人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Jackie McLean - Swing, Swang, Swingin' (Blue Note, 1960)

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Jackie McLean - Swing, Swang, Swingin' (Blue Note, 1960) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLccpwGk_xup8HyHaI2evHCz7cdky8xzza
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, October 20, 1959
Released by Blue Note Records BLP 4024, March 1960
(Side A)
A1. What's New? (Johnny Burke, Bob Haggart) - 5:19
A2. Let's Face the Music and Dance (Irving Berlin) - 4:51
A3. Stablemates (Benny Golson) - 5:47
A4. I Remember You (Johnny Mercer, Victor Schertzinger) - 5:16
(Side B)
B1. I Love You (Cole Porter) - 5:10
B2. I'll Take Romance (Oscar Hammerstein II, Ben Oakland) - 5:49
B3. 116th and Lenox (Jackie Mclean) - 6:01
[ Personnel ]
Jackie McLean - alto saxophone
Walter Bishop Jr. - piano
Jimmy Garrison - bass
Art Taylor - drums

 20代の成長とは目覚ましいもので、ジャッキー・マクリーン(1931-2005)の本作は前回載せたファースト・album『Presenting…Jackie Mclean』(Ad lib, 録音1955.10)からは4年しか経っていない。その間にマクリーンは、
2. Lights Out! (Prestige, 1956)
3. 4, 5 and 6 (Prestige, 1956)
4. Jackie's Pal (Prestige, 1956)
5. McLean's Scene (Prestige, 1957)
6. Jackie McLean & Co. (Prestige, 1957)
7. Makin' the Changes (Prestige, 1957)
8. A Long Drink of the Blues (Prestige, 1957)
9. Strange Blues (Prestige, 1957)
10. Alto Madness (Prestige, 1957)
11. Fat Jazz (Jubilee, 1957)
 と2年間で11枚ものアルバムを録音し、1959年にはブルー・ノートに移籍して、
12. Jackie's Bag (1959?60)
13. New Soil (1959, 発売は12より先)
 を矢継ぎ早に録音するが、本作は発売順で13に次ぐブルー・ノート移籍第2作、録音順ではブルー・ノート第3作で通算14枚目になる。1955年10月録音の『Presenting…Jackie Mclean』から満4年経っているが、短期間でこれほど腕前を上げたかと感嘆するくらい焦点の定まった、充実した演奏を聴かせてくれる。盟友のソニー・ロリンズ(テナーサックス/1930-)とともにマクリーンは50年代ジャズマンの生き残りとして、60年代の黒人ジャズ・シーンをリードしたジョン・コルトレーンオーネット・コールマン、またエリック・ドルフィーアルバート・アイラーらの支持層からも敬意を払われる存在になったが、それはあながちマクリーンとロリンズがチャーリー・パーカーマイルス・デイヴィスの愛弟子だったからではなく(60年代のマイルスには「白人にすり寄ったもの」と風当たりが強かった)、パーカー直伝の挑戦的で大胆な演奏が黒人ジャズ本来の精神を体現すると見られたからだった。マクリーンはロリンズに較べると音楽的スケールや完成度の進展が遅く一進一退をくり返しながら成長していたが、そうしたキャラクターも批評家やリスナーから注目されていた。1952年から1955年の間にレコーディングの空白があり、また1958年からブルー・ノート移籍初期の1960年頃まではいずれも薬物取締法による執行猶予期間中でニューヨークでのクラブ出演が禁止されていたが、レコーディング復帰後には堰を切ったような爆発的な制作意欲が見られる。マクリーン自身は後年プレスティッジ時代の多作を前借り金のための濫作と卑下しているが、バップ・スタンダードとブルース中心の初期作品を好むリスナーも多い。しかしマクリーンのアルバムがようやくジャズ誌に取り上げられ、第一線のジャズマンと認知されたのはブルー・ノートに移籍してからのことだった。
 プレスティッジはオリジナル曲の版権買い取り制だったのでなるべくオリジナル曲をやらない、というのがジャズマンの間では了解事項だったが、ブルー・ノートはリハーサルにもギャラを払い、オリジナル曲の版権はアーティストに取得させ、選曲やアルバム内容もアーティスト主導で制作させる、というインディーズには異例の制作環境を整備していたので、マクリーンにとってもようやく納得できるアルバム作りができるようになった。60年代後半のジャズ不況からマクリーンは1968年には教職に転職してしまうのだが(そして5年後にヨーロッパのレーベルから復帰作を出してカムバックするが)、1959年~1967年に後年発売されたものも含めて20枚のアルバム、20枚のゲスト参加作を残している。ブルー・ノートのアルバムではマクリーンは積極的に自作を提供し、またメンバーのオリジナル曲も積極的に取り上げているのだが、この『Swing, Swang, Swingin'』ではマクリーンのブルー・ノート作品では珍しく全7曲中6曲をスタンダード(ベニー・ゴルソン作「Stablemates」のみジャズ・オリジナルのスタンダードで他5曲は歌曲)、アルバムのラスト曲だけアンコール的なマクリーンのオリジナル・ブルースとなっている。
(Original Blue Note "Swing, Swang, Swingin'" LP Liner Notes)

