人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記76

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・3月25日(木)雨
(前回から続く)
「便秘が続くのは明らかに服薬のせいなので、昨日と今日は服用錠数を数えてみた。単純に錠数では判断できない。薬物の種類と種類ごとの処方量から算定しなければならないのだが、院内処方だとこちらから所望しないかぎり処方箋の説明書つき患者控えが渡されないのだ。今は医療の現場でも処方薬局ではコンプライアンスの義務が定着しているし、通院患者には処方のたびに説明書が渡されていると思われる。だが入院患者については看護自体がコンプライアンスを代行している、ということなのだろう」

向精神薬による胃腸の不調は下痢ではなく硬便による便秘として排泄に影響を及ぼす。精神入院を経験するまで知らなかったのは、自分自身はそうならなかったからだった。服薬は食事ごと、また就寝前にナースステーションで行われるのがだいたいどの病院の精神病棟でも共通していて、そこが同じ病院でも内科や外科の入院病棟とは違う。精神病棟というのは、短期入院のほんの一部の急性症状患者以外は慢性化患者の長期居住施設であり、一般の精神科であれば一割の急性患者と九割の慢性患者というのが三軒の精神病棟に入院してきた見聞になる」

「慢性患者は少なくとも半年、大半は二年~十年以上を入院し、20代で慢性入院した人では30年以上の入院歴になる(老齢の)患者も多い。二軒目に入院した病院では精神病棟の統計として半年未満の退院率78%と発表されていた。なぜ憶えているかというと78%というのは出版業界の人間ならわかる数字で、新刊書の卸値掛け率だからだ。大雑把に言うと精神病棟に入院する八割の患者は回復するが、二割の患者は残留する。それが病棟では一割の急性患者、九割の慢性患者という比率になる。退院していく患者は一割しかおらず九割は常に残る。半年未満退院率78%とは言えむしろ退院できない比率の方が問題になる」

「だから行列させて順次服薬させないと患者の数を捌けない。その人たちの服用している一回あたりの薬の量は途方もなかった。服薬しながら日常生活している病人の10倍相当になるのではないか。就寝前の服薬時には便通と希望する液状下剤の分量を訊かれる。普通の便秘なら3~5滴で効く。だが誰もが毎晩30滴以上飲んでいた。向精神剤だけでなく閉鎖病棟では日常運動も少ないからだ」(続く)