人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(12)

 スナフキンの遺体は濡れた新聞紙を何重にも重ねて隙間なく包まれていました。乾いた新聞紙は意外なほどに丈夫で破れにくいものですが、濡れた新聞紙ほど破れやすい包み紙はないことからも遺体はまず乾いた新聞紙で包まれて、その後にまんべんなく水浸しにされたものと思われました。新聞紙の表面には水ににじんだために読み取れないのか、もともとこの状況で予想される発見者には読めない種類の言語なのか、あるいは言語ですらなく単に新聞紙らしき体裁のためだけに雑多な記号を組み合わせてあるだけかも確実には判別できない印刷がほどこされていました。ただしもしこの新聞紙が新聞紙を模したダミーだとすれば、何も伝えない新聞を新聞とは呼べないことからも、そもそも新聞紙ですらない可能性すら浮かんできます。その場合この遺体を包んでいるものは新聞紙でないのならば印刷された紙の様子をした屍衣にすぎず、スナフキンは新聞紙で包まれた遺体ではないことになります。
 まずいな、とスナフキンは思いました、心臓が破裂しそうだ。
 ホットケーキの発祥は古代エジプトと言われ(要出典)、小麦粉に玉子と砂糖を加えて混ぜたものをバターで焼いたものがそれに当たるといいます。現在市販されているホットケーキ粉は70年ほど前に発売され、当初はまんじゅうを作る粉としても使えるようにするため砂糖は含まれずなかなか広まりませんでした。やがて砂糖を加えたミックス粉が発売されホットケーキは家庭料理菓子として普及しますが、これをホットケーキと呼ぶのは150年程度前に伝播したごく一部の国で、ホットケーキに先だってパンケーキ(フライパンで焼くケーキ)が材料・調理法とも大部分の国では行われています。バターを乗せはちみつをかけて食べるのも同じです。パンケーキとホットケーキの違いは生地を薄く焼くのがパンケーキ、厚く焼くのがホットケーキと言うだけにすぎません。ちなみに厚く焼くこつは円周状に重ねて生地を足すとたっぷりした厚さに仕上がります。
 スナフキンの遺体を包んだ新聞紙の家庭欄にはそうした記事が掲載されていました--もしそれが新聞紙であれば、です。ですがもしその新聞に家庭欄がなかったら、またはその記事の部分だけがていねいに切り抜かれているとしたら、あるいは辛子マヨネーズを塗って食べるものとされていたらどうでしょうか。
 それは考えられないことでした。あまりに無理がありました。