人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(19)

 前回の続き。
 気のいいトゥーティッキさんは氷のようなモラン、気の弱いフィリフヨンカと相席させられて話題に困っていました。3人は魔女という属性だけが共通点ですが、もしパーティを組んだら足を引っ張りあって即全滅なのではないかと思われました。いや、すでに相席させられた時点でパーティになったようなもので、この先は絶望一直線ではありませんか。
 そう考えていたのはミムラ姉さんだけではありません。たまたま隣のテーブルだったので、総勢35名の兄弟姉妹たちみんなが何かテーブルを移る口実を探していました。しかし35名が一度に移れるテーブルなど他に見当たらないとすれば、兄弟姉妹にできるのはやばくなったら逃げることくらいしかありません。そういう場合も食い逃げなのかしら、とミイは小首をかしげました。だって身の安全が第1、命がかかっているかもしれないじゃない。
 いや、この谷では命ほど安いものはありませんからね、と缶詰泥棒のスティンキーが言いました、命なんぞはコンビーフ1缶ほどの値打ちもありません。コンビーフは下ごしらえなしでサンドイッチにもサラダにもできますが、死んだトロールなんて煮ても焼いても食えたもんじゃないですからね。もっとも死んだトロールに遺骸が残るとすればの話で。
 ぶっそうな話になってきたな、とジャコウネズミ博士はメニューをためつすがめつ吟味しながら、それはメニューに何かしかけがあったりしたら見抜けなかった自分に腹が立つからですが、一見するとこれは注文のためのメニューに見えるが違うのかもしれんぞ。どういうことかね、とヘムレンさん。つまりさ、とジャコウネズミ博士はメニューを閉じると縦に持ち、角をコツコツとテーブルの上に打ちつけて、げっそりした表情を浮かべました。
 こういうことさ、これで注文は済んでしまった気がしないかね?そして代金サービス料込み100億万ムーミン、ローンも可という伝票とともに運ばれてくるのだ、つまりテーブルに打ちつけたメニューの発信済み注文がさ。それは君、考えすぎだと思うよ、とヘムレンさん。そんな陰謀めいたことが行われているレストランなど、レストランというよりは他の名前で呼ぶべき施設になってしまいやしないかね。
 そうか、外側から魚用ナイフ、肉用ナイフ、護身用ナイフと並んでいるのだな、とムーミンパパはマナーブックを参照していました。なかなかぶっそうで、面白いではないか。