人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラフトヴェルク Kraftwerk - '71ブレーメン・ライヴ Live On Bremen Radio (Unofficial LP)

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クラフトヴェルク Kraftwerk - '71ブレーメン・ライヴ Live On Bremen Radio (Unofficial CD) Full Broadcast : https://youtu.be/lTP-Clo62Dg
Recorded live at Gondel Kino, Bremen, Germany, June 25, 1971
All tracks written by Ralf H?tter and Florian Schneider-Esleben.
(Originally Unofficial LP Tracklist)
(Side A)
A1. Heavy Metal Kids - 7:55
A2. Stratovarius - 15:34
(Side B)
B1. Ruckzuck - 19:21
(Side C)
C1. Vom Himmel Hoch - 15:24
C2. Rueckstoss Gondliere - 11:25
(Add. TV Broadcasted; Beat Club May 22, 1971)
1. Krautrock : https://youtu.be/LN8Y9Di_3VA - 4:11
2. Kakteen, Wuste, Sonne : https://youtu.be/ry64e6SVQGs - 5:05
3. Rueckstoss Gondliere : https://youtu.be/ftE_jQcsWkw - 11:26
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider-Erleben - flute, violin, percussion
Michael Rother - guitar, electronics
Klaus Dinger - drums

(Unofficial Live On Bremen Radio CD Liner Cover & Picture Label)

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 クラフトヴェルクは元オルガニザツィオーンでオルガニザツィオーン以前からの友人だったフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターが始めたグループで、デビュー・アルバムもラルフとフローリアンの二人にゲスト・ドラマーのアンドレアス・ホーマンが全4曲中2曲、クラウス・ディンガーが1曲参加して製作されました。元々ライヴ・バンドとして活動していく意図はなく、'70年11月のTV公開ライヴ出演も同月発売のデビュー・アルバムのプロモーションのためだったのかもしれません。しかしドイツでは発売されずイギリスのRCAヴィクターからのみ発売され何の反響もなかったオルガニザツィオーンの唯一のアルバムとは一転して、ドイツのフィリップス社から発売されたクラフトヴェルクのデビュー・アルバムは世界各国盤が発売され、ドイツ国内だけで6万枚の好セールスを上げる成果がありました。クラフトヴェルクの属していたようなドイツのエクスペリメンタル・ロックのバンドのアルバムは1万枚を越えるセールスなど他になかったのでフィリップス社はセカンド・アルバム以降もクラフトヴェルクの契約を結びましたが、ラルフ・ヒュッターが学業の都合から'71年夏までクラフトヴェルクの活動から一時離れることになります(セカンド・アルバムはヒュッター復帰の'71年9月からすぐに着手されました)。そこでフローリアン・シュナイダーの方は、活動の空白期間を埋めるためドラマーのクラウス・ディンガーに、さらにヒュッターの代役としてディンガーのバンド仲間ミヒャエル・ローター(ギター)を迎えて曲単位のTV出演やラジオ局の公開ライヴをこなしていきます。
 このラジオ・ブレーメンの'71年6月の公開ライヴ(収録12日・放送25日と25日生放送の2説あり)は70分にも及ぶフル・コンサートで、この前後にもスタジオ・ライヴのTV出演が曲単位でありますが(リンクに追加しました)、フル・コンサート規模のライヴが聴けるのは大変珍しく、また技術先進国ドイツだけあって公式アルバム録音と遜色ない素晴らしい音質とサウンド・バランスで公式発売されていないのがもったいないくらいの最上級音源です。'71年にはデビュー・アルバムのプロデューサー、コニー・プランクによってシュナイダー、ローター、ディンガーのトリオでアルバム1枚分のスタジオ録音も行われた記録がありますがこれは未発表に終わり、ローターとディンガーはプランクのプロデュースで新グループ、ノイ!(Neu!)として早くも'71年内にはデビュー・アルバムを発表します。バンド創設者のシュナイダーとしてはライヴはともかく、クラフトヴェルクとしてのアルバム製作・発表はあくまでヒュッターの復帰を待ちたかったのでしょう。

(Unofficial Live On Bremen Radio LP Front/Liner Cover & Picture Label)

