人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

シャンタル・アケルマンの映画

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 ベルギー出身のパリ在住映画作家シャンタル・アケルマン(Chantal Ackerman/写真上・1950-)は初期には女性として(しかもレズビアンとして)、ユダヤ人として(祖父母の代は強制収容所で虐殺された)、またフリーランスの自主映画作家である被差別をテーマにモチーフをつかんだ。初期の作品から辿るとアイドル歌手リオ主演のミュージカル映画「ゴールデン・エイティーズ」1986の監督経験がアケルマンの視野を拡げたのがわかる(同時制作のメイキング記録映画「80年代」で作者自身が告白している。これは彼女の初の商業映画でもあった)。

 70年代のアケルマン映画の代表作を見ると処女長篇「彼、彼女」1973は10年後のジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイス」に直接影響があったとしか思えないB/W・三部構成・90分のオフビートな青春映画で、アケルマン自身がヒロインを演じている通り自伝または日記的なものだ。第三部では30分間黙々とセックス(同性愛の)シーンになるが性的な刺激はまるでない。
 70年代の代表作の締め括りは「アンナの出会い」1978(写真下)で、これは完全にアケルマン自身をモデルの若い女ユダヤ系自主映画作家の作品上映ツアーを描いたもの。ツアーと共に孤独は深まる。男女の愛人・恋人もいるが会えないし満たされない。「彼、彼女」の5年後の姿として成熟した視点が感じられる。
 ラスト・シーン。友人や恋人の家を訪ねてやっと自宅に帰る。寝室で荷ほどきをしながら留守番電話を聞く。いつまでも流れ続ける留守番電話。

「彼、彼女」と「アンナの出会い」の間にあってアケルマンの評価を決定したのが1975年の「ジャンヌ・ディエルマン」'Jeanne Dielman,23,quci du Commerce 1080 Buruxelles'(写真中)になる。タイトルは「ブリュッセル1080-23」という架空の住所でヒロインの無名性を表す。「去年マリエンバートで」(アラン・レネ)や「ミュリエル」(同)の耽美的な映像で頽廃的なヒロインを演じたデルフィーヌ・セイリグが平凡な母子家庭の自宅売春主婦を演じる。3時間の映画で描かれるのは半日ずつ・2日間の出来事だけで、2日目は1日目の繰り返し。これ以上はネタバレになる。
 これが70年代の最重要映画かはYouTubeでお確かめください。私も25年ぶりでした。