人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Walt Dickerson & Sun Ra - Visions (Steeplechase, 1979) / Sun Ra - Lanquidity (Philly Jazz, 1978)

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Walt Dickerson & Sun Ra - Visions (Steeplechase, 1979)
Recorded on July 11th. 1978
Released by Steeplechase Records SCS 1126, 1979
(Side A)
A1. Astro (Dickerson) : http://youtu.be/S4t-s30tteU - 7:52
A2. Utopia (Dickerson) - 8:10 (no links)
A3. Visions (Dickerson) - 2:50 (no links)
(Side B)
B1. Constructive Neutrons (Dickerson) : http://youtu.be/MiJuKKnP8Pc - 10:13
B2. Space Dance (Dickerson) - 8:10 (no links)
(Only on CD version) :
add1. Light Years (Dickerson) : http://youtu.be/3cHjgYDdVLo - 15:21
add2. Prophecy (Dickerson) - 9:06 (no links)
[ Personnel ]
Walt Dickerson - vibraphone
Sun Ra - piano

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Sun Ra - Lanquidity (Philly Jazz, 1978) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PL8a8cutYP7frdl-rAHJuHyLUl-Yrwb2y_
Recorded at Blank Tapes Studio, New York, July 17 1978
Released by Philly Jazz Records PJ 666, 1978
all compositions by Sun Ra
(Side A)
A1. Lanquidity (Sun Ra) - 8:22
A2. Where Pathways Meet (Sun Ra) - 6:33
A3. That's How I Feel (Sun Ra) - 8:06
(Side B)
B1. Twin Stars of Thence (Sun Ra) - 9:33
B2. There are other Worlds (They have not Told You of) (Sun Ra) - 10:58
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra - ARP, Fender Rhodes, Yamaha organ, Hammond B3 organ, Mini-Moog, piano, orchestral bells, Crumar Mainman organ, vocal
Eddie Gale - trumpet
Michael Ray - trumpet, fluegelhorn
Marshall Allen - alto saxophone, oboe, flute
Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Julian Pressley - baritone saxophone
James Jacson - basoon, flute, oboe, ethnic voice
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Dale Williams - electric guitar
Disco Kid - electric guitar
Richard Williams - bass, electric bass
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums, percussion
Atakatune - conga, tympani
Michael Anderson - percussion
June Tyson - ethnic voice
Edde Tahmahs (Eddie Thomas) - ethnic voice.

 サン・ラがルロイ・ジョーンズ劇団との『Black Myth』1968以来久しぶりにアーケストラ以外のパーソネルで録音したアルバムがヴィブラフォン奏者ウォルト・ディッカーソン(1928-2008)と連名のデュエット作品『Visions』でした。ディッカーソンは60年代初頭からアーケストラのメンバーと共演しており、サン・ラのデビュー・アルバム『Jazz By Sun Ra』1956やニューヨーク進出作『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1961など重要な転機にプロデュースを買って出てくれた黒人フリー・プロデューサーのトム・ウィルソンのプロデュースによるディッカーソンのアルバム『Impressions of a Patch of Blue』1966(1965年録音)でもサン・ラがカルテットのメンバーとして参加しています。トム・ウィルソンは同期にサイモン&ガーファンクルの「Sound of Silence」やボブ・ディラン「Like a Rolling Stone」、フランク・ザッパの『Freak Out!』やアニマルズの『Animalisms』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバム(名義のみアンディ・ウォホール)を手がけており、そういうとんでもないヒット・メイカーでありながらアンダーグラウンドな音楽にも尽力していた人で、不人気ジャズマンのディッカーソンはサン・ラ参加の同作から1975年のカムバックまで10年あまりシーンから引退していました。
 復帰後のディッカーソンはヨーロッパと日本での伝説的な人気から多作なジャズマンになり、サン・ラとの再会セッションが企画されたわけです。この全曲ディッカーソン作曲の『Visions』はソロ・ヴィブラフォン演奏によるアルバム構想で作曲されていたのではないかと思われ、ひとしきりディッカーソンのヴィブラフォンが完全ソロ演奏でテーマとインプロヴィゼーションを披露してからサン・ラのソロ・ピアノ演奏がディッカーソンに返礼し、徐々にデュエット演奏になってエンディングを迎える、という演奏フォーマットになっています。アレンジ込みの作曲だからかディッカーソンのテクニシャンぶりは壮絶で、ジャズのヴィブラフォンというとウディ・ハーマンミルト・ジャクソンを思い浮かべていると本当にこれを人間がヴィブラフォンで生演奏しているのか、と生唾を飲み込むような超高速フレーズが駆けめぐり、しかも正確でクールこの上ないサウンドで表面上はむしろ静謐な印象すら受けます。それに応えるサン・ラもディッカーソンのコンセプトに呼応した見事な精密点描的演奏で、ベーシストもドラマーもいないヴィブラフォンとピアノのデュオだからこそできる深海のように澄明かつ水圧の高いサウンドが実現しています。連名とはいえサン・ラではなくあくまでディッカーソンのアルバムですが、これでピアノがやはりディッカーソンと縁の深いアンドリュー・ヒルだったらもっと澱んだ、切れのよくないサウンドのアルバムになっていたでしょう。ヒルのファンでもある筆者でもそう思います。
(Original Philly Jazz "Lanquidity" LP Liner Cover & Side A Label)

