人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

集成版『NAGISAの国のアリス』第七章

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 第七章。
 ハートのキングは白ウサギに、ジャックの告訴状を読み上げるよう命令しました。白ウサギは開廷合図のトランペットを3回吹くとポケットから巻物を取り出して広げ、朗々と歌い出しました。
 「♪夏にまるまる1日がかりで
 ハートのクイーンが作ったタルト
 それをまんまと盗み出したのは
 被告人席のハートのジャック!」
 第1の証人を呼ぶダス、とハートのキングが言いました。白ウサギはトランペットを吹き、第1の証人!と呼びました。ティーカップとバターつきのパンを持って帽子屋が入廷してきました。続いて3月ウサギとネムリネズミも腕を組んで入ってきます。
 失礼いたします王さま、と帽子屋、変なものを持ってきてしまいまして。ですが私らはまだお茶会中だったのです。
 いつからダス?とキング。
 3月14日です、たぶん。
 それに帽子を脱ぐダス、お前さんの帽子のことダスよ!
 いや違います、と帽子屋、私は帽子屋ですから、これは売り物です。
 それを聞いたクイーンは眼鏡をかけ、帽子屋をじろじろにらみました。さすがに帽子屋も落ちつきません。
 早く証言するダス、とキング。いちいちビクビクするなら、お前さんも処刑するダスよ。ますます帽子屋は取り乱し、パンではなくてカップをかじってしまいました。
 こないだの音楽会の出場者名簿を持ってくるザンス、と追いうちをかけるクイーン。帽子屋は震え上がり、靴が足から落ちました。
 証言するダス、とキング、さもないと無条件で処刑ダス。
 帽子屋はわなわな震えながら、私は無関係です王さま。お茶会だってまだ1週間にもなりません。パンは干からび、お茶は……
 お茶が何ダス?とキング。
 お茶会ですから、と帽子屋。
 お茶会にお茶は当然ダス!とキング。
 そんな風にお茶会をしてまして、ですが3月ウサギが言うには……
 言ってない!と3月ウサギ。
 言った!と帽子屋。
 でたらめだ!と3月ウサギ。
 そうダスか、とキング、ではその部分の証言は無効ダス。
 帽子屋は慌てて、それでとにかくネムリネズミが言うことには……
 言ってません!とネムリネズミ。
 言った!と帽子屋。
 いや違います!とネムリネズミ。
 帽子屋はますます憔悴し、それで私はその後、少々バターを塗ったパンをもう少しいただきまして……
 待つダス、とキング、ネムリネズミは何と言ったのダス?
 ええと、わかりません、と帽子屋。思い出さなければ処刑ダス!とキング。


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 帽子屋は手にしたティーカップとパンを落とすと、がっくりひざまづきました。私めはつまらない庶民であります、陛下、と帽子屋は息もたえだえに訴えました。
 そうダスな、とハートのキング、確かにお前さんの話はつまらないダス!
 満場の拍手喝采
 もう証言することがないなら、とキング、さっさと下がっていいダス!
 どうやって下がると言うんです?と帽子屋、これ以上下がるともう床下です!
 それなら床に尻でも着けるダス!とハートのキング。
 帽子屋はうろたえ、できればお茶を済ませてからで……と言いかけるうちからキングはいいから行くダス!と一喝しました。帽子屋は慌てて走って退廷しました。あいつは外で打ち首ザンス!とハートのクイーン。
 次の証人を呼ぶダス!とキングが命じました。入廷してきたのは公爵夫人つきの料理長でした。手には胡椒の瓶を提げており、料理長の通ってきた通路でくしゃみが上がりました。
 これはいかんダス、とキング、仕切り直しが要るダスな。ガマンしてる者は今やるダス!
 全員がくしゃみをしました。
 さあ証言するダス!とキング。やなこったい、と料理長。ではタルトの材料は?とキング。まあ胡椒だね、と料理長。
 シロップです!とネムリネズミが叫びました。そいつをつまみ出すザンス!とクイーンが激昂しました、打ち首ザンス!取り押さえてヒゲをチョン切るザンス!
 料理長が退廷しました。次は?とキング。白ウサギはトランペットを吹くと、アリス!と召喚しました。
 何か証言は?とキング。
 何にも、とアリス。
 全然?とキング。全然、とアリス。キングは愕然として、ではこの者を訴えねばならんダス!いいや告訴なんぞ要らないザンス!とクイーン、極刑にすればいいだけザンス。アリスは悪態をつきました。黙るザンス!とクイーン。ばーか、とアリス。
 このガキの首をちょん切るザンス!とクイーン。余計なお世話よ。なら私がこの裁判の判決を下してあげる。ハートのジャックは無罪、ただし人のタルトを盗るのは禁止。
 無罪?おお!と全員が騒然としました。
 とすれば誰の首も切れないダス、とキング。タルトが勝手に逃げたとでもいうザンスか!とクイーン。タルトが盗まれなくなればいいんでしょ、とアリス、それで気が済まないなら自分の首でも切らせれば?
 クイーンはぐうの音も出ず、タルトを盗んだハートのジャックもこれで無罪放免、ただしタルトはもう盗めませんが。


