人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - エン=トランス En=Trance (Brain, 1988)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - エン=トランス En=Trance (Brain, 1988)
Recorded at Klaus' studio in Hambuhren / West Germany, 1987
Released by Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain 835 158-1, April 7, 1988
Produced and All Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. En=Trance : https://youtu.be/KHFf8NyWSO4 - 18:53 *original length
(Side 2)
B1. α-Numerique : https://youtu.be/GyL-cLZ2Cyg - 16:28
(Side 3)
C1. Fm Delight : https://youtu.be/llczKQRECsA - 17:28
(Side 4)
D1. Velvet System - 17:49 *not on links
(SPV CD Bonus Track)
5. Elvish Sequencer : https://youtu.be/X5NX7-r8P3o - 8:02
[ Personnel ]
Klaus Schulze - Roland S50, Roland D50, Roland MKS 30, Roland MKS 80, Roland DDR, Roland 505 Drums, Roland MC 500, Roland JX 10 P, diverse effects, Korg DW 8000, Korg DVP-1, Yamaha DX 7 II, Fairlight, Akai Sampler

(English Magnum/Thunderbolt "En=Trance" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 クラウス・シュルツェ20作目のアルバムは、映画のサウンドトラック・アルバム『Angst』'85を例外とすれば、第13作目でデジタル化の転機となったアルバム『Dig It』'80以来の完全な単独録音のアルバムになりました。これは逆に言えば『Dig It』がデジタル機材に依存しすぎてダイナミズムを欠き、推進力が稀薄という意味で冷たい感触のアルバムになってしまった反省からデジタル化以降のアルバムは積極的にゲスト・ミュージシャンの参加を求めていたということで、『Angst』の場合は映画サントラという性格もありますが『Dig It』では欠点になっていたのがそのまま長所となったので、本作では『Audentity』'83以来のLPフォームでは2枚組の4面すべて1曲ずつの大作ですが、『Audentity』ではシュルツェのアルバム史上最強メンバーと言うべきウォルフガング・ティーポルド(チェロ)、ライナー・ブロス(ピアノ、オルガン)、マイケル・シュリーヴ(ドラムス、パーカッション)を迎えた4人編成でした。アルバムも'80年代シュルツェの傑作と言えるもので、もとよりメンバーがメンバーだけに悪くなりようがありませんがシュルツェにとっては長年暖めていた夭逝詩人、ゲオルグ・トラークルの生涯と芸術をテーマにしたアルバムでもあり、シュルツェはトラークルの生涯を描いた音楽作品制作をその後も続けていきます(オペラ作品『Totentag』'94)。シュルツェ自身はペースを崩さずアルバム制作を続けてはいたものの、前々作『Inter*Face』、前作『Dreams』はシュルツェ作品がアンビエント/ニューエイジ・ミュージック文脈で軽視される風潮の到来に苦戦して制作されたアルバムでした。
 本作も決して発表当時の反響は芳しくなく、やはりアンビエント/ニューエイジ・ミュージック文脈の中に半ば埋没してリリースされたアルバムです。しかし内容は完全なソロ録音で凝縮された集中力の持続する大作に挑むシュルツェの意欲が結実した、非常に充実した秀作になっています。不完全なリンクしか引けなかったように本作は今でも十分な再評価を受けているとは言えない作品ですが、『Audentity』に次ぐ'80年代シュルツェ作品の白眉の大作であり、サウンド・ループに乗せたアンビエント・アンサンブルという手法は前々作、前作の延長線上にありますが、込められた創造力のテンションと高さには段違いの集中力があります。シュルツェの再評価、エレクトロニック・ミュージックの先駆者にして革新性を維持し続ける大家としての再注目は'90年代の到来から、『Miditerranean Pads』'90、『The Dresden Performance (live)』'90、『Beyond Recall』'91、『Royal Festival Hall Vol. 1 (live)』'92、『Royal Festival Hall Vol. 2 (live)』'92、『The Dome Event (live)』'93と続く、多くはライヴ初演で新曲をアルバム・リリースした諸作の連発で決定的なシュルツェ復活を印象づけることになりますが、その直前の注目されなかった大作である本作はすでに'90年代のシュルツェ復活の布石となった、シュルツェが再び活力を取り戻した重要作であり、続く強烈なライヴ連作のウォーミングアップとしても、それ以上のアルバムとしても注目すべき作品です。またアンビエント/ニューエイジ・ミュージック文脈から聴かれるのを抜け出すには本作で再確認したテンションをスタジオ録音アルバムではなくライヴ・パフォーマンスで実践することで再びダイナミックなライヴ・アーティストとしてアピールする、という発想に向けるきっかけとなったアルバムという位置づけもできるでしょう。また本作はシュルツェが具体的に使用機材を列挙しているアルバムでもありますが、フェアライト以外はすべて日本製の音楽機材であることも注目されます。日本製機材は精度と性能はもとより、実用的なインターフェイス面でも優れており、これもライヴ・パフォーマンスにスムーズに移行できる要因になったと思われます。