僕たちはあの戦場で……あの戦場というのはあなたも(とロリーナに感謝の眼差しを注ぎましたが、ロリーナからすげなく逸らされてもめげずに)……あなたもご存知の、僕らを救い出してくれはった塹壕ですけど、救い出された時には僕らはもう戦死の身分が認定されていた後なんです。つまりラビット少佐とアリス諜報員、それから国籍不明・身元不明の民間人1名(とカッパを指し)は法的にはもう生存していません。僕らは元のヤポネシアに戻って元々の僕らに戻ればいいだけでした。
万事丸く収まったということじゃないか、とドジソン先生、元通りに復したならば、それのどこに不都合があるかね?
はい、僕らが戦地に送られた替わりに、戸籍上ぼくらの身元にヤドカリみたいにすっぽり入り込んでいた連中がいました。つまり中ノッポこと僕(とサルは自分を指して)、それからチビこと彼(とイヌを指し)は、別人がもう僕らの替わりにすり替わっていたのです。
彼は問題ないんだろう?とカッパに目をやるドジソン先生、それに君は(とイヌに目を向け)女装はしているがもともと戸籍上は男性のはずだろう?偽者が女性なら、あくまで偽者なのは明らかじゃないかね?
チョン切ってしまったという言い訳が効きます、とカッパがニヤニヤしながら言いました、もっとも本物の彼の方はまだちゃんと付いていますが。それと僕ですが、この連中と(とサルとイヌを指し)一緒にお陀仏した国籍不明者ということになっているので、祖国に戻って行方不明者から名乗りを上げると必然的に連中たちも実は生きている、ということになります。そうなるとまた僕たちは殺しに来る奴らに追われる身になってしまいます。てか現にもう追われています。生きている限りは狙われるんです。こないな話ってありますか?
話をスッキリさせるとやな、とサル、この大ノッポ(とカッパを指し)が生きている、と名乗り出たら僕ら全員が実は生きていたことになる、つまりまたまた身替わりのために殺される。だから僕たちは見つからへんように逃げ隠れ通さねばなりませんが、向こうさんとしてはいつ名乗り出るかもしれない僕らをしつこく追い続けているのです。こういうのって何と言ったらいいんでしょうね?
負のスパイラル、とロリーナ。
ではどうしたらひっくり返せるんでしょう?その、負の……。
無理でしょうね、お気の毒だけど、とロリーナ。だからこそそれはスパイラルなのよ。