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 マクリーンは癖のある音色の奏者なのでアルトサックス+ピアノトリオによるワンホーン・カルテットがすっきり聴ける。他のホーン奏者が入るとマクリーンのスペースが短くなるのもあるが、音楽性に統一感が欠けてしまう場合もある。ブルー・ノート時代のマクリーンは演奏技術も向上したので他人のアルバムに参加するとリーダーのコンセプトを理解した演奏でうまく調和しているのだが、マクリーン自身のアルバムではやはりマクリーン本人の音楽性が重要になる。このアルバムのメンバーはチャーリー・パーカーの追っかけをしていた頃からのジャズ仲間のウォルター・ビショップJr.(ピアノ/1927-1998)とアート・テイラー(ドラムス/1929-1995)に、フィラデルフィアから出てきたジョン・コルトレーンの後輩で(後にコルトレーン・カルテットのメンバー)当時ビショップのピアノトリオのレギュラー・メンバーだったジミー・ギャリソン(ベース/1934-1976)と気心知れたメンバーで、ギャリソンはベニー・ゴルソン(フィラデルフィア時代からの先輩)のバンドも在籍経験があるから「Stablemates」も当然何度も演奏経験があるだろう。同曲はマイルス・デイヴィスクインテット(コルトレーン在籍)のデビュー作(1955年)で有名で、マイルス・クインテット在籍中にポール・チェンバースが出したソロ作(1956年)ではコルトレーンのワンホーン・カルテットで演奏されている。そのワンホーン・ヴァージョンを参考にした節がある。「What's New」はプレスティッジ時代にも録音があり、「I Remember You」「I Love You」の2曲はパーカーゆかりのスタンダード、「I'll Take You Romance」も有名スタンダードで、「Let's Face the Music and Dance」はヴォーカル・スタンダードではあってもあまり器楽ジャズでは取り上げられない曲だが、このアルバムの白眉といえる。アルバム最終曲のブルースはお約束といったところか。
 本来はバラードの「What's New」もきびきびとしたテンポ設定なのでアルバム全体が若々しく快活な代わりに、A面に続けてB面を聴くと統一感があるものの、やや単調に感じられもする。ほぼ同じ長さの5分台の曲が多いのにA面4曲、B面3曲というのも不均衡で、A面の1~3曲目までの流れは完璧なのだからA4、B1~3のうち1曲削ってA面・B面3曲ずつの方が構成が整ったのではないか。増やすならともかく削れとはひどい言い方のようだが、キーを見ると単調さの理由がわかる。このアルバムは全曲長調だが、関係調への部分転調で程よく短調になっているA1~3もあるからそれはいいとして、A1はC、A2はF、A3はE♭。ここまではいいが、A4、B1、B2と連続してFの曲が続く。しかもテンポ設定がほとんど同じだからテーマを聴き落とすと同じ曲が続いているように聴こえる。B1はラテン・アクセントのリズムパターンから始まるが、A4~B2までの3曲はマクリーンのソロはまったく同一ムードで入れ替え可能なくらいだろう。B3のオリジナル・ブルースはB♭。アルトサックスで機能上アドリブ演奏の運指がもっとも容易なキーがF、B♭、E♭、Cだから、自在に演奏しやすい反面手癖が出やすいマイナス面もある。LPではともかくCDではFキーのスタンダードが3曲連続するのはくどい。マクリーン、ロリンズ、ケニー・ドーハムハンク・モブレーリー・モーガンらバップ出身で60年代の新しいスタイルに挑戦したジャズマンは、コルトレーンを例外としてオーネット・コールマンエリック・ドルフィー以降の和声面での革新には届かず、コード・チェンジとスケール(音階)、リズム・パターンの革新までが限界だったと感じる時があるが、このアルバムも申し分ない内容にもかかわらず快適な佳作止まりと思えるのは、そこらへんのツメの甘さにあるようにも見える。