人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(50)

 そろそろこの膠着状態、すなわち(1)納屋に閉じこめられたジャムおじさんとバタコさんのわいせつ行為、(2)アンパンマンの部屋で縛りつけておいたカレーパンマンの奮闘、(3)ガレージでカーセックス中のしょくぱんまん、(4)ドキンちゃんも帰ってしまい、いまだドキンちゃんの蹴りと光線銃ショックで体がびりびりしているばいきんまん、という現状はパン工場内のエントロピーを著しく増大させていました。もしパン工場が完全に密閉された空間なら、上記4項目の状態は熱力学の第一法則、すなわちエネルギー保存によって加熱し続けることも考えられましたし、第二法則、すなわちエントロピーの概念によるエネルギーの減少によって徐々に沈静化していくものとも思えました。
 しかし全体的に見れば、事情はともかくこれは人も羨む乱交パーティの様相を現しており、(4)でのばいきんまん以外の誰もがパン工場では今とんでもないことになっている、と推測し、興奮をつのらせらながら行為に励んでいたのです。おそらく負のグループに属していたのは(2)縛りつけられたカレーパンマンと(4)びりびりしているばいきんまんの二組(というのは、カレーパンマンは乳頭、ばいきんまんにはホラーマンという相方がいましたから)で、その場合(1)ジャムおじさんたちとバタコさん、(3)しょくぱんまんといちごミルクちゃんは正のグループになりますが、水は低きに流れると言われるようにエネルギーは通常高い方から低い方に流れるのでその方向は(1)(3)グループから(2)(4)グループへとなり、これはポテンシャルの高低差があればあるほど効率が良いと言え、解説するほど事情は面倒なので一気に飛ばしますが、早い話パン工場という閉鎖系の中では一種のエネルギー循環が起こっていました。それはもし無理に節穴を空けようとしたら外世界を呑み込む逆転現象を起こしかねず、その逆転現象は世界のすべてをパン工場の内部とし、世界はパン工場の中のほんの一部に縮小しかねないほど危険極まりないものだったでしょう。
 かつてはその中心にアンパンマンがいました。アンパンマンがいてこそ保たれていた秩序ならば、アンパンマンが不在である今、どうにかなってしまいそうなのは当然です。ですが今、他でもなくアンパンマンの不在を望んでいるのは、巨大な乳頭をアンパンマンと認めたくないパン工場の人たちでもあったのです。
 第五章完。