人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(28)

 3匹の起訴容疑はイギリス秘密諜報部の機密隠匿と非合法亡命未遂でしたが(なんで僕も、とカッパは不服でしたが、状況的に先に潜伏・手引きしていた共犯者という容疑は免れません)、裁判は在日アメリカ軍部が代行する、というイレギュラーなものでした。これは彼らのような事件の場合に軍事レベルの裁判を行う権限が日本の司法にはないからで、にもかかわらず国選弁護人は日本の弁護司会から出向するしかなく、これでは事実上弁護士にできることなど何もないばかりか、弁護側すら検察側の手下のようなものです。
 在日アメリカ軍基地で開かれた裁判は初回は検察からの起訴容疑、翌週の結審は本国への強制送還という有罪判決の確定に終わりました。こんな茶番な裁判がアリならどんな反論も意味がありません。弁護人もまるでやる気のないデクノボーで、起訴事実(どこが事実だよ、と3匹はボヤきました)をそのまま認めて最小限の罪状(誰の?)で済ませるしかないでしょう、となげやりそのものです。でも僕たちはどこの国のスパイでもありません、スパイ容疑が晴れればこれが不当逮捕なのも、拘置され起訴され有罪になるのも、すべてでっち上げの結果というのは明白になるんじゃないですか?
 私はそっちの方面は専門にしていないんでね、と弁護人はいけしゃあしゃあと言いました。懲役または罰金、というのは本国へ送還されてから改めて裁判の俎上に乗るでしょう。ならば、検察からの起訴内容が、せめて日本国内で国法に抵触する行為はなかったとされているなら最小限の処罰で済むんですよ。
 この馬鹿にはどんなに馬鹿と言っても無駄なんだろうな、とカッパはサルとイヌに目配せしました。つまり世の中にはつける薬もない馬鹿が実在して、それは好嫌とか善悪でもなく、自然災害みたいなものなんだろうな。
 そしてその通りに裁判は進み、そして結審しました。在日アメリカ軍基地から押送される覆面バスの中で、サルはさよならアメリカ、さよなら日本、とつぶやきました。
 3匹は神戸港から貨物船で労役を課せられながら(飛行機を使うほどの緊急性はなく、また貨物船で労役させるのは渡航費の節減と食費・諸雑費を自分たちでまかなわせるためでもあります)、どうやらイギリスらしい国に着いたらしいのは数か月後のことでした。そして3匹は、さっそくスペイン領と対立しあう海峡の離島をめぐる武力抗争で兵役を勤めなければならなかったのです。