Andrew Hill(1931-2007,piano)。
前回掲載の「グラス・ルーツ」は良くも悪くも当時の時流と違和感がなく、あれだけ偏屈な曲を書いていたヒルが普通のエイト・ビート・ジャズを書いている。名手リー・モーガンとブッカー・アーヴィンがフロントのクインテットでこの二人の調子もいい。ところが2000年のCD化で本番の8月録音に先立つ4月録音が発掘され、全5曲中3曲がダブる没セッションなのだが、ウディ・ショーはじめ若手でメンバーを固めてギターも加え、こちらの方がヒルらしさも出ておりバンドも溌剌としている。
だがブルーノート社はヴェテランたちで再録音させ、そちらもさすがの出来だったがヒルらしさは薄れてしまった。難しいものだ。
次の、
Dance With Death(画像1)68.10.11
-はまたもや没になり、80年代にようやく陽の目を見た。「グラス・ルーツ」本番では外された美しいバラード'Love Nocturn'をやっている。アルバム名や'Black Sabbath'(!)など不吉な曲名で、ジョー・ファレル(テナーサックス)、チャールズ・トリヴァー(トランペット)がフロントの2管クインテット。ヒルらしくて陰鬱ないいアルバムだが、それはすなわち没ということになった。
次の二作は録音年が前後しており、
Lift Every Voice(画像2)69.5.16(&70.3.6,13)
Passing Ships(画像3)69.11.7&14
-で、前者の69年5月録音がヒルのブルーノート時代最後の発売作となる(後年の発掘未発表作は除く)。2001年のCD化で続編の70年3月録音6曲が発掘追加された。編成は男女混声合唱+クインテットで当時流行りのもの。今聴くと変だ。
後者は中規模ビッグバンド(9人編成)で、これも当時の流行り。こちらはヒルらしい作風で、案の定没になり2003年のCD発売まで発掘されなかった。乗りのよい'Sideways'や美しいタイトル曲など悪くないし、大編成の試みには成功しているがヒルのピアノは埋もれてしまっている。
そしてヒルは70年でブルーノート社の契約が切れ、一時引退する。
だがブルーノート社にはまだヒルの未発表作があり、5枚分のアルバムが2006年に発掘された。次回でご紹介する。