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 クラフトヴェルクのデビュー・アルバム収録楽曲はいずれも10分前後のA1「Ruckzuck」、A2「Stratovarius」、B1「Megaherz」、B2「Vom Himmel hoch」の4曲でした。ほぼフル・コンサートと言える'70年11月のTV出演での演奏曲は「Stratovarius」「Ruckzuck」「Heavy Metal Kids」「Improvisation 1」です。今回の'71年6月のライヴは「Heavy Metal Kids」「Stratovarius」「Ruckzuck」「Vom Himmel Hoch」「Rueckstoss Gondliere」の5曲と複数のUnofficialリリースCDには同一曲目でクレジットされています。しかしどうも演奏を聴くと違うのではないか。「Heavy Metal Kids」のスタジオ・ヴァージョンがないのでヒュッター在籍時の'70年11月の曲目記載が正しいとすると、今回「Rueckstoss Gondliere」とされているのが「Heavy Metal Kids」です。冒頭の「Heavy Metal Kids」は実際は「Stratovarius」で、つまりギター・ブレイクを挟んで「Stratovarius」パート1、パート2が演奏されているようです。また、ヒュッターがディストーションフランジャー、ディレイ・エフェクトで電気オルガンからエレクトリック・ギターの音色を出していた'70年11月のライヴと違い、ミヒャエル・ローターが非常にヘヴィーなギターを全面的に弾いているために、スタジオ・ヴァージョンではふわふわしていた「Vom Himmel Hoch」などもすっかりヘヴィーになっていて、全曲でギターとドラムスのダイナミックなサウンドが目立ちます。観客も'70年11月のTVスタジオ・ライヴと違ってノリノリで歓声を上げているのが曲間の拍手と喝采で伝わってきて、まるでロックバンドのライヴみたいです。
 これはもとよりロックバンドなどという意識はなかったフローリアン・シュナイダーにとっては不測の事態だったでしょう。同じエクスペリメンタル・ロックでもクラフトヴェルクは脱ロック志向の強いタンジェリン・ドリームよりもさらに抽象的なクラスターに近く、サイケデリック・ロックの類型からデフォルメーションして脱ロックを目指したカンやグル・グルとは異なる音楽性をデビュー・アルバムで打ち出していました。ですが今回ローターのヘヴィーなギターにディンガーのドラムスもすっかりヘヴィーでダイナミックな演奏で応え、グル・グルのやっているヘヴィー・ロックのパロディに近い方向の音楽になってしまった。これは一時脱退していたヒュッターはもとよりシュナイダーにとってもクラフトヴェルクの音楽ではなかったはずです。また、クラフトヴェルクから独立してノイ!を始めたローターとディンガーにとってもこうなるはずではなかったのがノイ!の'71年のデビュー・アルバム、'73年のセカンド・アルバムを聴くとわかります。完全にオリジナリティを確立するのに'74年の4作目『Autobahn』A面までかかった(それでもB面はまだ実験路線だった)クラフトヴェルクに較べてノイ!は'71年のデビュー・アルバムでスタイルを確立したデュオでした。それはクラフトヴェルクのデビュー作の代表曲「Ruckzuck」同様ロックの8ビートをキメもなくヤマもなくひたすら平坦化してギター音や電子音が現れては消えるという単純なものでしたが、このラジオ・ブレーメンのライヴのようなヘヴィー・ロックの対極にあるような音楽で、クラスターやクラフトヴェルクの音響実験をロックのビートで一気にポップ・ミュージック化するという発想です。そういう具合に、このラジオ・ブレーメンのライヴはヒュッターがエフェクト変調させた電気オルガンでやっていたサウンドのドローン効果をディストーション・ギターでやってみたらクラフトヴェルクのライヴなのにヘヴィー・ロックになってしまったという偶発事故みたいなコンサートになりました。誰が悪いかと言えばギターがメタルならドラムスもやったるぞとハード・ロックみたいなドラムスを叩いてしまったクラウス・ディンガーの悪乗りに尽きるでしょう。しかしこういう音源も残っているのが発掘ライヴの面白さとも言えます。後にも先にもヘヴィー・ロックなクラフトワークの音源など他にはないのですから。