人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#読書

石原吉郎「涙」(遺稿詩集『満月をしも』昭和53年=1978年より)

◎安野希世野「ちいさなひとつぶ」(TVアニメ『異世界食堂』エンディング・テーマ) MV (アルバム『涙』Flying Dog, 2017) : https://youtu.be/eJ5eOMUmcEY ◎安野希世野「ちいさなひとつぶ」Full Size (Flying Dog, 2017) : https://youtu.be/IHmyGSilVXE * 石…

蒲原有明詩集『有明集』(明治41年=1908年)より

(蒲原有明明治8年=1875年生~昭和27年=1952年没>) 智慧の相者は我を見て 智慧(ちゑ)の相者(さうじや)は我を見て今日(けふ)し語(かた)らく、 汝(な)が眉目(まみ)ぞこは兆(さが)惡(あ)しく日曇(ひなぐも)る、 心弱くも人を戀ふおもひの空の 雲、疾風(はやち)…

蒲原有明『春鳥集』明治38年(1905年)より

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 日のおちぼ 日の落穗(おちぼ)、月のしたたり、 殘りたる、誰(たれ)か味ひ、 こぼれたる、誰かひろひし、 かくて世は過ぎてもゆくか。 あなあはれ、日の階段(きざはし)を、 月の宮――にほひの奧を、 かくて將…

蒲原有明詩集『獨弦哀歌』明治36年(1903年)より

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途みち倦みて行くによるか。 星影夜天(やてん)の宿(しゆく)にかがやけども 時劫(じ…

蒲原有明「牡蠣の殻」「甕の水」(創元社『蒲原有明全詩集』より)

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 牡蠣の殼 牡蠣(かき)の殼(から)なる牡蠣の身の かくもはてなき海にして 獨(ひと)りあやふく限ある そのおもひこそ悲しけれ 身はこれ盲目(めしひ)すべもなく 巖(いはほ)のかげにねむれども ねざむるままにお…

与謝野鉄幹「煙草」明治43年(1910年)

与謝野鉄幹・明治6年(1873年)2月26日生~ 昭和10年(1935年)3月26日没(享年62歳) 煙草 啄木が男の赤ん坊を亡くした、 お産があつて二十一日目に亡くした。 僕が車に乗つて駆けつけた時は、 あの夫婦が間借してゐる喜之床の前から、 もう葬列が動かうとしてゐ…

与謝野鉄幹「人を戀ふる歌」明治32年(1899年)

与謝野鉄幹・明治6年(1873年)2月26日生~ 昭和10年(1935年)3月26日没(享年62歳) 人を戀ふる歌 (三十年八月京城に於て作る) 妻をめどらば才たけて 顔うるはしくなさけある 友をえらばば書を讀んで 六分の俠氣四分の熱 戀のいのちをたづぬれば 名を惜むかなを…

与謝野鉄幹「誠之助の死」、佐藤春夫「愚者の死」明治44年(1911年)

与謝野鉄幹・明治6年(1873年)2月26日生~ 昭和10年(1935年)3月26日没(享年62歳) 誠之助の死 大石誠之助は死にました。 いゝ気味な、 機械に挟まれて死にました。 人の名前に誠之助は沢山ある、 然し、然し、わたしの友達の誠之助は唯一人。 わたしはもうその…

与謝野晶子「君死にたまふことなかれ」明治37年(1904年)

与謝野晶子・明治11年(1878年)12月7日生~ 昭和17年(1942年)5月29日没(享年64歳) 君死にたまふことなかれ 旅順口攻囲軍の中に在る弟を歎きてあゝをとうとよ、君を泣く、 君死にたまふことなかれ。 末(すゑ)に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも、 親は刄…

1中原中也「冬の長門峡」「渓流」昭和12年(1937年)

中原中也・明治40年(1907年)4月29日生~ 昭和12年(1937年)10月22日没(享年30歳)、逝去1年前 冬の長門峡 長門峡(ちやうもんけふ)に、水は流れてありにけり。 寒い寒い日なりき。 われは料亭にありぬ。 酒酌(く)みてありぬ。 われのほか別に、 客とてもなかり…

薄田泣菫「破甕の賦」明治33年(1900年)

