人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記162

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(人名はすべて仮名です)
・4月8日(木)晴れ
「気持のよい晴天、単調な入院生活。もう第三病棟から第二病棟に来て一か月になる。朝の会の後で渥美さんとコンビニへ。買い物の用は当座はなく、近々ボールペンは切れそうだがマンガの立ち読みにしよう。これまでは柳瀬さんと行っていたが身体障害・知覚障害のある渥美さんの単独外出はちょっと危ない。新聞と牛乳、菓子パンなどを渥美さんが選んでいる間、週刊文春小林信彦近田春夫の連載コラムを立ち読み。ここのコンビニは『世界』はもちろん『中央公論』、『文藝春秋』すら置いていない。あの辺あると単行本数冊分のヴォリュームがあるから暇つぶしにはもってこいなのだが」

「文房具の値段はどうだろう、高くて良いのもなかったら冬村さんや勝浦くんがよく市街地まで買い物に行くから頼むか、外来受付からパクろう、と眺めていたら、渥美さんが、買うの?今度ボールペンを。今日はお金を持ってこなくて、下見です。どれ?いいからいいから、と渥美さんが一本買ってくれる。昨日は勝浦くん・清水くんとすれ違ったが、今日はお照さんと木島さんに帰り道で追いついた。病院入口のチューリップの花壇がきれいだ。…檀門先生の診察は明日の午後に繰り越しになる」

「朝の会直後に渥美さんは担当看護婦の根島さんに昨夜仕上げた酒歴を提出していたが、四項目ほど詳細に追加事項を書き足すように朱書きされて戻ってくる。大差ないのだが、いちいちあら探ししてダメ出ししなければ気が済まない性格なのだ。根島看護婦はこれ読みなさいと本を押しつけてきて、それなりに面白かったので冬村さんも読みたいそうだから根島さん本人の了解を得て冬村さんに回した。数日後に早く返せとこちらに文句を言ってきて、以来要するに口うるさい人なんだなと直接接触は避けているのだ」

「昼食を挟んで、午後はグループ・ミーティング。今回から上級クラスに移されていた。発言順が最後になり、だいたい飲酒の様態、酒害の実経験など10人もいれば、しかも複数回答ならなおのこそ出揃っているので、パス、の一言で止めにした。松本さんが気を効かせて(さすが大会社社長)、人間は一日24時間、これは平等だから後はどう使うかだと思うよ、と新米そうな司会の精神保健福祉士さんをホロリとさせる、なごやかな納めかたをした」
(続く)