初期の代表作をひと通り発表し、短い休筆期間から中期の代表作となる「陰獣」でカムバックした時、「新青年」誌のキャッチコピーは「あの懐かしの江戸川乱歩が帰って来た!」というものでした。まだデビューから5年なのにどれだけ大きな存在感を示していたか物語るエピソードとしてよく語られる「乱歩伝説」のひとつです。探偵小説作家で正五位・勲三等の受勲者になったのも乱歩というブランドが個人を越えてジャンル全体の元締めになったからでしょう。
乱歩の作品は小説としての完成度において当時の探偵小説界では抜群のものだった、さらに都会小説としての魅力を湛えていた、と前回でも指摘しました。これはほぼ同時期アメリカの推理小説をヴァン・ダインが刷新した方法と似ています。乱歩同様筋金入りの推理小説マニアでディレッタント、売れない美術批評家だったヴァン・ダインは病気療養中に入手可能な推理小説を数千冊読破し「おれならもっと上手く書ける」と処女作を書き上げ、刊行まもなく国際的なベストセラーになりました。
都会小説としての探偵小説は始祖E.A.ポオにも見られますが、短篇シリーズとして確立したのはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズになります。職業探偵が暴く都会の闇。結局ここに帰っていくのです(ぼくは40過ぎて仕方なく再読しましたが、ブタ箱の中ではちっとも面白くありませんでした)。
ホームズの真の魅力を見抜いてニューヨークや東京に生かしたのがこのふたりといえるでしょう。今や都市小説としての探偵小説というのが当たり前になっていますが、それもドイル、乱歩、ヴァン・ダインといった先人あってこそなのです。(まだ続く
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