人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出9

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こんな冗談みたいな理由で(以下同文)というのも二度目ではもう諦めがついていた。以前別の病院に入院した時お世話になった作業療法のドイ先生の言葉を思い出した(ドイ先生は音楽療法の先生なので、精神科医ではない)「お医者さんなんて病名つけるのが仕事なのよ。神さまの目から見れば、病気なんかないの」
だから今度は、「なぜですか?」から始まる、虚しい押し問答はしなかった。かつては離婚の際に人の世のルールで有罪者になったことがある。今回も人の世のルールでアルコール依存症と断定され入院の責務を負う。こんなカフカ的な、あるいはキャッチ22的な状況はもう日常的な感覚になっていた。

アベさんは「アル中病棟の思い出8」まで読んで、
「ああ、ありましたね。入院仕度が膨大で、入院のしおりを見て、実家にカバンを借りに行かないと、とか話したのを憶えてますよ。あれがもう三年半前になりますか」
「記憶とちょっと違うな。では受診してきて、入院決定してから最後の訪問看護があったわけですね」
「ええ、話した憶えがありますよ」
「アベさんも別の病院に移られるから、訪問看護でお会いするのもあとひと月、くらいですか。お世話になりっぱなしでした。ありがとうございました」
「いや、佐伯さんがご自分で立ち直られたことですから、少しお手伝いしただけです。でも今こうして入院のことを振り返えられているのは、また、なぜ?」

「結局、今になると入院して良かったな、と思えるからです。退院後に余計なこともありましたが、二年以内に再入院率九割以上というのもクリアして、あの頃の自分にも距離がおけるようになった。それで少しは客観的になれるとわかったので、なるべく丹念に書いているんです。毎日、少しずつ」
「8でまだ入院していないんですからね(笑)」

アベさんは笑って、「佐伯さんが、最後に退院してしばらくはいろいろありましたが、それも落ち着いた頃から、考え方が変った、とおっしゃってたじゃないですか。それがとても印象に残っているんです。それから本当に良い方向に変られたと思いますよ」
「ようやくまともな出発点についた、というだけですけどね。でもいつもその繰り返しだから。今だって後から振り返れば間違いだらけかもしれない」
「それはぼくにもわかりません(笑)」
とアベさんは笑った。