人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

山本陽子「遥るかする、するするながらIII」(「現代詩手帖」昭和45年=1970年より)

現代詩手帖」昭和45年=1970年10月号
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(山本陽子<昭和18年=1943年生~昭和54年=1984年没>)
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遥るかする、するするながらIII

 山本陽子

 遥るかする
純めみ、くるっく/くるっく/くるっくぱちり、とおとおみひらきとおり むく/ふくらみとおりながら、
わおみひらきとおり、くらっ/らっく/らっく/くらっく とおり、かいてん/りらっく/りらっく
りらっく ゆくゆく、とおりながら、あきすみの、ゆっ/ゆっ/ゆっ/ゆっ/ とおり、微っ、凝っ、/まっ/
じろ きき すき/きえ/あおあおすきとおみ とおり/しじゅんとおとおひらり/むじゅうしむすろしか
つしすいし、まわりたち 芯がく すき/つむりうち/とおり/むしゅう かぎたのしみとおりながら
たくと/ちっく/ちっく すみ、とおり、くりっ/くりっ/くりっ\とみ|とおり、さっくる/さっく
ちっく/るちっく すみ、とおりながら
純めみ、きゅっく/きゅっく/きゅっく とおとおみ、とお、とおり、繊んじゅん/繊んく
さりさげなく/まばたきなく/とおり、たすっく/すっく/すっく、とお、とおりながら
すてっく、てっく、てっく
 澄み透おり明かりめぐり、透おり明かりめぐり澄み透おり
 透おりめぐり明かり澄みめぐり、めぐり澄み明かりぐりするながら、
闇するおもざし、幕、開き、拠ち/ひかりおもざし幕開き拠ち
 響き、沈ずみ、さあっと吹き、抜けながら
 響き、ひくみ、ひくみ透おり渉り、吹く、透おり、/
 先がけ、叫び、しかける街々、とおくをわかち、しずみ、/透おり交いながら
 しずみ 、しずみ透おりひくみ、ひびき、ひくみ/つよみ透おりするながら、たえまなく
 透おり交わりするながら/ひびき透おり放ち、
 瞬たき、路おり乗するながら
夜として観護るごと、めばめき 帳ばり、ふた襞、はたはた ひらき 覆い/

 響き、/ 尽くし/吹く透おり/消え、
 しずみ、/ひくみ、/
ひびき透おり吹き
 ふためき、はたと墜として、はたり /途断え、やみ、蔽い

 吹く、吹く、吹く、おとないかぜ透おり、おとなしかぜ渉り、
 吹く、やすらぎ/すずしやぎ
りり、 りりり、りりり

夜する/ふんわり、かげろう 薄すまめぎ/口開き拠ち、
夜切り、浮きたち、ひろひろ透おり、澄み透おり透おり明かりするながら、
 絹ぎ/すき/消え/さやとおり 澄まり静まる夜する口開切り拠ち
 融け透おり/ 芯へおいて/燃やし尽くされ、消え/
 沈ずみ、充ち、放ち、高かみ、透おり交わするながら、
 清烈し静濫し/透おり
 豊かみ、ゆえみ、揺み、透おみ、たえまなく/ゆみ/とおり、まどやか/すみ/
 透おりつくし/透きみ/清み/撒き、透おり するながら
夜する口切り 透おり渉り透おり贈くるするながら

 そこ/とおり/とおり仄やか/しらめくくちなし匂おぎ
 ふっくら透おり渉り つうーん くちなし匂おき 透おり
 すうっとすずしやか/かすか/透おり渉り透おり匂いくちなし

るきっく とおり|あららぎ、あゆうーん/あゆーん/あゆーん/ゆーん ふううわーん/ふうわーん/ふわーん/ふわきりりっ
くっとおとおりりっくりき、とおおーん/とおーん\とおーん/とおん とおとおするながら
はじめてのみちするかた 情い
さらああーん さらああーん/さ、ああーん/さ、あーん
とおおーん/お、おーん、おーん やみなくくっく/ことっく/かたっく/とおとおり
こおおおん/こおおん/こおーん/おーん するながら、
すううーん/す、ううん/すうーん とおんび/とおとお/りり、りっく
たああん/た、ああーん/たあーん/たあーん りりっく、り 澄み純のめするながら