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 ディッカーソンとのデュエット作直後、サン・ラが久しぶりに大編成アーケストラで録音した『Lanquidity』は新興レーベルのPhilly Jazzからリリースされました。同社はサターン・レーベルがシカゴとフィラデルフィアからフィラデルフィアに一本化された後、レコード制作(手作りジャケットやレーベル印刷)や流通販売を手伝っていたアーケストラのファン有志が立ち上げたレーベルです。このアルバムは1976年パリ録音のスタジオ盤『Cosmos』からの直接的な次回作を思わせるメジャーな質感のアルバムで、フィリー・ジャズ社はよっぽどサン・ラのために資金繰りをがんばったかインディー・レーベル作品とは思えない録音クォリティのアルバムになりました。全部の楽器がクリアに分離して聴こえるアーケストラのアルバムはそう多くはないのです。ギタリストが入った(しかも二人いてソロも取る)アーケストラの本格的なスタジオ・アルバムという点でも初めての試みで、アーケストラ初のフュージョン・アルバムという評も誇張とは言えません。『Cosmos』もクロスオーヴァー・アルバムと言えるサウンドでしたが、アーケストラの伝統的ホーン・アンサンブルがまだ前面に出ていました。本作でもアーケストラのホーン陣は健在ですが、重層的に迫ってくるというより彩りを添えるような役割に変わっています。
 いつものサン・ラより都会的なサウンドに聴こえるのはオルガンよりもフェンダー・ローズ(エレクトリック・ピアノ)の使用が中心で、フル編成のアーケストラ作品ですがフェンダー・ローズ、ベース、ドラムスのトリオを核に、メロディーよりも和声感の持続を聴かせるようなアンサンブルになっています。ホーン陣のソロもありますがハーモニーの中で漂うような、音色とサウンド・バランスの変化のために挿入されているソロで、まだしも数曲で聴かれるギター・ソロの方がソロらしい扱いを受けています。交響詩的というのとも違いますが、ピアノ・トリオを要所要所でホーン・セクションがふわりと包む感じで進むアルバムです。こうした手法のフュージョンはピアニスト(キーボード奏者)がリーダーのアルバムに確かに類例があり、サン・ラがそれらを参照したかはわかりませし聴いていないはずはありませんが、フュージョンの類型に追従したのではないでしょう。聴きようによってはフュージョンより先も先、50年代後半にもこうした手法をとったアーケストラの楽曲はあるのです。ただしもし『Lanquidity』の方向にサン・ラが進むのであれば、これはまだアンサンブル全体のコンセプトに整理する余地を感じさせ、それがアーケストラのアイディンティティでもあったホーン・セクションにあるだけ課題は厄介です。本作のプレイについて言えばサン・ラの指示通りにこなせるならばホーンはセッション・ミュージシャンでも済んでしまいます。本作は思い切った試みを成功させてはいますが、次作の予想がつかないアルバムとも言えるでしょう。