人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

グレイトフル・デッド Grateful Dead - アオクソモクソア Aoxomoxoa (Warner Bros.-Seven Arts, 1969)

グレイトフル・デッド - アオクソモクソア (Warner-Seven Arts, 1969)

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グレイトフル・デッド Grateful Dead - アオクソモクソア Aoxomoxoa (Warner Bros.-Seven Arts, 1969) Full Album 1969 Original Mix : https://www.youtube.com/playlist?list=PLRhskM25eDCUP-9y4HI8KUSt3j7NJLSRV : Full Album 1971 Remix & 2013 Remaster : https://www.youtube.com/playlist?list=PL9FOcjmiWH2NE0M6VTkju6IHQLqH6yL2N
Recorded at Pacific Recording, San Mateo & Pacific High Recording, San Francisco, September 1968 - March 1969
Released by Warner Brothers -Seven Arts Records WS1790, June 20, 1969
Remix Reissued since in 1971
Produced & Arranged by Grateful Dead
All tracks written by Jerry Garcia and Robert Hunter, except where noted.
(Side One)
A1. St. Stephen (Jerry Garcia, Phil Lesh, Robert Hunter) - 4:26
A2. Dupree's Diamond Blues - 3:32
A3. Rosemary - 1:58
A4. Doin' That Rag - 4:41
A5. Mountains of the Moon - 4:02
(Side Two)
B1. China Cat Sunflower - 3:40
B2. What's Become of the Baby - 8:12
B3. Cosmic Charlie - 5:29
[ Grateful Dead ]
Tom Constanten - keyboards
Jerry Garcia - guitar, vocals, lead vocals on all songs except "St. Stephen"
Mickey Hart - drums, percussion
Bill Kreutzmann - drums, percussion
Phil Lesh - bass guitar, vocals
Ron "Pigpen" McKernan - keyboards, percussion
Bob Weir - guitar, vocals, co-lead vocals on "St. Stephen"

(Original Warner Bros.-Seven Arts "Aoxomoxoa" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 1965年結成、1995年にリーダー、ジェリー・ガルシア(1942-1995)が病没するまでにグレイトフル・デッドには22作の公式アルバムがあります。デッドの生存オリジナル・メンバーはガルシア抜きで実質的な再結成ツアーをバンド結成50周年記念の2015年まで断続的に続けていましたし、ガルシア生前のグレイトフル・デッドのライヴは2300回中2150回分の録音が残されていることでも知られ、ガルシア歿後に公式リリースされた発掘ライヴ・アルバムは150~200作あまりに上ります。しかもそのほとんどがCD2~3枚組で、やはり2015年の結成50周年記念にリリースされたボックス・セット『30 Trips Around the Sun』に至っては初アルバム化された未発表ライヴが1年1コンサートずつ、総計CD80枚組の超大作で、しかもデッドのアルバムはジャケット・アートも似たり寄ったりなので(「安楽死」というバンド名にちなんでカリフォルニアのすぐ隣、メキシコの「死者(骸骨)の祭り」をモチーフにしています)、どれがバンド存続中の公式アルバムか(今でも毎年4~6作ずつメンバー公認のライヴ・アルバムが発掘リリースされていますから実質的にはバンド存続中の公式発売とも言えますが)、どれが発掘リリースなのか、CDショップの店頭やネット通販サイトを見ても前知識がないと見分けがつかないでしょう。ジャケットどころかルックスやサウンドも30年間変わらなかったという人たちですから、公式アルバム22作にしても何から聴けばいいのか困ってしまって敬遠している人も多いと思います。簡単に言って年代順に聴けば良いと思いますが、デイヴ・ハッシンガーにプロデュースを依頼したデビュー作は個性発揮の一歩手前、第2作でライヴ録音とスタジオ録音のミックスを試みてようやくデッドらしいサウンドになり、セルフ・プロデュースの第3作『アオクソモクソア』でとうとうスタジオ録音の成功作が生まれました。デッドを聴くならこの第3作か次作『ライヴ・デッド』がいいでしょう。オリジナル・メンバーが揃った初期デッドのアルバムは次の8作になります。

[ Grateful Dead Original Line-Up Discography (1967-1972) ]

1. The Grateful Dead (1967)
2. Anthem of the Sun (1968)*Recorded Live & Studio
3. Aoxomoxoa (1969)
4. Live/Dead (1969)*Recorded Live, 2LP
5. Workingman's Dead (1970)
6. American Beauty (1970)
7. Grateful Dead (Skull & Roses) (1971)*Recorded Live, 2LP
8. Europe '72 (1972)*Recorded Live, 3LP

