人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

西脇順三郎『体裁のいい景色』1

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西脇順三郎(1894-1982)は新潟県小千谷市の名家に生まれ、経済学を学びつつも英文学に転向。ロンドン留学中の英文詩集「スペクトラム」1925刊行後帰国し慶應義塾大学英文学科教授に就任、古典はもとより最新のヨーロッパの芸術思潮を紹介しつつ自作を発表したが日本語の詩には慎重で、萩原朔太郎以外の日本の詩人からは学ばなかったという。シュールレアリスムに(超現実主義)に対してシュールナチュラリズム(超自然主義)を標榜した日本語の処女詩集「Ambarvalia」1933(40歳)刊行の後は敗戦まで一切の詩作を公表せず、戦後に内省的な傾向が強い長篇詩「旅人かえらず」と処女詩集の改作「あむばるわりあ」を同時刊行(1947・54歳)、続く傑作詩集「近代の寓話」1953(60歳)で大詩人の地位を不動のものにした。1975年夫人逝去、既刊の全集から全詩集・散文選集を「詩と詩論」全6巻に精選し、事実上の引退に入る(82歳)。1982年、郷里小千谷市で老
衰逝去(88歳)。ご紹介する作品は帰国直後(大正15年)に発表されながら「近代の寓話」に採録されるまで詩集未収録だった連作。全35篇を5回分載でご紹介する。

『体裁のいい景色(人間時代の遺留品)』

(1)
やっぱり脳髄は淋しい
実に進歩しない物品である

(2)
湖畔になるべく簡単な時計を据付けてから
おれはおれのパナマ帽子の下で
盛んに饒舌ってみても
割合に面白くない

(3)
郵便集配人がひとり公園を通過する
いずこへ行くのか
何等の反響もない

(4)
青いマンゴウの果実が冷静な空気を破り
ねむたき鉛筆を脅迫する
赤道地方は大体においてテキパキしていない

(5)
快活なる杉の樹は
どうにも手がつけられん
実にむずかしい

(6)
鈴蘭の如き一名の愛妻を膝にして
メートルグラスの中にジン酒を高くかざして
盛んに幸福を祝う暴落は
三色版なれども我が哀れなる膏薬の如き
壁に垂れたること久し
青黒き滑稽なる我が生命は
鳳仙花のようにかなり貧弱に笑う

(7)
結婚をした女の人が沢山歩いている
気の弱い人は皆な驚く
(「三田文学」1926年11月)