人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(補2d)レニー・トリスターノ(p)

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

Lennie Tristano(1919-1978,piano)。
今日でこそ発掘録音や復刻CDでつぶさに楽歴を追える(ほとんど聴かれていないが)とはいえ、50年代のトリスターノはレコードは廃盤、ライヴも滅多にやらないとあって、すっかり過去の人になっていた。そして発表されたのが6年ぶりの新作で初のフル・アルバムである、
「鬼才トリスターノ」Tristano(画像1)54-55,55.6.11
-だった。これはトリオとソロによる自宅スタジオでの実験的多重録音4曲と、コニッツを迎えたワンホーン・カルテットのライヴ5曲からなる。多重録音自体が先例のない試みでまたもや問題作となった。'Line Up','Requiem'(パーカー追悼曲),'Turkish Mambo','East Thirty-Second'がそれに当たる。いずれもトリスターノのオリジナルで、確かにこんなジャズは前代未聞だった。

コニッツとのライヴは21曲が録音され、80年代になって全曲が発表された。現行CDでは、
Live At Contucius Restaurant(画像2)55.6.11
-がそれで、スタンダードとトリスターノのオリジナルに、パーカーの'Donna Lee'もやっている。このライヴも問題で、コニッツはトリスターノに決別宣言して参加を許諾したという。ピアノ・トリオとアルトサックスの間に虚ろな断絶がある。個々の演奏は悪くないために評価の難しい作品になっている。
普通のCDショッブで入手できるトリスターノ作品はリー・コニッツ名義の「サブコンシャス・リー」と、この「鬼才トリスターノ」、62年のソロ・ピアノ作品「ニュー・トリスターノ」の3枚しかないため、トリスターノは寡作で難解という印象がついてまわる。だが寡作も難解もトリスターノ自身が選んだ道だった。

没後の80年代に発表された自宅スタジオ録音のピアノ・トリオ作品、
New York Improvisations(画像3)55-56
-はトリスターノ自身が未発表にしていたアルバムだが、オリジナル2曲とスタンダード7曲がすっきりと明快に演奏されており、生前に発表されていればトリスターノのイメージが変わっていただろうと思わせる佳作。これをあえて未発表にした意図を思うと、トリスターノの頑なさに唸らずにはいられない。