ、ブルー・ノート時代の『Round Midnight』『Straight No Chaser』『Epipstrophy』『Well You Needn't』『Misterioso』『Evidence』などの必殺スタンダードには達していない。もっともこれらは、録音される前に10年あまりジャムセッションで磨きをかけられてきた曲でもあった。
