人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

『ラヴ・マイナス・ゼロ~』

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 今回のボブ・ディラン(1941-)は原題'Love Minus Zero/No Limit'、アルバム「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」'Bringing It All Back Home'1965収録で、これは何枚もあるディランの重要アルバムでも最重要に挙げられる作品。まずサウンドがロック化したこと(B面はエレクトリック・フォークだがビートはロック)、さらにディラン独自の歌詞の完成。それまでも優れた詩人だったディランだが、ここから3作ではそれまでのフォーク的なスタイルでは発想されなかった特異な題材や表現技法が開花し、後続の異端バンドであるフランク・ザッパ&ザ・マザース・オブ・インヴェンション(66年デビュー)やザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(67年デビュー)への道を切り拓いた。加えてジ・アニマルズとサイモン&ガーファンクルは、なんとすべてプロデューサーが一緒。一緒といえば今回の曲は同じアルバムの『シー・ビロングス・トゥ・ミー』と双子のような作品だろう(最終行はポオか?)


『ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット』

ぼくの恋人は沈黙のようにしゃべる
理想も暴力もなしに
彼女は誠実さも誓わなくていい
氷のように、火のように、彼女は真実だから
人びとはバラをたずさえ
時間割で約束する
ぼくの恋人は花のように笑い
聖ヴァレンタインでも彼女を買うことはできない

10セント均一店やバス駐車場で
人びとは世相について語ったり
本を読み、繰り返し引用して
壁に結論を描く
未来について語る人もいるが
ぼくの恋人は控えめにしゃべる
彼女は成功ならば失敗ではないし
失敗は成功ではないと知っている

マントと短刀がぶら下がって
貴婦人はロウソクに火を点す
それは歩兵たちもが恨みをいだく
騎士のための儀式だ
マッチ棒で造った彫像が
ひとつに崩れおちる
ぼくの恋人はウィンクする、彼女は気にしない
彼女は議論や判定するには知りすぎているから

真夜中の橋は震えて
田舎の医者はぶらつく
銀行家の姪たちは完全を求めて
賢者たちの贈り物を待ち望む
風は槌のように吠え夜は
冷たく吹き雨になる
ぼくの恋人はまるでぼくの窓にとまり
傷ついた羽根を休めるカラスみたいだ
 (前記アルバムより)