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 マルデン島中部太平洋に位置する無人島で、19世紀にはインディペンデンスとも呼ばれていました。ライン諸島のうちの中部ライン諸島にあり、キリバス共和国に所属します。標高は低く不毛な島で、面積は約39.3平方km。そしてマルデン島は先史時代に築かれたと考えられる謎の多い遺跡や、かつて存在したと観測される広大な燐酸質グアノ(有機質化石)の希少性、またイギリス初の水爆実験場で、現在は海鳥の重要な繁殖地としてマルデン島自然保護区に指定されたことで知られています。
 幅 8km、最高標高 10mのこの孤島は北を上辺とすると▽の形をしており、外郭ほど標高が高いくぼんだ地形のために内陸部からは海岸すら見えません。島の東側から中央部の大部分には不規則な形の広く浅い礁湖が存在し、そこには多くの小島が点在します。この湖は陸地によって閉じられ海面とは接しませんが地下では海とつながっており、水は完全に海水です。マルデン島には淡水はなく海岸の大部分は珊瑚が占めており、島に打ち寄せる波によってそれらの珊瑚が島の外郭を形成しています。
 孤島であることと乾燥していることから、島の植物相は極めて限られており、15種ほどの固有種しか存在しません。それらの多くも生育不良な藪を形成するに過ぎず、かつてココナッツの木がグアノ採掘の鉱員によって植えられましたがそれらも根付くことはなく、現在では枯れ果てたその木々をわずかに見ることが出来るのみとなっています。
 グアノ採掘が行われていた時代には猫、豚、羊、ハツカネズミがマルデン島に移入されました。豚と羊は全滅しましたが猫とハツカネズミは現在でも島内で生息しているのが確認されています。また少数のアオウミガメが海岸に巣を作り、ヤドカリが多数生息しています。
 マルデン島の発見は1825年7月30日で、ジョージ・バイロンによって発見されました。このジョージ・バイロンは有名な詩人ジョージ・ゴードン・バイロン(第6代バイロン男爵)のいとこで、ジョージ・ゴードンの後を継ぎ第7代バイロン男爵となった人物です。バイロンイギリス海軍の軍人で当時は船長職であり、イギリスのロンドンで死去したハワイ王国の若き王カメハメハ2世とその王妃カママルの遺体をハワイ王国ホノルルに送り届ける特別任務を遂行し、ロンドンへ戻る途上でした。
 ひどいところだわ!とアリスは白ウサギの首を締め上げて、何でこんな!


