人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ボディ・ラヴVol.2 Body Love Vol.2 (Brain, 1977)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ボディ・ラヴVol.2 Body Love Vol.2 (Brain, 1977) Full Album : https://youtu.be/zPooZOSwzxY
Recorded at Rhein-Ruhr-Film Tonstudio, Berlin & Panne-Paulsen Studios, Frankfurt, Germany, 1976 and September 1977
Released By Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain ‎0060.097, December 1977
Additions to the original soundtrack of Body Love for Love Film Productions.
Executive-Producer; Graham Lawson
Produced and Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Nowhere - Now Here - 29:02
(Side 2)
B1. Stardancer II - 14:15
B2. Moogetique - 13:15
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Harald Grosskopf - drum set

(Original Brain "Body Love Vol.2" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 パート2に良いものなしと言いますが例外はいくつもあるので、本作などはクラウス・シュルツェが『Vol.2』としたくない、とすればまったく『絶頂人妻ボディ・ラブ(サウンドトラック)』とは無関係なニュー・アルバムとしても出せたはずです。実際ドイツとイタリア以外の国では『絶頂人妻ボディ・ラブ(サウンドトラック)』のリリースよりも先に本作が「Vol.2」ではないニュー・アルバム『Body Love』としてリリースされ、のちに『絶頂人妻ボディ・ラブ(サウンドトラック) (Body Love; Soundtrack)』がリリースされる、というややこしいことになりました。評価はサウンドトラックではない本作の方が高かったのですが、本作は'76年に制作されて'77年2月にリリースされた第7作『絶頂人妻ボディ・ラブ(サウンドトラック)』制作時の残りテイクの手直しと新録音を'77年9月に第6作『ムーンドーン』に続いて招いていたヴァレンシュテインのドラマーのハラルド・グロスコフとともに行ったもので、'77年1月録音・4月リリースのシュルツェの完全ソロ録音による第8作『蜃気楼(ミラージュ)』をまたいで『ムーンドーン』『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』『ボディ・ラヴVol.2』の3作合わせて'76年~'77年のシュルツェとグロスコフのデュオ作三部作とも言えますし、デュオのコンセプトではこの3作は連続しているとも見なせます。次作はシュルツェの第10作を記念した意識的な集大成的作品のLP2枚組大作『X』で、シュルツェが尊敬する歴史上の芸術家6人の名前を収録曲のタイトルとしたコンセプト・アルバムになり、グロスコフも続いて全面参加しますがグロスコフ以外のゲストも招き、第4作『ピクチャー・ミュージック』以来ひさびさにシュルツェ自身もパーカッションを演奏したアルバムになります。ひょっとしたらシュルツェは第10作目を無事に迎えるためにマーラーのように「第九」のジンクスを避けて9作目は軽く避けたのかもしれず、また映画サウンドトラック時のテイクを使用したために律儀に映画プロデューサーの了解とスポンサーシップを明記したため『Vol.2』としたのかもしれませんし、「Stardancer」の続編「Stardancer II」を含むようにリスナーコンセプトの連続性を示すために映画サウンドトラックではないにもかかわらず『Vol.2』としたのかもしれません。また、本作の「Additions to the original soundtrack of Body Love for Love Film Productions.」というクレジットを見ると映画続編、またはラヴ・フィルム・プロダクションズの新作のための追加提供というニュアンスがあったのかもしれず、つまりラヴ・フィルムの新作映画には自由にサウンドトラック使用を許可して制作したアルバムだったのかもしれません。
 調べてみても既成音源として本作をサウンドトラックに使った映画というデータは出てきませんが、西ドイツ・イタリアの合同ポルノ映画プロダクションという面白い映画製作社がラヴ・フィルム・プロダクションズだったようですから、きっとデータに残らないかたちで本作を使っていそうなものですし、シュルツェはのちの'90年代初頭に真っ先にDTM向けサンプリング用音源アルバム(購入者は使用自由、ただし高価)をリリースさしている人でもありますから、ラヴ・フィルム・プロダクションズによるスポンサー・アルバムならば映画への使用は構わない、ということだったでしょう。シュルツェの音楽はインストルメンタル曲ですから汎用性は高く、『蜃気楼(ミラージュ)』のセルフ・ライナーノーツでも記していたようにリスナーによる実用的な聴き方を提唱する側面もあり、シュルツェの年長の友人のフローリアン・フリッケのポポル・ヴーのようにヴェルナー・ヘルツォークの映画のレギュラー映画音楽制作を委託する映画監督、プロデューサーがあればそちらも積極的に手がけていたのではないかと思われます。ヘルツォークとポポル・ヴー(フローリアン・フリッケ)の場合はアーティスト的共感からですが、'70年代には多くのロック・バンドがテレビ番組、低予算映画、演劇からサウンドトラックを求められていました。それは時代性を反映した若者音楽としての需要と、ロック・バンドのギャラは安くつくからでもありますが、シュルツェの古巣タンジェリン・ドリームの音楽などはFM放送のジングルやテレビの紀行番組などに今でもよく使われるものです。ポポル・ヴーやタンジェリン・ドリームも強い個性を持った音楽なのはシュルツェと変わりませんが、良い意味で聴き流せるタイプの音楽としても機能する面があり、今では快適なBGMを流していない総合病院や歯科医院の方が少ないくらいでしょうがヴーやタンジェリン、またシュルツェ脱退後にアシュ・ラ・テンペル改めアシュ・ラとなったアシュ・ラは、全部ではありませんが、流せる快適さに向かう音楽性がありました。その点シュルツェの音楽は、リスナーが聞き流せる聴き方を習得しないと主張が強烈なので、『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』からいっそう磨きのかかった本作がシンセサイザーの抽象音のシークエンス音楽だからと歯科医院のBGMに流れたらさっさと帰りたくなるようなもので、ジャズ・バーで本気のサン・ラ・アーケストラのアルバムを流すような無理があります。本作は『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』のサウンド・コンセプトを『蜃気楼(ミラージュ)』の達成からさらに磨き上げたもので、ここまで完成度が高くなると部分抜粋的にサウンドトラック使用は困難なのではないかと思われるほどサウンドの密度は高く、構成の緊密な展開が聴かれます。次作『X』では高いテンションの持続からトランス状態が生まれる、という『蜃気楼(ミラージュ)』からの発展をさらにつきつめたアルバムになりますが、本作でもその指向は本作なりの完成型として聴くことができるので、『蜃気楼(ミラージュ)』や『X』よりも『ボディ・ラヴ』連作のサウンドの解放感の方を好むリスナーも多いでしょう。ただしシュルツェ作品の解放感はシュルツェの音楽の中での比較なので、シュルツェの音楽に慣れない場合は本作でも相当ヒプノティックに聴こえるかもしれません。ですが案外馴染めば本作は明快な乗りがあり、くり返し聴いて飽きのこない好作です。「Stardancer II」など実はけっこうハイセンスなダンス・ミュージックとして聴けるものではないでしょうか。