人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

亡き友人からの贈り物

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堀口さんはぼくより5歳年上、人に紹介されすぐ親しくなった。病気になる前はローリング・ストーンズ・ファンクラブの重鎮だった人だ。ストーンズの話題になると尽きなかった。5歳年上は大きい。ボブ・マーレイやO.V.ライトも見ている。
堀口さんはリンパ腺癌で3年前に声帯を失い、ボイス・チェンジャー(?)で話すこともできるのだが、ご存知のかたならあれがどれほど不完全か察せられるだろう。ストレスも大きい。
堀口さんもジェスチャーや筆談の方を好んだ。ぼくは堀口さんの話を要約・確認しながら会話を進めた。はたで見る人には異様だったろう。ふたりの男がいて、ひとりはメモ用紙に書いたりジェスチャーしたり始終無言、もうひとりはひとり言だと思えるほどひとりふた役分の言葉をしゃべっている。

リンパ腺癌は癌の中でももっともつらく、タチの悪い癌だ。いつどこに転移するかわからない。放射線治療もつらく、日常的に全身を苦痛にさいなまれる。声帯切除以来の堀口さんは専業主夫をしていて、よくスーパーで顔をあわせたものだ。鉛筆デッサンが趣味で、昨年の年賀状は忌野清志郎が描いてあり(印刷やコピーではなく)「術後2年のジンクスを乗り越えました/まだまだ死にません」とあった。これが最初で最後の年賀状になったのだが。

その春先ぼくは信仰上の悩みから酒浸りになり、アルコール依存症の専門病院に学習入院することになった。堀口さんは体の具合が悪いのをおしてエリック・クラプトンの自伝(後半はほとんどアルコール依存症を克服するまでの闘病記になる)と、ぼくの入院のために描いてくれたミックとキースの2ショットのデッサンをパウチまでして贈ってくれた。
キースがドブロを弾いている、ということはアコースティック・セットだろう。「放蕩むすこ」それとも「むなしき愛」ですか、堀口さん?
答えは返ってこない。

学習入院から出てきた後、ぼくは同期入院の女性(人妻)と不倫関係に陥った。軽い躁と鬱を繰り返して12月にはこれまでで最悪の躁状態から緊急入院した。
退院は3月上旬までかかった。女性との関係も1か月だけ再開し、最終的にぼくからおしまいにした。
退院してたまった郵便物の中に、堀口さんの訃報と葬儀は済ませた旨、喪主の奥さまから便りがあった。1月上旬。
でもあなたには天使の羽根がありましたね。
音楽。