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 食べ物で遊ぶようなことは良くない、と小人のひとりがつぶやきました。ボソボソっと賛同の声が上がります。
 何よ、とアリス、あんたたちイースターエッグを知らないの?あんたたちの文化にはキャラ弁ていうのがないわけ?家を建てたり結婚式の締めくくりでお米を撒くことだってあるし、トマトをぶつけあうお祭りのある国やロールチーズを丘から転がすお祭りをする国もあるわ。それのどこがおかしいの?
 お前ら人類は頽廃している、とさっきとは別の小人がつぶやきました。それをおかしいとも思わないのが堕落の証拠じゃないか。
 それなら何であんたたちには女体盛りに心当たりがあるのよ?
 アリスが問うと、小人たちが返答に窮している様子がわかりました。アリスにしてみれば、してやったりでございます。結局あんたたちカマトトぶっているだけじゃない?と言外にアリスは当てこすっているのでした。こいつ何歳でしたっけ?確か10歳の自称美少女だったはずです。しかしこの物語の作者は32歳のチャールズ・ドジソン先生、筆名ルイス・キャロル氏ですから、責めを負わせるべきは故キャロル氏の方にある、と考えるべきでしょう。
 私はね、とアリスはせいいっぱい虚勢を張りました、あんたたちとは生まれも育ちも違うのよ。あんたたちなんか、とアリスは小人たちの生まれの卑しさを嘲笑しようとしましたが、勢いづいてまくし立てようとして実はちっとも小人たちの生い立ちのことなど知りはしないのに気がつきました。でもアリスだって人は見かけで判断すべきではなく、階級や資産に値打ちがあることくらいはわかっています。一応このお話の時代設定は19世紀中葉ですから、医学的にクリトリスの機能が解明されてからほんのわずかしか経っておらず、女の子がオナニーしているところを母親にでも見つかろうものなら病気と思われ、缶詰の蓋でえぐり取られるのも珍しくはないのが帝国文化のドブの裏でした。そのドブの中から伝説の通り魔・切り裂きジャックが生まれてきたのも伊達ではないごとく、この大国はあと半世紀もすれば再び植民地の大半を失う斜陽国家になる運命でした。
 しかしアリスにはそんな未来のことなどよりも、とにかく迫った危機をいかに回避するかが火急の課題でした。ガリバーは小人に大地に張りつけにされてどうしたんだっけ?なんか簡単だったような気もするわ、とアリスが身を起こすと、杭はあっけなく土から抜けました。


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 ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために、という悪い冗談があります、とミツバチの女王は言いました。これから私がその好例をお話しましょう。
 20世紀アメリカ合衆国のニューヨークで活動した美術モデル、映画女優で「ミス・マンハッタン」、「パナマ-パシフィック・ガール」、「エクスポジション・ガール」、「アメリカン・ヴィーナス」など、さまざまな通称で知られ、ニューヨーク市内の15以上の彫像のモデル・着想源となり、4本のサイレント映画に出演した伝説的女性オードリー・マンソンは1891年6月8日、ニューヨーク州ロチェスターにオードリー・マリー・マンソン(Audrey Marie Munson、1891年6月8日 - 1996年2月20日)として生まれました。父親はニューヨーク州メキシコ出身で、両親のエドガー・マンソンとキャサリン・"キティ"・マヘイニーは彼女が幼い頃に離婚し、オードリーと母親はニューヨーク市に移り住みました。
 15歳の時(1906年)に写真家のラルフ・ドレイパーの目に留まり、彼の友人の彫刻家イジドール・コンティに紹介され、彼女はその後10年間にわたってマンソンはニューヨークの多数の彫刻家・画家たちにとって極上のモデルになります。1913年のザ・サンによれば「100人以上の芸術家が、ミス・マンハッタンの称号を誰かに冠するとすれば、それはこの若い女性にこそ相応しいと認めている」とされ、1915年には、同年のサンフランシスコ万国博覧会(パナマ-パシフィック万国博覧会)のためにアレクサンダー・スターリング・カルダーが起用するほどモデルとしての地位が確固たるものになっていました。彼女は博覧会に出品された彫刻のうち5分の3のモデルを務め、「パナマ–パシフィック・ガール」として名声を得ました。
 彼女の名声は発展途上の映画界への転身を促し、4本のサイレント映画に主演します。初出演の彫刻家のモデルを描いた『Inspiration』で、アメリカ映画で全裸で登場した初の女性になりました。検閲官はこの映画の禁止はルネッサンス美術の許可と矛盾するため起訴を見送りました。映画は評価は分かれましたが、興行的には成功を収めました。現存するマンソンの映画は『Purity』1本のみになります。
 そしてマンソンのキャリアはスキャンダルによって生命を断たれました。次回はそのお話から始めましょう。


