人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ビヨンド・リコール Beyond Recall (Virgin, 1991)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ビヨンド・リコール Beyond Recall (Virgin, 1991)
Recorded at Klaus' studio in Hambuhren, August-September, 1990
Released by Virgin / Venture Records Venture VE 906 (LP), Venture ‎CDVE 906 (CD), June 24, 1991
Produced and all Composed by Klaus Schulze
(Tracklist)
1. Gringo Nero : https://www.dailymotion.com/video/x5y053t - 26:54
2. (Side 1/A1). Trancess : https://youtu.be/ddi9eq65LIk - 12:50
3. (Side 1/A2). Brave Old Sequence : https://youtu.be/Jh6oiAKK2fA - 11:02
4. (Side 2/B1). The Big Fall - 11:35 *not on links
5. (Side 2/B2). Airlights : https://youtu.be/2SAGveZ3iAM - 14:34
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics

(Original Virgin / Venture "Beyond Recall" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)

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Special thanks to the helpful companies: Akai, SPL, Arsonic, Paiste, Materbits, TSI, and Uberschall.
"This is my 23rd solo album, and the listeners may have all the delight I had in doing it" - Klaus Schulze, March 1991

(Original Virgin / Venture "Beyond Recall" CD Inner Booklet)

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 本作はCDエディションとLPエディションの違いがあからさまなアルバムで、LPではCD1曲目の大曲「Gringo Nero」が割愛されCD2、3曲目がLPではA面、4、5曲目がLPではB面のシングル・アルバムとして発表されました。「Gringo Nero」は27分近い大作ですが、普通アルバムの1曲目にはリスナーの印象を決定づけるような曲を置くものだとすると、CDではアルバム冒頭の大作をLPではカットしてしまうという本作はCDエディションとLPエディションではまったく異なるものとも言えます。こうした均等に分けられない収録時間のアルバムの場合、アナログLP盤の時代には変則2枚組3面LPというかたちでリリースされるもの、1枚は33.1/3rpmの通常盤、1枚は12インチながら45rpmのマキシ・シングル仕様の2枚組LPアルバムとしてリリースされることもありました。シュルツェは『Dreams』や『The Doresden Performance』でもLPヴァージョンではCDエディションから曲を削ってきていたので、『Dreams』ではLPのA面とB面の区切りになる比較的短い1曲だけでしたが、『The Doresden Performance』になると45分あまりのライヴ録音テイク2曲を外し、スタジオ録音の新曲3曲のみをLP化するという具合にはっきりCDエディションとLPエディションにアルバムの性格自体の違いを意図するようになっています。LPでは外されてしまった「Gringo Nero」は本作の白眉の1曲なので、5曲入りCDから「Gringo Nero」で始まる5曲をくり返し聴くのと、LPではA1, A2、B1, B2に当たる2~5の4曲だけを聴くのではだいぶ印象が違ってきます。
 本作も一般にシュルツェ低迷期のアルバム視される『Inter*Face』'85、『Dreams』'86にすでに方向性が見え、『En=Trance』'88で確立するも次の『Miditerranean Pads』'90でようやく認められるに至った、巧みなサンプリングによる生楽器の音色の使用が心地良いアルバムになっており、「Gringo Nero」のアコースティック・ギター、「Trancess」や「Airlights」のタッチの強いピアノ・サウンドはシュルツェの完全なそろ・エレクトロニクス録音アルバムと言われなければ生演奏と変わらずに聴いてしまいそうです。また「Brave Old Sequence」や「The Big Fall」のシークエンサー使用はずばり『Mirage』'78で確立した頃のシークエンサー使用を思い出させる音色とフレーズが聴けて、「Brave Old Sequence」というくらいですからこれは意図的な自己引用であり、長いキャリアを振り返ってリスナーに送ってみせた目配せのようなものでしょう。機材協力のあったメーカーへのサンクス・リストとともに、シュルツェ自身が23作目のソロ・アルバムである本作に込めた抱負を記しています。『Miditerranean Pads』『The Doresden Performance』と力作・大作が続き、さらにこの後'92年に『Royal Festival Hall Vol. 1』『Royal Festival Hall Vol. 2』、'93年に『The Dome Event』と、『The Doresden Performance』級の新曲ライヴ録音大作のアルバムを連発する流れの中では、本作はあえて『Mirage』の頃のサウンドと近作の方向性の折衷を図った、割合趣味的な小ぶりなアルバムとも言えそうですが、シュルツェのアルバムに慣れると11分台2曲、14分台2曲、27分弱1曲というのが小品に見えてくるのが恐ろしいところです。またブックレット掲載の44歳のシュルツェの近影も篤実な人柄とともに風格と貫禄を感じさせるもので、アルバム内容ともどもシュルツェへの親しみを抱かせるものです。