萩原恭次郎『日比谷』



この詩集が注目を集めた理由のひとつは、前衛美術作家たちが大挙して装丁、美術を手掛けたことにもよる。残念ながら引用では再現できないタイポグラフィ(活字の多様な使用)もある。それらを差し引いても、萩原の詩は強烈な訴求力がある。
『日比谷』
強烈な四角
鎖と鉄火と術策
軍隊と賞金と勲章と名誉
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く聳える
首都中央地点--日比谷
屈折した空間
無限の陥穽と埋没
新しい知的使役人夫の墓地
高く 高く 高く 高く 高く 高く より高く より高く
高い建築と建築の暗闇
殺伐と虐使と戦争
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く
動く 動く 動く 動く 動く 動く 動く
日 比 谷
彼 は 行 く--
彼 は 行 く--
凡てを前方に
彼の手には彼自身の鏡
虚無な笑い
刺激的な貨幣の踊り
彼は行く--
点
黙々と-墓場-永劫の埋没へ
最後の舞踏と美酒
頂点と焦点
高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く 高く聳える尖塔
彼は行く 一人!
彼は行く 一人!
日 比 谷
(詩集『死刑宣告』より)
高橋は精神疾患で長い入院生活を余儀なくされ、萩原のキャリアは処女詩集をピークに下降線をたどった。ダダはアナーキズムからコミュニズムへ主流が移り、作品発表への露骨な弾圧が行われる。
第二詩集「断片」1931はこの時期の苦渋に満ちた無題の断片59篇を収める。朔太郎からの激励を受けたが、高橋のやはり断片的詩集「戯言集」1934の奔放さとは対照的な閉塞感を感じさせる(高橋はコミュニズムに向かわなかったことも大きい)。だが、晩年に向けての『もうろくずきん』詩群は詩人の新しい達成を予感させるものだった。