人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ドライヤー『裁判官』『あるじ』

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 カール・Th(テホ)・ドライヤーと書くだけで気合いが違う気がする。デンマークの巨匠といえばラース・フォン・トリアーではなくこの人だった。活動歴はサイレント期からヌーヴェル・ヴァーグの時代にまでおよぶ。
 かつて大島渚が「やはり映画作家はフィルモグラフィ(作品歴)だと思う」「そうなると、ドライヤーは一番立派ですね」と賞賛していた。1918年の第1作から1927年の衝撃的な「裁かるるジャンヌ」(下)までサイレント9作品を国際的にヒットさせ、トーキー時代は10年1作主義で4本の傑作を制作する。「吸血鬼」1931年・「怒りの日」1943年・「奇跡」1954年・「ゲアトルーズ」1964年。妥協の一片もない張りつめた映像は模倣者たちにはなし得なかったことだ。

 改めて調べてみると、私生児に生れて孤児院で育ったという。1889-1968。DVDで主要作のリマスター版が揃っているのは嬉しい。
 今回YouTubeで見たのは第1作「裁判官」Praesidenten(94分・B/W着色・上)でこれは幼い子供を殺した若い女が生き別れになっていた娘と知った裁判長の苦悩を描いて、あまり面白くない(ベストセラー小説の忠実な映画化、という制約があったようだ)。
 ドライヤーの国際的ブレイクは次作「サタンの書の数頁」1919で、人類の歴史を裏で操るサタン、というオカルト映画だったがこれもきつい。ドライヤーは「ジャンヌ」とトーキー作品の計5作で残る人だろう。
 だがサイレント期にヒットしたコメディ「あるじ」Du Skal Are Din Hustru(1925・中)がある。携帯で見直しても楽しめるだろうか?

 これが今見ても初めて見た時と同じ程度に味わいのある古くささだから実にのんびり楽しめた。内容は、わがまま放題の夫に奥さんが疲れきってしまい(中学生の娘、小学生の息子、1歳の女児もいる。お手伝いさんは雇っていない。都市部の賃貸アパートのようだ)、時々お手伝いにくる夫の乳母のおばあちゃんが爆発して奥さんを実家に帰し、わがまま夫の調教に乗り出して大成功する、という話だ。字幕「3週間後、彼はナナが乳母だった頃の頼りない少年に戻っていた」という調子(戯曲の映画化だそうだ。北欧は本場だもんな)。
 この巨匠、もっと多彩な才能だったのかもしれないな。