クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ボディ・ラヴVol.2 Body Love Vol.2 (Brain, 1977)
Recorded at Rhein-Ruhr-Film Tonstudio, Berlin & Panne-Paulsen Studios, Frankfurt, Germany, 1976 and September 1977
Released By Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain 0060.097, December 1977
Additions to the original soundtrack of Body Love for Love Film Productions.
Executive-Producer; Graham Lawson
Produced and Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Nowhere - Now Here - 29:02
(Side 2)
B1. Stardancer II - 14:15
B2. Moogetique - 13:15
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Harald Grosskopf - drum set
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(Original Brain "Body Love Vol.2" LP Liner Cover & Side 1 Label)
調べてみても既成音源として本作をサウンドトラックに使った映画というデータは出てきませんが、西ドイツ・イタリアの合同ポルノ映画プロダクションという面白い映画製作社がラヴ・フィルム・プロダクションズだったようですから、きっとデータに残らないかたちで本作を使っていそうなものですし、シュルツェはのちの'90年代初頭に真っ先にDTM向けサンプリング用音源アルバム(購入者は使用自由、ただし高価)をリリースさしている人でもありますから、ラヴ・フィルム・プロダクションズによるスポンサー・アルバムならば映画への使用は構わない、ということだったでしょう。シュルツェの音楽はインストルメンタル曲ですから汎用性は高く、『蜃気楼(ミラージュ)』のセルフ・ライナーノーツでも記していたようにリスナーによる実用的な聴き方を提唱する側面もあり、シュルツェの年長の友人のフローリアン・フリッケのポポル・ヴーのようにヴェルナー・ヘルツォークの映画のレギュラー映画音楽制作を委託する映画監督、プロデューサーがあればそちらも積極的に手がけていたのではないかと思われます。ヘルツォークとポポル・ヴー(フローリアン・フリッケ)の場合はアーティスト的共感からですが、'70年代には多くのロック・バンドがテレビ番組、低予算映画、演劇からサウンドトラックを求められていました。それは時代性を反映した若者音楽としての需要と、ロック・バンドのギャラは安くつくからでもありますが、シュルツェの古巣タンジェリン・ドリームの音楽などはFM放送のジングルやテレビの紀行番組などに今でもよく使われるものです。ポポル・ヴーやタンジェリン・ドリームも強い個性を持った音楽なのはシュルツェと変わりませんが、良い意味で聴き流せるタイプの音楽としても機能する面があり、今では快適なBGMを流していない総合病院や歯科医院の方が少ないくらいでしょうがヴーやタンジェリン、またシュルツェ脱退後にアシュ・ラ・テンペル改めアシュ・ラとなったアシュ・ラは、全部ではありませんが、流せる快適さに向かう音楽性がありました。その点シュルツェの音楽は、リスナーが聞き流せる聴き方を習得しないと主張が強烈なので、『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』からいっそう磨きのかかった本作がシンセサイザーの抽象音のシークエンス音楽だからと歯科医院のBGMに流れたらさっさと帰りたくなるようなもので、ジャズ・バーで本気のサン・ラ・アーケストラのアルバムを流すような無理があります。本作は『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』のサウンド・コンセプトを『蜃気楼(ミラージュ)』の達成からさらに磨き上げたもので、ここまで完成度が高くなると部分抜粋的にサウンドトラック使用は困難なのではないかと思われるほどサウンドの密度は高く、構成の緊密な展開が聴かれます。次作『X』では高いテンションの持続からトランス状態が生まれる、という『蜃気楼(ミラージュ)』からの発展をさらにつきつめたアルバムになりますが、本作でもその指向は本作なりの完成型として聴くことができるので、『蜃気楼(ミラージュ)』や『X』よりも『ボディ・ラヴ』連作のサウンドの解放感の方を好むリスナーも多いでしょう。ただしシュルツェ作品の解放感はシュルツェの音楽の中での比較なので、シュルツェの音楽に慣れない場合は本作でも相当ヒプノティックに聴こえるかもしれません。ですが案外馴染めば本作は明快な乗りがあり、くり返し聴いて飽きのこない好作です。「Stardancer II」など実はけっこうハイセンスなダンス・ミュージックとして聴けるものではないでしょうか。