薄田泣菫・明治10年(1877年)5月19日生~ 昭和20年(1945年)10月4日没(享年68歳) 破甕の賦 火の氣絶えたる廚(くりや)に、 古き甕(かめ)は碎けたり。 人の告ぐる肌寒(はださむ)を 甕の身にも感ずるや。 古き甕は碎けたり、 また顏圓(まろ)き童女(どうによ)の 白…

中原中也「無題」昭和5年(1930年)

中原中也・明治40年(1907年)4月29日生~ 昭和12年(1937年)10月22日没(享年30歳) 無題 I こひ人よ、おまへがやさしくしてくれるのに、 私は強情だ。ゆうべもおまへと別れてのち、 酒をのみ、弱い人に毒づいた。今朝 目が覚めて、おまへのやさしさを思ひ出しな…

島崎藤村「髮を洗へば」「君がこゝろは」「傘のうち」明治29年(1896年)

島崎藤村・明治5年(1872年)3月25日生~ 昭和18年(1943年)8月22日没(享年72歳) 『若菜集』明治30年(1897年)8月29日・春陽堂刊 髮を洗へば 髮を洗へば紫の 小草(をぐさ)のまへに色みえて 足をあぐれば花鳥(はなとり)の われに隨ふ風情(ふぜい)あり 目にながむ…

蒲原有明「あだならまし」明治34年(1901年)

蒲原有明・明治9年=1876年3月15日生~ 昭和27年=1952年2月3日没(享年76歳) あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途(みち)倦みて行くによるか。 星影(ほしかげ)夜天(やて…

室生犀星「兇賊TICRIS氏」・萩原朔太郎「殺人事件」大正3年(1914年)

室生犀星・明治22年(1889年)8月1日生~ 昭和37年(1962年)3月26日没(享年72歳) 兇賊TICRIS氏 TICRISはふくめんを為す。 TICRISは思ひなやみ、 盗むことを念ず。 盗むことを念ずるとき光を感じ 心神を感ず。 ぴすとるを磨き、 天をいだき、 妹には熱き接吻を与…

高橋新吉「中也像」昭和34年(1959年)

高橋新吉・明治34年(1901年)1月28日生~昭和62年(1987年)6月5日没(享年86歳) 中也像 スペインの宮廷画家ヴエラスケスに 中原中也像がある 中也は白痴では決してなかつたが ヴエラスケスは 手の短い男が足を投げ出している無頼な姿を描いている 三百年以前に…

中原中也「含羞(はぢらひ)」昭和11年(1936年)

中原中也・明治40年(1907年)4月29日生~ 昭和12年(1937年)10月22日没(享年30歳) 含羞(はぢらひ) ――在りし日の歌―― なにゆゑに こゝろかくは羞(は)ぢらふ 秋 風白き日の山かげなりき 椎の枯葉の落窪に 幹々は いやにおとなび彳(た)ちゐたり 枝々の 拱(く)みあ…

川路柳虹「暴風のあとの海岸」ほか(明治41年=1908年)

川路柳虹・明治21年(1888年)7月9日生~昭和34年(1959年)4月17日没 暴風のあとの海岸其の他より 川路柳虹 「暴風のあとの海岸」 白――明るい海のにほひ、 濁つた雲の静かさ、白――灰――重苦しい痙攣…… 腹立たしいやうな、 掻き毟つたやうな空。藻――流木―― 磯草の…

川路柳虹「塵溜」ほか(明治40年=1907年)

川路柳虹・明治21年(1888年)7月9日生~昭和34年(1959年)4月17日没 新詩四章より 川路柳虹 「塵溜(はきだめ)」 隣の家の穀倉の裏手に 臭い塵溜(はきだめ)が蒸されたにほひ、 塵塚のうちにはこもる いろいろの芥(あくた)の臭み、 梅雨晴れの夕(ゆふべ)をながれ…

野口米次郎「私の歌」 (詩集『二重国籍者の詩』大正10年=1921年より)

野口米次郎・明治8年(1875年)12月8日生~昭和22年(1947年)7月13日没 「私の歌」 野口米次郎私のは進歩を否定する歌、 形式では律せられない無言の歌……… 生命の生れ、 避けることの出来ない偶然、 創造的本能の上昇、 歌よ、汝は現象だ、仕遂げではない。 言…

野口米次郎「雨」(詩集『二重国籍者の詩』大正10年=1921年より)