 りり、り りり、り 仄やぎ/憧れ 透おり、吹く、おとないかぜ、渉り 吹くやみしかぜ
 透おり
透おり、くぐり、りりっく、透おりするながら、
 りりり りり、り りり、り/
 さっとまろぎ、
 まろ深ぶかみ、透おり
 淡ららぎ、扇ききらり、扇ききらり、扇ききらり、あおきりしんせん充ち、すみきり
 おさららぎ すぎり、すぎりわたり透おり、
 あらたく/あらたやぎ 吹き、吹き、わたり透おりながら
すくりくけく、活づき、活づき、活づき
活づき透おり ま深ぶかみ
 遭ららぎ 扇ききり 扇ききり あふりきようじんすんなり充ち、すみきり、
 そぎららぎ 吹きとおりわたり
 あやたやぎ/あらた 透おり わたりながら
まろぎ透おり遭い交いながら
みなみなしぎ/みずみずしぎ 吹き、吹き、/吹き
あらたく/あらたやぎ 活づき 活づき/活づき
すずしやぎ/すく/すくりやぎ りりり、りりり、りりり/
遮ぎりなくしく/果てしなくしく
りりり、りりり りりり 吹く渉り透おり 吹く おさない、吹く おとないかぜ透おり吹く
おとないかぜ憧れ透おり

 とおーん/とおーん/とおん/とおとおんび 透おり りりっく/りっく くぐり 透おりするながら
吹く、渉りおさなとぎ透おり、吹くおとないしぎ透おり 吹く、おとなしぎ透おり 吹く 憧れかざかぜ透おり
りりり、りりり、りりり、りりり
くっく/くっく/くっく とおり/さ いおおーん/ふおおーん/ほおーん/おおーん
尨くらみ/むな/ふわふわり/尨くららみ、
 きらら、ぎん/すき/きらら 透おり添い/透おり添い透おり/きららっ 澄みあき/透おり
 優さしげ/柔わらかげ/憩らげ/消え きら/きらっ/きらっ/きら、澄み/きらら
 舞い/あが透おりながら、
 ひらら、ひらら/きえ/とおりたち とおり/とめ/すき/きえ/きらら
 そりとおりたち/いとけなくたちとおり/とおりたちとおり/むすうしむじゅうし
 ふうわり/ふうわり/ふうわり/ふうわり
りり り りり り りりり
 ひとつ/ひとつ、ひとつ、ひとつ 軽やけく/震るえやけく/繊やけく
 舞いちょうじ 透おり/透おり舞いちょうじきらら、きらら/ 透おりちょうじきらら舞い
 つどい透おり/きららっ緩っく緩っく察っく 舞いちょうじ 透おりながら
 きらら、きらら、きらら、透おりかい/透おりかい透おりながら、、きらららっ
 息き、/息き/息き/息ききり 舞いちょうじながら
 添い透おり/透おり添い/あが透おり消えながら、

