人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

萩原恭次郎『日比谷』

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萩原恭次郎(1899-1938)は群馬県生まれ、高橋新吉(1901-1987)とともに日本のダダイズム詩を代表する詩人。第一詩集「死刑宣告」1925の刊行は高橋の第一詩集「ダダイスト新吉の詩」1922以上に新しい詩の事件として迎えられた。同郷の萩原朔太郎(姻戚関係はない)も、芸術的な未熟さを指摘しながらも誠実な創作態度は新進詩人中随一と賞賛を惜しまなかった。
この詩集が注目を集めた理由のひとつは、前衛美術作家たちが大挙して装丁、美術を手掛けたことにもよる。残念ながら引用では再現できないタイポグラフィ(活字の多様な使用)もある。それらを差し引いても、萩原の詩は強烈な訴求力がある。

『日比谷』

強烈な四角
鎖と鉄火と術策
軍隊と賞金と勲章と名誉
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く聳える
首都中央地点--日比谷

屈折した空間
無限の陥穽と埋没
新しい知的使役人夫の墓地
高く 高く 高く 高く 高く 高く より高く より高く
高い建築と建築の暗闇
殺伐と虐使と戦争
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く
動く 動く 動く 動く 動く 動く 動く
日 比 谷
彼 は 行 く--
彼 は 行 く--
凡てを前方に
彼の手には彼自身の鏡
虚無な笑い
刺激的な貨幣の踊り
彼は行く--

黙々と-墓場-永劫の埋没へ
最後の舞踏と美酒
頂点と焦点
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く聳える尖塔
彼は行く 一人!
彼は行く 一人!
日 比 谷
(詩集『死刑宣告』より)

高橋は精神疾患で長い入院生活を余儀なくされ、萩原のキャリアは処女詩集をピークに下降線をたどった。ダダはアナーキズムからコミュニズムへ主流が移り、作品発表への露骨な弾圧が行われる。
第二詩集「断片」1931はこの時期の苦渋に満ちた無題の断片59篇を収める。朔太郎からの激励を受けたが、高橋のやはり断片的詩集「戯言集」1934の奔放さとは対照的な閉塞感を感じさせる(高橋はコミュニズムに向かわなかったことも大きい)。だが、晩年に向けての『もうろくずきん』詩群は詩人の新しい達成を予感させるものだった。