人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ラリー・ヤング Larry Young - イフ If (Blue Note, 1966)

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ラリー・ヤング Larry Young - イフ If (Joe Henderson) (Blue Note, 1966) : https://youtu.be/_qi2qRtBBkM - 6:46
Recorded at The Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, November 10, 1965
Released by Blue Note Records BST84221 as the album "Unity", August 1966
[ Personnel ]
Larry Young - Hammond B-3 organ, Woody Shaw - trumpet, Joe Henderson - tenor saxophone, Elvin Jones - drums

 '60年代オルガン・ジャズ最高の名盤『ユニティ』は名盤だけあって収録曲全6曲とも名曲・名演ですが、インディー・レーベルのブルー・ノートは契約ミュージシャンにほんのひと握りしかスター格のジャズマンはいなかったので、このアルバムもサイドマン・ジャズマン4人が別々のグループから集められて作ったスタジオ録音のためだけの臨時編成によるものです。リーダーでハモンドB3オルガンのラリー・ヤング(1940-1978)はリズム&ブルースのバンドからジャズ畑に進出してきたジャズマンで、'60年~'62年にプレスティッジ・レコーズに3作のリーダー作を吹き込んだあとブルー・ノートに移り、'64年からギタリストのグラント・グリーン(1935-1979)との4作(ヤングのブルー・ノートでの初リーダー作を含む)に次いで、ブルー・ノートからのリーダー作第2作となる『ユニティ』を録音する機会を得ました。初リーダー作『イントゥ・サムシン』'65はテナーサックスにサム・リヴァース、ギターにグリーン、ドラムスに他のグリーン作品でも共演したエルヴィン・ジョーンズ(1927-2004)を迎えたカルテットでしたが(ヤングの使用オルガンはベース・ペダルのあるハモンドB3オルガンなので、専任ベーシストは入れずヤングのオルガンのペダルによってベース・パートが演奏されています)、『ユニティ』ではウディ・ショウ(トランペット、1944-1989)、ジョー・ヘンダーソン(テナーサックス、1937-2001)にエルヴィン・ジョーンズのドラムスの、オルガン・ジャズでは比較的珍しい2ホーン編成のカルテットで、本作の録音当時ショウとヘンダーソンはまだ新人でブルー・ノートで数少ないスター・ジャズマンのホレス・シルヴァークインテットのメンバー、エルヴィンは黒人ジャズのトップ・グループのジョン・コルトレーン・カルテットの重鎮ドラマーでしたから、本作で一番偉いメンバーはエルヴィン・ジョーンズで、ヴェテラン・トランペット奏者のケニー・ドーハムが発掘してきてブルー・ノート期待の新進テナーだったヘンダーソンがヤングやショウよりは少々格上な程度の若手3人という編成でした。演奏上もエルヴィンの変幻自在なドラムスがホーンの2人やリーダーのヤングのオルガンを圧倒しているとも、のちに大成する若手メンバー3人の潜在能力を引き出したとも言え、ジャズがドラムスでいかに左右されるかがありありとわかるアルバムでもあります。
 ヤングは'60年代後期からはジャズ・ファンクに進み、マイルス・デイヴィスクインテットから独立したドラマーのトニー・ウィリアムズがジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを意識して結成したトリオ編成のジャズ・ロック・バンド、トニー・ウィリアムズ・ライフタイムのメンバー時代にはジョン・マクラフリンジャック・ブルースと共演し、マイルス・デイヴィスの『ビッチズ・ブリュー』'70の録音に招かれ、没後発表となる録音ではジミ・ヘンドリックスと唯一レコーディングしたジャズマンになりますが、'70年代には自己のグループで活動するも次第にシーンの表から姿を消して行き、早い晩年は薬物中毒で体調を崩し、肺炎から37歳で衰弱して逝去しました。ウディ・ショウは硬派の実力派としてメジャー・レーベルに移って活動を続けましたが'89年に弱視が原因の地下鉄転落事故で左腕を切断、事故から3か月後にやはり衰弱から肺炎で逝去し(享年44歳)、ジョー・ヘンダーソンエルヴィン・ジョーンズも今世紀初頭までには亡くなってしまったので『ユニティ』の録音メンバーは全員故人となりました。フリー・ジャズとは異なる方向性で'60年代ジャズの新しいスタイルを築いたとされる'60年代ブルー・ノートの「新主流派」と呼ばれる路線でもオルガン奏者の新主流派はヤングだけだったので、それはヘンダーソン提供のこのオリジナル曲「イフ」が12小節のブルース曲でありながらまるで従来の器楽ジャズのブルース曲とは違った響きに聴こえることからもうかがえます。オルガンの音色もいわゆるオルガン・ジャズのアーシーな音色ではなく、この音色はヤングのアルバム(とヤングの参加アルバム)でしか聴けない独自のものなので、「イフ」は12小節ブルースだけにいかにアレンジと演奏のアイディアだけでジャズに新しい響きを持たせることができるかを試して成功した曲でもあるでしょう。専任ベーシスト不在、オルガンがベース・パート兼務というのもこの演奏では魅力になっています。