人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - The Legendary Guitar Amp Tapes (Mar.13, 1969)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - The Legendary Guitar Amp Tapes (Mar.13, 1969) incomplete : http://www.youtube.com/playlist?list=PLkFf1tGDTVmd5iXO7tGugRQtn0YLh8gaK
Recorded live at The Boston Tea Party, March 13, 1969
All Songs Written by Lou Reed expect as noted.
(Tracklist)
1. Sister Ray (Velvet Underground) - 26:01
2. Heroin - 8:26
3. Jesus - 3:31
4. Beginning to See the Light - 5:31
5. White Light/White Heat - 7:36
6. What Goes On - 7:41
7. I'm Set Free - 4:51
8. Ferryboat Bill - 4:41
9. I'm Waiting for the Man - 7:06
10. Candy Says - 4:31
11. I Can't Stand It - 5:56

(Half-Official Keyhole "March 13th The Boston Tea Party" CD Front & Liner Cover, with Illustrated Inner tray)

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 1968年12月12日、1969年1月10日、同年3月13日、7月5日と4日分の公演のライヴ録音が残されているヴェルヴェット・アンダーグラウンドのボストン・ティー・パーティー出演の中で特に「The Guitar Amp Tapes」として人気が高いのが1969年3月13日公演です。当時ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはヴォックス社のギター・アンプ・モニター提供を受けており、ヴェルヴェットへのモニター提供がどれだけ機材設計の向上につながり広告効果をもたらしたかは疑問ですが、ヴェルヴェットは前年9月にオリジナル・メンバーのジョン・ケイルの脱退と後任者のダグ・ユールの加入があり、ヴェルヴェットのノイジーサウンドはケイルが担っていたのでバンドはケイル脱退の穴を埋めるアイディアを試行している最中でした。それがヴォックス社のギターアンプのフィードバック効果を最大に生かしたこの時期のヴェルヴェットのライヴ・サウンドで、1968年11月~12月にスタジオ録音されたヴェルヴェットの第3作でダグ・ユール加入後初アルバムの『The Velvet Underground』はちょうどこのライヴの月、1969年3月発売でしたがスタジオ録音盤はむしろヴェルヴェットのアルバムではもっともアコースティックでフォーキーなサウンドになっています。発掘ライヴ音源は客席録音で発売を前提としたものではなくオーディオ的な基準ではまったくの素人録音ですが、この無加工で臨場感に溢れる音色は当時のレコード常識では考えられない荒削りな迫力があり、海賊盤時代から非常に人気の高いソースでした。「The Guitar Amp Tapes」と呼ばれる由来はルー・リードのギター・アンプの上に置かれたテープレコーダーで録音された、という伝説からですが、その真偽は明らかではないものの、2000年代になってからよりジェネレーション(ダビング回数)の若い良質なソースが発掘されてデジタル・リマスタリングされ、現在ではKeyholeレーベルからのハーフ・オフィシャル盤の2枚組CD『March 13th The Boston Tea Party』が普通の輸入盤ショップで手軽に手に入ります。トレイ裏のフライヤー複写によると当日は前座にウィルキンソンズ・トライシクルなるバンドが起用されたのもわかります。Keyhole盤は曲順違いでおそらくそちらの方が本来の曲順に沿っており、微妙なピッチ(テープの回転数)やMC、曲間の調整で曲ごとに多少の収録時間の違いがありますが楽曲の演奏時間そのものは基本的には同じです。Keyhole盤にはもう1曲第3作からのポップな「That's the Story of My Life」が収録されていますが、2分半ほどの小品ですし同時期のライヴでも割愛されることの多い気楽な幕間曲ですので「The Guitar Amp Tapes」の印象そのものを左右するほどの欠落ではありません。リンクに引いた「That's the Story of My Life」欠の11曲だけでも十分伝説の「The Guitar Amp Tapes」は堪能できるでしょう。
 ジョン・ケイル時代の2年間のライヴ音源がフル・コンサートでは2回分、あとはアンディ・ウォホール周辺のニューヨークのインディペンデント映画作家たちが撮影・録音した断片的ライヴ映像しか残っていないので比較はできませんが、ケイル脱退とユール加入は新マネジメント体制で行われておりアンディ・ウォホールとは離れた替わりに営業バンドとしてのヴェルヴェットのライヴ巡業は盛んになり、ユール加入の時点で70公演分のスケジュールが組まれていたといいます。バンドはその後2年間、ルー・リードが契約満期で脱退するまでメンバー一人当たり月収200ドル(約7万円、バンドの仕事がない時のアルバイト収入含む)でヴェルヴェットを続け、リーダーのリード脱退後はユールがリーダーを引き継いでオリジナル・メンバーのモー・タッカー、スターリング・モリソンが順次脱退していく中メンバーを補充し、1973年にはイギリスのセッション・ミュージシャンを起用して全曲ユールのオリジナル曲で固めたスタジオ盤『Squeeze』を発表し、1974年までヴェルヴェット・アンダーグラウンドとしてライヴ巡業を続けますが、一般的にはヴェルヴェットはルー・リード脱退の時点で終わり以降はユール主導の別バンドと考えられています。さて、ケイル在籍時のライヴ音源の少ないヴェルヴェットですが、前記のような事情でライヴ巡業が増加した分ユール加入後の後期2年間のヴェルヴェットには観客やライヴ主催者、会場オーナーによるライヴ録音がようやく多く残されるようになり、現在までには悠に10種を越える1968年9月~1970年8月の2年間のヴェルヴェットのライヴ音源が聴けるようになりました。この間のスタジオ盤はMGMからの1969年3月発売の『The Velvet Underground (III)』とアトランティック傘下コティリオンに移籍して制作された1970年9月発売(リード脱退直後)の『Loaded』で、のち1985年2月に『VU』、1986年9月に『Another View』が発掘発売され『(III)』発売に漏れたケイル在籍末期の未発表曲と『(III)』に続いてMGMから発売予定だったものの契約打ち切りで未完成に終わったアルバムがあったのが判明しました。ユール加入後の2年間のライヴは『(III)』中心の選曲の1968年秋~1969年夏、『VU』と『Loaded』の曲が加わった1969年秋~1970年初頭、『Loaded』からの曲が中心の1970年初頭~1970年8月のリード脱退まで、とおおよそ3期、第2期と第3期をまとめれば1969年秋を境にした前後2期に分かれますが、ヴェルヴェットは良い意味アマチュアリズムとプロ精神のバランスが取れて実験を恐れないバンドだったのでライヴごとにニュアンスの変化に富んだ演奏が聴かれます。本作は確かに伝説的ライヴとの定評だけあるものですが、本作がいければ他のヴェルヴェットの発掘ライヴも同等に楽しめるものです。スタジオ盤に較べて圧巻なのはギターもさもあれ、他のバンドではまず聴けないドラムスの淡々としてラウドなサウンドでしょう。これにはまるとヴェルヴェットの発掘ライヴはどれを取っても催淫剤みたいな魅惑があります。