『Europe '72』を最後にバンドのシンボル的存在だったオルガン、ヴォーカルの名物男ピッグペンがアルコール中毒で逝去してしまうので、デッドを聴くならここまでの8作は外せません。フィル・レッシュのベースのすごさが初めてアルバムでとらえられされたのは『ライヴ・デッド』からで(後述)、ボブ・ウェアが自作曲でヴォーカルを取りガルシアに追いついたのは『グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ)』からです。ピッグペンの逝去を乗り越えられたのもレッシュとウェア、ビル・クルツマン(ドラムス)の功績で、メインソングライターかつリード・ヴォーカル兼リード・ギターのガルシアのワンマン・バンドだったらデッドは1972年前後で終わっていたでしょう。ただし『アオクソモクソア』の時点では1曲レッシュとの共作を含めて全曲ガルシアのオリジナル曲(歌詞はデッド専属作詞家のロバート・ハンターです)、リード・ヴォーカルもA1でウェアとデュオになる以外はガルシアです。前作『太陽の讃歌』は、ブルースのカヴァー中心だったデビュー作を抜けだしてガルシアの作曲力が開花し始めたスタジオ録音とライヴ録音の混合アルバムでしたが、本作では曲ごとにカラーがより鮮明になり、スタジオ盤ならではのコンパクトなデッドの魅力が味わえます。すでに伝説化していたデッドのライヴの奔放さは『ライヴ・デッド』『グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ)』『ヨーロッパ72』で明らかになりましたが、続くスタジオ・アルバムの成功作でヒット作『ワーキングマンズ・デッド』と『アメリカン・ビューティー』は『アオクソモクソア』の成果がなければなし得なかったでしょう。

 デッドのどこがいいというと融通無碍な演奏がいい、特にガルシアの変態ギターが良いとは定評がありますが、全然ロックのヴォーカルっぽくないガルシアのよれよれヴォーカルと意外に上手いウェアとレッシュのヴォーカル・コーラス、ライヴでは持ち曲でリード・ヴォーカルをとるピックペンのヤクザな存在感、リズム・ギターとリード・ギターを均等に往復してガルシアと絡むウェアのギター、ジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディーと双璧をなすレッシュの変態ベースなどじわじわと染み込む良さがあり、今回リンクに引いたのは2種類あって当初発売されたのは1969年のLPのオリジナル・ミックスですが、デッドは本作を1971年版プレスでリミックスして以来再発LPもCDも'71年リミックスを使用しており、特に2013年のリマスター盤を聴くとレッシュの変態リード・ベースは『ライヴ・デッド』以前にすでにすごかったことがわかります。宇宙空間に飛ぶガルシアのギターはデッドの看板でしたが、バンド全員が一体化したトリップ感があったからこそデッドはあっけらかんと明るい、スペース・ロック(Space Rock)の先駆者かつカルト的なヒッピー・ロックの最大のバンドになったのです。

 ところで誰も言わないのはデッドは実は曲が良いことで、本作の万華鏡のように多彩な楽曲を聴くと演奏以前にガルシアの作曲センスの良さに唸らされます。およそメジャーなバンドの中でデッドほどシングル・ヒットのなかったバンドはないので、'87年の6年ぶりのアルバム『In The Dark』がバンド最大のヒット・アルバムになった時(全米6位)、シングル「Touch of Grey」がバンド唯一のトップ10ヒット(全米9位)になったくらいで、ガルシア逝去までの30年間にトップ40ヒットになった曲もこれが唯一でした。デッドと言えば「ああ、あの曲の」という名刺代わりの代表曲もけっこうあるのですが、デッドの曲名が浮かんでくるほどならアルバムを聴きこんでいないとまず無理なので、ひょっとしたらシングルの中ヒット曲があるクイックシルヴァー・メッセンジャーズ・サーヴィス(「Fresh Air」「Just For Love」「What About Me」など)より分が悪いかもしれません。

 デッドの音楽的バックグラウンドはブルース、フォーク、ブルーグラス(カントリー)、ロックン・ロールがあり、文化的にはサンフランシスコの作家ケン・キージー(代表作『郭公の巣』)が主催するアシッド・テスト・パーティーの専属バンドからスタートした、というサイケデリック・ロック・バンドでした。当時の名称はワーロックスで、同時期にニューヨークではアンディ・ウォホールがパーティーを定期開催しており、その専属バンドもワーロックスという名前でした。後にヴェルヴェット・アンダーグラウンドと改名するバンドです。この東西ワーロックスは同名のバンドが同時にレコード契約&デビューすると知って一方はヴェルヴェット、一方はグレイトフル・デッドと改名したという冗談のような実話があります。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのサード・アルバムも1969年ですが、ルー・リードという抜群のソングライターがいたヴェルヴェットにデッドだって楽曲でも勝負できるというか、このカントリーなのか(A2, A4)、フォークなのか(A3, A5)、ブルースなのか(B2, B3)、ロックン・ロールなのか(A1, B1)、そのどれかであるようで同時にすべてであるようなデッドのサイケデリック・ロックには、都会的なヴェルヴェットにはない地に足のついたおおらかな包容力があり、東洋思想かぶれのうさんくさいヒッピー文化から生まれながら、むしろそれゆえに宿命的なロックのナルシシズム(ヴェルヴェットやドアーズはその塊でした)に一度も陥らなかった稀有なバンドに成長したことがわかる、素晴らしいアルバムです。デッドの人気はその開放的で穏やかな明るさからでした。『アオクソモクソア』と『ライヴ・デッド』がいければ、デッドの全アルバム(公式アルバム、発掘ライヴ・アルバム問わず)はいけます。筋金入りのアンチ・ヒッピーだったフランク・ザッパルー・リードではそういうわけにはいきませんから、音楽とは不思議なものです。

(旧稿を改題・出直ししました)