りりり、りりり、りりり 吹く、透おり渉り透おり、吹く おさなしぎ 吹く、おとない吹くおとなしぎ 吹く
 憧れ かざしぎかぜ

 透おり、透おり
 仄やか、息き吹くる/乳白滞びる/ひろぎ、透おり交い充ち/とおくを支する街々するながら
遮えぎりなくして/果てしなくしく りりり、りりり、りりり
 澄み、透おり、たんちょうじ、拠ち/むくげ
 すらり、/すらり、すらり、
 透おりたんたん 透おり、たん/ちょうじ敏ん透おり
 むくむく/とおるく拠ち するながら、
 透おり、茫わ、茫わ/茫わ/むすうし、先すらり/すらり/すらり/あわび摩び/たん透おり、
 /たん、たん/細そめひらき、/、はなり、透おり/まぶしげ/あわげ むすう摩び
 察っとゆらき楽び透おりすらり、すらり、すらり 透おり先
 おく、とおとどき/さりさげなく/うつむきなく/透おり
 敏ん/敏ん/びん/敏ん/むくむくげ、
 ほおおーん/お、おーん/おおーん/ほおーん拠ちするながら
透おり、すらり/透き透おり/透おり透きすらり透おりひらきはなり/すらり透おり透き透おり/
あわげ/むすう/きら摩び、きらり/きらり、/きらり 先細めするながら
 さくっさく/たんちょうじ、透おり/たん/たん/たん/ひくみ透おり
 おくとおるく拠ち
 たんちょうじするながら

りりり、りりり、 渕ち さっと揚ぎ 吹き 吹き、吹き/憧れ透おり/ 吹く、吹く、吹く透おり渉り透おり吹く、おさなしおとなし かざ透おり おとなしかぜ
りりり、りりり、りりり

 瞼か/透おし 澄みめ純みめ/おく、とおとおく/透おし
 刷っとまみえだち、おうるみ 泊だち ひっこみ/ひっこみ 敏いいーん 透おするながら
ぽおおろろーん/ぽおおろろーん/ぽおろろん/ぽおろん/ぽおーん
ひくみ/ひくみ/ひくみ かなでを つづり、透おり
 親し/推し たん/たん/たん 透おり、むくむく/りりっく たんちょうじするながら、透おり
とおくを わかち/しずみ、りんりんひびきひくみ、透おり交い真するながら
 息吹く、息吹く 先がけ
 たえまなくひびき透おり、交わし/透おり ひびき、つよみ、放ち
しずみ しずみ ひくみ ひくみ つよみ透おりしずみ
ひびき、 そっと揺み透おり、うち顫るるえ しずみ ―― 渉り
渕ちより おくおもむきおくぶかみ、先拠って/孤し赴き汲み降するながらの むくむぐ/むーん
/先拠ちするながら
創り為しときしする 渕ち/はじまり、透おり くぐり、やすみなく、くぐり先拠ちするながら
越え創りなし、越え/ときしなする越え/想いするながらの ときしなするおわり
 まばたきなく/とびたつことなく
 えぴぐらむ さりさげなく/すうっとすき/とどききえ/とおり
 えぴぐらむ ひくみ/ひくみ つくしんぼおるく ひくみ 声ねに 烈しみ/はにかみ/澄み
 おくとくるくするながら、/
茫っ/茫っ/茫っ 摩び透おり 先すらり/透おり透おりすらりら先/ごくあわげ/あらぎ/
あわ、あわけ、察っ察っ透おり/察っ透おり/先震れ微っ/微っ/先透おり/ かんしょくし/
かんそくし/透っり 拠ち
 さわさわこぎ 息づき そよぐ森、くねり・施めき 白路する森 さわさわ透おり走り交り裡ち森

びゆゆーん/びゆゆーん/びゅーん/ゆん 匂ぎ ふっききり 渉りれ吹透おり吹く/吹くおとなし
かぜさわしぎかざあられ透おり
 あおきりしくせんすみきり充ち あふりきょうじんあわあわ充ち/すんなり
 攫っとえぴぐらむ/かぜかざ透おり ひくみ/ひくみ/ひくみ尽く/し/
えぴぐらむ つくざり透おり/ぴくりあららぎ/膨くらみ/澄み純みめるらきくとおとおく/し
かいてんつづり はじめするながら/
 とどき・きえ/とおおくうく/瞼かく/きき/とおりいりとおり
瞼か/おくとおとおく情い (/) たんちょうじ拠ち 先細めひらきすらり/すらり/あわげするながら
きっぱり //むくぐ
さいごのげんじさぬ ひくみ ひくみ ひくみ 透おしするながら

鵠じ担い走り続け/はじめるながら/先拠って
情い先拠ち
彷/精気、透おり<声ぬ> 初源彷

(全行・思潮社現代詩手帖」昭和45年=1970年10月号、同人誌「あぽりあ」8号より転載)