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 さて、1891年6月8日生まれ、20世紀アメリカ合衆国ニューヨークで活動した美術モデル、映画女優で「ミス・マンハッタン」「アメリカン・ヴィーナス」とも呼ばれ、ニューヨーク市内の15以上の彫像のモデルとなり、4本のサイレント映画に出演した伝説的女性オードリー・マンソンについて、その後半生をたどってみましょう。もっともこの時点でマンソンはまだ20代半ばなのですが、しかし決定的な挫折はすぐ先に待ちかまえていました。それは陰惨で、猟奇的ですらある運命でした。
 マンソンは1919年にニューヨークのウォルター・ウィルキンズ博士所有の下宿で母親と暮らしていました。ウィルキンズはマンソンと恋に落ち、彼女と結婚するために妻のジュリアを殺害しました。殺害の前にマンソン母娘はニューヨークを発っていましたが、警察は尋問のため母娘の行方を追い、全国規模の捜索の後、2人はようやくカナダのトロントで尋問を受け、ウィルキンズ夫人の要請により下宿を去ったのだと証言しました。容疑からは逃れられましたが、事件のスキャンダルによってマンソンのモデル、女優としての経歴は事実上ここで終わりを告げました。ウィルキンズは裁判にかけられ、有罪として電気椅子送りを宣告されました。彼は刑が確定する前に、刑務所内の独房で自ら首を吊りました。
 1920年には、マンソンはまったくの無職で勤め先もなく、母親の台所用品の訪問販売による収入だけでニューヨーク州のシラキュースに母子家庭を営んでいました。そこに1921年2月、ペリー・プレイズ社は映画『Heedless Moths』出演のため、27,500ドルでマンソンと契約を結びました。この映画は無数の新聞記事と、彼女が新聞の日曜版に寄稿した短編やその他の記事に基づき、彼女自身の半生を描いたものでした。そしてこの自伝的映画が彼女の出演した最後の映画作品になりました。
 1922年5月27日、マンソンは塩化第二水銀の溶液を飲んで自殺を図りました。
 1931年、裁判官は治療のため精神障害者施設に入るようマンソンに命じました。彼女はオグデンズバーグにある精神障害者のためのセント・ローレンス州立病院で、104歳で亡くなるまでの65年間を過ごしました。彼女は1996年2月20日に長い生涯を閉じました。
 ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。彼女の生涯はまさにそれを体現するものでした。


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 来月には別居婚している内縁の夫人の母国へのアジア・ツアーがある。彼女の国ではまだおれはスターなのだ、ありがたいことだ、とK.は無精ひげの伸びた顔を洗うと、70歳を過ぎた自分の姿を洗面台の鏡に認めた。彼には国際的スターだった一時代を築いたキャリアがあるから、青年時代からの無数のフォトセッション、演奏中のライヴ映像シューティング経験があり、20代のおれからつい最近のおれまでが日めくりカレンダーのように残されているわけだ、と考えた。成功の頂点に立っていた頃のおれはジャーナリズムからも同業者からも糞味噌に言われた。ハイプ(誇大広告)の見本のように言われたものだ。だがそれはおれの望みの一部ではあったが、すべてがおれの責任ではないはずだ。おれを担ぎ上げることで話題を引き出し、わらわらと自分たちの飯の種にしようという連中がおれをハイプにした。
 おかげさまで来月も極東ツアーがあり、今の女は里帰りにもなるからツアーを楽しみにしている、とK.は考えると、明日のリハーサルには無精ひげを剃らないといけないな、当日剃るのは慌ただしいから、と慎重にシェーヴィング・クリームを顔面に塗ると、早くも指先の震えを感じた。彼の指はもう数年前から神経性麻痺が進行しており、ほぼ半数の指が使い物にならなくなっていた。駄目だ、とK.はシェーヴィング・クリームを洗い流すと、憂鬱を増すような電気シェーヴァーの音に顔をしかめながら最小限の無精ひげは剃り上げた。ステージの時は剃ってもらうべきだろうか。進行性麻痺を気取られないだろうか。
 リハーサルでは自分の負担を極端に減らしたアレンジにしなければならない。その理由をプレイヤーたちはおそらく感づいている、とK.はストレートでウィスキーを傾けた。進行性麻痺の発症よりも前、明らかなキャリアの下り坂からK.は鬱病にかかり、アルコール依存症が進んで躁鬱・統合失調様症状を来していた。
 K.は酔いが回ると戸棚からショットガンを取り出した。震える指先でカートリッジの詰め替えには骨が折れたが、演奏よりはましだ。K.はリヴィングの床に座り、ショットガンの銃口を口に咥えると安全装置を外し、足指を引き金にかけた。これでいい、ヘミングウェイと同じだ。おれの頭蓋の上半分は完全に吹き飛び、一生おれに悩みをもたらした脳漿はすべて飛び散り、そしておれは解放されるだろう。
 だが……どちらでも同じことだ。


