人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出45

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・3月21日(日)晴れ
〈祝・春分の日
(前回から続く)
「それに陽性症状なんだよな、とKくんが余計な口を挟む。陽性症状?症状が活発な状態です。程度が進むと幻覚や妄想が始まりますが、本人にとっては真実なんですよ。いくらなんでもカリフォルニア州立大学医学部17歳で卒業はないよなとKくん。また、すぐに気が変わって落ち着きがなくなります。陰性症状というのはその逆の状態になります。ふーん、とUzさん。説明したって仕方ないのだが(注1)、少し立ち止まっているうちにKくんたちはもう先の交差点まで行ってしまい、気づくと先に行っていたはずのHAが一周してYzさんを拾ってきたらしく二人で後方から歩いてくるのが見えた。あいつはミトコンドリアか(注2)?」

「M市もこのへんは落ち着いていていいですね、とHA(注3)。うん、とYzさん(このふたりはHAが初入院した小学3年だか4年以来繰り返し入退院して15年来の顔馴染みなので親しい)。立ち止まって彼らを待ち、ようやく追いついてきたのでひと声かけてUzさんと先頭組に追いつこうと少し急ぎ足になると、何かとちょっかいかけてくるんだよね、あの黒縁メガネ、と明らかにこちらを指してでかい声でHAが言っているのが聞こえた(注4)。ちょっかい?思い当たるのは昨日彼女が買い物に出るのに相談され、行き帰りのバス時刻を調べてやった。他に一対一の場面はないはずでいつも集団内での雑談程度のはずだ。嫌な気がした(注5)」

(注1)Uzさんは二十歳で結婚の翌年、お嬢さんを出産直後にご主人を亡くしホステスの仕事をしながら母子家庭でお嬢さんを育て上げた。お嬢さんが結婚して家庭を持つと孤独感からアルコール依存症になった。職業経験上自分から訊いておいて聞き流す習慣があるしすぐに忘れる人なのだ。
(注2)昔の仕事仲間Kmくんの口癖。常識の通用しない人間を指す。彼はRという世界的に有名(国内的に無名)な前衛ロックバンドのメンバーでもあったから他人のことは言えない。
(注3)落ち着かないのはお前だ、HA。
(注4)出た。この後こいつに悩まされることになるのだ。HAは統合失調症に加えナルシシズム+演技型人格障害(推定)から男性患者に自分はモテている→ウザいというはた迷惑な妄想(なぜなら私は美人だから)を持っていた。
(注5)こういう嫌な予感ほど当る。