 山本陽子<昭和18年=1943年生~昭和54年=1984年没>)は生涯を同人誌寄稿・自費出版詩人として終えた詩人で、この「遥るかする、するするながらIII」は山本陽子の詩の中で唯一同人誌「あぽりあ」から商業詩誌「現代詩手帖」に転載された詩篇です。これは山本陽子の全詩業で最大の問題作にして、発表から50年にもなる現在なお衝撃力を持つ長詩と言えるでしょう。造語とオノマトペと文法無視が氾濫し、意味のつかめないこの詩は言語というより音楽(または操作されたノイズ)の状態で書かれており、分析の不可能性すら感じさせます。また言語感覚の失調ぎりぎりに成り立つ抜き差しならさにまで踏みこんでいる詩です。山本は二十歳の時(1963年)に日本大学芸術学部映画科を中退し、同人誌「あぽりあ」創刊に参加しました。創刊号にはヘンリー・ミラー論を寄稿し、以下1969年の6号までに6篇(年に1、2篇)の詩作を発表しています。作風の転機となったのは「あぽりあ」8号の横書きの長詩「遥るかする、するするながら」(同人誌発表時には「III」はなし)で、最初で最後の商業詩誌転載作になり、以降山本は「あぽりあ」20号(1975年12月)まで12篇の横書き詩を発表しますが、前年1974年から入退院をくり返していた山本は1976年11月の「あぽりあ」23号ひさびさの縦書き詩「青春~くらがり」で同人誌への詩作発表も辞め、翌1977年2月に自費出版長編詩『青春~くらがり』の刊行以降は同人誌仲間との交友も避けるようになります。この頃から実家を出た山本はアパートに一人住まいし、午前中はビルの掃除婦を勤め、午後は読書と飲酒に耽ってろくに食事も摂らず、かつての友人ばかりか家族の訪問すら拒絶していたと言います。山本は長編詩『青春~くらがり』の続編を書き進めていましたが、1984年に肝硬変の悪化により孤独死して発見されました。享年41歳でした。おびただしいノート、遺稿は故人生前の意向によって遺族が焼却しました。

 没後2年して「あぽりあ」同人によって'60年代の縦書き詩6篇と『青春~くらがり』の未完の続編が『山本陽子遺稿詩集』(1986年)にまとめられましたが、現存する山本陽子の全詩は「あぽりあ」発表の18篇(縦書き詩7篇・横書き詩11篇)と自費出版長編詩『青春~くらがり』、『山本陽子遺稿詩集』で発表された『青春~くらがり』の続編しかありません。1990年代初頭に小出版社から各巻とも薄い全3巻+別巻1の全集がまとめられましたが(1巻=初期縦書き詩、2巻=中期横書き詩、3巻=『青春~くらがり』とその続編、別冊=散文・書簡・資料・解説)、貧弱な装幀で広告もされず、もともと少ない部数もごく限られた書店にしか流通しなかったので当時はほとんど注目されず、現在では近年30年間の日本の詩書ではもっとも古書価が高騰(各巻がバラでも定価の10倍以上もの数万円台で取引)している詩書になっています。山本陽子の詩は今後も広い読者に読まれるとは考えにくい徹底した純粋詩であり、一読して恐怖すら覚える不可解性に満ちた、現代詩の極北的作品です。しかし一定数の読者には必ず読み継がれていくだけの内実を備えているのは「遥るかする、するするながらIII」一篇からも明らかです。生前の山本陽子は同人誌仲間に難解さを指摘されると「100年後には理解される」と自負していたそうですが、少なくとも発表後50年の現在山本の詩は依然として理解されているとは言えないでしょう。ただしこの詩が日本語の可能性の限界ぎりぎりまで迫っているのはひしひしと感じられ、しかも山本以外に類例のないものであることは「遥るかする、するするながらIII」一篇が雄弁に証明しています。