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 馬鹿みたい!とアリス。いくら芸人だからって相当売れていた時代もあるんだから、それなりに資産はあったんでしょう。
 それなりどころじゃないと思いますが、と白ウサギ。外国の高級住宅地に邸宅を構えていたくらいですからね、人気の盛りは過ぎたとは言え立派なセレブ、エリートです。
 だったらなおさら仕事を休んで、鬱病アルコール依存症をきちんと治してから出直せば済んだじゃない。
 進行性の神経性麻痺で演奏家としての将来を悲観していたんです、と白ウサギ、鍵盤楽器演奏家のヴァーチュオーソにとっては、これはほとんど絶望的な事態です。
 演奏できなくなっても作曲・編曲はできるでしょう。今ではDTMで生演奏と匹敵するものが作れる時代だし、バンドリーダー、クリエイターとしての将来をすべて悲観するのは短絡的というか、あまりに衝動的で同情の余地がないわ。海外公演のスケジュールも翌月に組まれていたくらいだから、どれだけの人が迷惑をこうむったことか。少なくとも翌月の海外ツアーはこなせる、と思っていたんでしょう?スケジュール自体は遅くとも3か月前には決まっていたはずで、正式にキャンセルする時間的余地もあったでしょう。結局アドヴァンスだけが目当て何らかの理由でツアーは流すつもりだったんじゃないか、勘ぐりたくもなるわ。
 いや、この世代の人は人口動態ではピークなんですよ、と白ウサギ。それこそ人気が旬のうちに極端な過密スケジュールを組んでおいて、人気が凋落してもいわば惰性のついた労災レベルの過労、ワーカホリックから逃れられない。健康的な休養なんて言っていられないのです。コマは止まると倒れる。アルバム制作とツアーの機会がコンスタントにあるうちはいいが、まずアルバムの発売契約がメジャーからインディーズに落ちて、スポンサーつきの大規模ツアーからいきなりプロモートもされない地味な地方都市の小会場のドサまわりに活動が激変する。数年おきおきにメジャーとインディーズを行ったり来たりしていたような不安定な活動が鬱病アルコール依存症につながったのは十分推察できますし、おそらく薬物依存が進行性の神経性麻痺に拍車をかけていたでしょう。
 それに、と白ウサギ、最後のパートナーだった内縁のアジア系婦人とも別居婚だったことにも一種の不吉を感じさせます。パートナーとしては必要としあっていた、だが同居婚は耐えられない理由がおそらくあったのです。


