人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記140

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・4月3日(土)晴れ
(前回から続く)
「…とりあえず上田さんと片岡さんへの共通メールはいちばん詳細に書くことにする。内藤先生に直接詳しく書くより、上田さんたち経由で伝わった方がいい。訊ねられても濁したほうがいいこともあり、それには上田さんたちにフィルターになってもらったほうが無難な面もある。これはずるいことではないだろう。入院中の人間というのはいわば抽象的存在で、早い話が幽霊みたいなものだ。間接的に知らされたほうが信憑性も高いということもあるだろう。自分自身に照らしても、本人から直接知らされたことより他人を介して知った方を客観的状況と捉える場合があった」

「それぞれの宛名を上書きして内容と照合し、さて、と考えていると、あらひさしぶり、と女性が声をかけてくる。これから買い物に行く様子。一瞬戸惑ったが思い出した。第三病棟から第一病棟(一般精神科)へと移ったはずのSaさんだ。第三病棟は一般精神科とアルコール科への待機患者か、もしくは慢性化患者という混合病棟なので学習プログラムは当然ないからデイルームの席も自由なのだが、Kくんと同室だったので看護婦に同じテーブルに案内され、そこでSaさんと同じ食卓になることになった。席は自由といってもやはり各自が座る席は決ってくるし、案内された席を変える理由はないし、部屋が一緒だから食事も同じテーブルだと決めてかかっている男がいる」

「Saさんはわれわれよりは少し年上の40代の主婦だが話好きの明るい女性で、どんな事情で彼女が入院しているのか想像ができなかった。話好き、ただしプライヴァシーがうかがえるような話題は一切出なかったしこちらから詮索もしない。Kくんも、あとでよーくわかったが、嫌いな相手のことはさんざん詮索するが好意を持っている相手は詮索しないという性格だから、彼とSaさんについて話題にすることもなかった」

「まだKくんともども第三病棟にいるうちに(Kくんは一般精神科だが急性症状による短期入院だったので少なくとも第一病棟に移る可能性はなかった)Saさんは第一病棟に移ることになった。必ずしも長期入院予定の慢性化患者と決ったわけではないが、現時点では退院は経過観察次第ということになる。これまでの入院経験ではSaさんほど何ら目立った様子もない人が慢性化の兆候を診断されている例は思い当たらなかった」(続く)