人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(9)

 私ウサギってもっと可愛い動物だと思っていたわ、とエディス。そう思いたいところですがね、とドジソン先生、本来ならウサギはもっとチャーミングな動物だったかもしれない。しかし彼らにはちょっと間の抜けた性質があって、一匹が走り出すと周りのウサギもつられて群れをなして無我夢中で走り出すお調子者な本性がありました。そこでニュージーランドでは、両手に棍棒を持って草原に立って待っていると、ウサギの大群が走ってきたらめった矢鱈に棍棒を振り回すだけで大量の食用ウサギを収穫できるのです。そこから人間に対するウサギの深い猜疑心が生まれました。
 ひどいわ、とロリーナ、そんな野蛮人みたいな狩りを、どうして動物愛護団体は見過ごしていたのかしら?
 それはニュージーランド植民がわれわれイギリス人のご先祖様だったからです、とドジソン先生。動物愛護団体だって同胞を非難するような売国奴なことはしません。それにウサギの繁殖力はたまげたものですから、ひとにぎりのニュージーランド植民がモグラ叩きしたくらいでは減るもんじゃありません。かえって一定数は潰しておかないと、牧草不足で餓死するウサギまでいます。食物連鎖ってわかります?みなさんは学校で習いましたね。ウサギは牧草を食う。そのウサギをニュージーランド植民が食う。ニュージーランド植民はイギリス政府から植民税を絞り取られる。話をウサギに戻すと、一部のウサギが食用に狩られることで周期的な個体数の爆発を回避させられ、牧草面積に見合っただけのウサギが餓えずに暮らしていける。これは非常に合理的な話なのです。
 それじゃ目的地を教えてくださいよ、とウサギ、もっとも目的地を言えるなら道案内なんか必要ないんじゃないんですか?
 ウサギ風情が口答えしない!とアリスは柳の枝(まだ持っていたのです)をびゅんびゅん振りまわし、目的地は3人の婆さん連中が井戸端会議している木よ。
 イナバです、とウサギは身を縮ませ、あー了解しました、でも案内したらお嬢さんの将来に泥を塗りますよ、一応警告ですが。
 それってつまり、あんた案内したくないっていうわけなの?
 いや義務づけられているんです、とイナバさん、警告しても行くって言うんなら、それはお嬢さんの自己責任ですからね。
 たかがウサギに自己責任の説教されるとは思わなかったわ、とアリス。
 私の身にもなってくださいよ、と、イナバさん。それじゃ行きましょうか。