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 もう少し哲学を入れなさいよ、と渚の国のアリスは言いました、あんたの顔色はあまり良くないわ、まるで黒いお腹の中に秘密でも抱え込んでいるみたいに。
 余計なお世話よ、と鏡の中のアリスは答えました、私は自分のやりたいことは自分で決めないと気が済まないんだから、たとえそれが自分の理性でも逆らいたい時には逆らうわ。
 何をやってるんダス?とハートのキングが格子越しに覗きこみました。アリスは慌てて霊魂をひっこめると、ひどいわ、女の子の部屋を覗くなんて。
 覗くも何もお前は監視されているダス、とハートのキング。牢獄とは誰の部屋でもないものダスよ。
 誰の部屋でもないんなら、あんただって覗く権利はないじゃない、とアリスは抗議しました。ハートのキングはフフッとせせら笑うと、その理屈は通用しないダス。なぜならここは国家権力の部屋ダスから。
 私が何をしたっていうのよ!とアリスは叫びました。私が犯罪者じゃないのは、私自身が知っているわ。
 もしお前が犯罪者でないなら、とハートのキングは言いました、お前でない誰かが犯罪者ダス。お前でない誰もが犯罪者でないなら、他でもないお前以外に犯罪者はないダス。
 そんな理屈ってないわ!とアリスは地団駄を踏みました。何でダス?とハートのキング。だって、とアリス、もし私が悪人かもしれないっていうだけがこんな仕打ちをされる根拠なら、誰だってこんな目にあう理由はあるってことじゃない?
 そこダスな、とハートのキングは腕組みしました。お前は肝心なことをわかっていないダス。そんなのわからなくって当然じゃない、とアリス。それそれ、そこダス。
 ハートのキングは声を低めました。以前この部屋には絞首刑にされた男が入れられていたダス。そいつは平凡な勤め人の独身男だったのが、ある日突然逮捕されてここにぶち込まれ、一時的な釈放期間もあったが何度も裁判にかけられた結果、正式な判決なしに絞首刑に処せられたのダス。
 その男は罪を認めたの?
 いや全然。罪も何も、そもそも訴状自体のない裁判だったのダス。
 ひどい話!とアリスは叫びました、何で訴えられる罪もなかった人が死刑にされたのよ?それじゃあ誰が、何の理由もなしにいつ処刑されてもおかしくないじゃない?
 理由はあるダス、とハートのキング、自分は無罪だと主張すること、それ自体が極刑に値する罪状なのダス。
 そんなの法治国家じゃないわ!
 誰がそう言ったダス?


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 今回はゲストブックへの匿名書き込みより。このブログはコメント、ゲストブックともログイン限定にしていますが、その人物は匿名書き込みのために、
a) 別アカウントを作成して書き込み、
b) その後アカウントを抹消してリンク不明にする、
 という具合で、最初は仮アカウントで載っていましたが、今ではURL不明の「-」になっています。おそらく常習犯なのでしょう。

1) 3月7日のブログに「絆」だとか書いてるけど、あなたが求めていたのは相手の財布の中身じゃないの?
 金の無心をした結果、避けられたんでしょ。
 自分勝手な行動の報いだ。

2) 3月7日の「目覚まし時計が嫌いだ」は、アエリエルさんの人となりが垣間見られる内容ですね。
 私は読んだ事をとても後悔し、不愉快な気分になりました。
 先に書いておきますが、誰でも読む事が出来る状態で公開していながら「嫌なら読むな」という論理は通用しませんよ。
 >「今これだけしかないから」とお金を渡された。
 詳細は省かれているようですが、事の次第は↓のような感じだったのでしょう。
 出所間もないアエリエルさんが当座の生活のために借金を申入れた。
 →親友or弟さんは、要求された額のお金を融通できる経済状態ではなかった。
 →少ない持ち合わせの中からアエリエルさんに無理をしてお金を渡した。
 > お金を返すと連絡したら、その日のうちに取りにきた。
 借りたら返すのは当然の事です。
これは常識ではなく道徳の問題だし、借り手が上から目線で書くのは大間違いです。

3) アエリエルさんは親友or弟さんに、借金の申入れを度々していますよね?
 でも、最終的には断られたのでしょう。
 誰だって返済の可能性が限りなくゼロに近い生活保護受給者にお金を貸したくありません。
 立場が逆ならば自分の生活を犠牲にしてでもアエリエルさんはお金を貸しますか?
 貸しませんよね。
 私の周りにもアエリエルさんに似た境遇の人が居るので状況は手に取るように判ります。
 彼は「自分は何も与えないが、周囲の人からは与えてほしい」という人物です。
 周りの者達は皆んな呆れて彼から離れていきました。
 自業自得です。
 アエリエルさんは知識もあり立派な事をブログに書いていますが、今回は愚行としか言いようがありません。
 普段から思っている事なのかもしれませんが、ネットで他人の悪口を書くという事は陰口と同じです。

 何ダスこれは、と♥のキングは呵々大笑し、ただの洞穴の貉ではないダスか。目糞鼻糞、笑止千万。
 死刑、と♥のクイーンは眉も動かさず宣告しました。
 第七章完。


(五部作『偽ムーミン谷のレストラン』第五部・初出2016年1月~6月、全八章・80回完結)
(お借りした画像と本文は全然関係ありません)