野口米次郎・明治8年(1875年)12月8日生~昭和22年(1947年)7月13日没 「雨」 野口米次郎雨の唇に歌があるお聞きなさい、其れは空の歌を聞えるやうにしたのです、雨の唇に歌があるお聞きなさい、其れは地の歌を見えるやうにしたのです。 雨の歌は何を歌ひます…

土井晩翠「荒城の月」(明治31年=1898年作)

土井晩翠・明治4年(1871年)生~昭和27年(1952年)没 「荒城の月」 土井晩翠明治卅一年頃東京音樂學校の需に應じて作れるもの、作曲者は今も惜まるる秀才瀧廉太郎君春高樓の花の宴 めぐる盃(さかづき)影さして 千代の松が枝わけ出でし むかしの光いまいづこ。…

蒲原有明「朝なり」(詩集『春鳥集』明治38年=1905年より)

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 「朝なり」 蒲原有明朝なり、やがて濁川(にごりかは) ぬるくにほひて、夜の胞(え)を ながすに似たり。しら壁に―― いちばの河岸(かし)の並み藏の―― 朝なり、濕める川の靄。川の面(も)すでに融けて、しろく、…

薄田泣菫「ああ大和にしあらましかば」(明治38年=1905年作)

薄田泣菫・明治10年(1877年)生~昭和20年(1945年)没 「ああ大和にしあらましかば」 薄田泣菫ああ、大和にしあらましかば、 いま神無月(かみなづき)、 うは葉散ちり透(す)く神無備(かみなび)の森の小路(こみち)を、 あかつき露に髮ぬれて、徃(ゆ)きこそかよへ…

北原白秋「薔薇の木に」(詩集『白金之独楽』大正3年=1914年より)

北原白秋・明治18年(1885年)1月25日生~昭和17年(1942年)11月2日没 「薔薇の木に」 北原白秋薔薇の木に 薔薇の花さく。なにごとの不思議なけれど。(詩集『白金之独楽』より)* 北原白秋(1885-1942)のこの短詩は、三日三晩で書かれたという短詩全95篇を収めた…

千家元麿「わが児は歩む」(詩集『自分は見た』大正7年=1918年より)

千家元麿(明治21年=1888年生~昭和23年=1948年没) わが児は歩む 千家元麿吾(わ)が児は歩む 大地の上に下ろされて 翅(はね)を切られた鳥のやうに 危く走り逃げて行く 道の向ふには 地球を包んだ空が蒼々として、 底知らず蒼々として日はその上に大波を蹴ち…

石原吉郎「位置」「事実」(詩集『サンチョ・パンサの帰郷』より)

石原吉郎(大正6年=1915年11月11日生~昭和52年=1977年11月14日没) 位置 石原吉郎しずかな肩には 声だけがならぶのでない 声よりも近く 敵がならぶのだ 勇敢な男たちが目指す位置は その右でも おそらく そのひだりでもない 無防備の空がついに撓(たわ)み …

渋沢孝輔詩集『漆あるいは水晶狂い』昭和44年(1969年)より

渋沢孝輔詩集『漆あるいは水晶狂い』 昭和44年(1969年)10月・思潮社刊 「弾道学」 渋沢孝輔叫ぶことは易しい叫びに すべての日と夜とを載せることは難かしい 凍原から滑り落ちるわるい笑い わるい波わるい泡 波さわぐ海のうえの半睡の島 遙かなる島 半分の島…

吉増剛造詩集『黄金詩篇』昭和45年(1970年)より

吉増剛造詩集『黄金詩篇』 昭和45年(1970年)3月・思潮社刊 現役詩人のなかで巨匠格にしてもっとも旺盛な活動を続けているのが吉増剛造(1939-・東京生れ)で、国際的評価も高く、もし次のノーベル文学賞が日本の詩人から選出されるなら最大の候補と目されてい…

岡田隆彦詩集『史乃命』昭和38年(1963年)より

『岡田隆彦詩集成』 令和2年(2020年)4月1日・響文社刊 「史乃命」 岡田隆彦喚びかける よびいれる 入りこむ。 しの。 吃るおれ 人間がひとりの女に こころの地平線を旋回して迫っていくとき、 ふくよかな、まとまらぬももいろの運動は 祖霊となって とうに …